第41話 時の旅人
「このたびは本当にご苦労様でした、メシヤくん」
レオンのボロアパートの一室に訪問しているメシヤ。書棚には小難しそうな歴史や物理・数学の本が並んでいる。
「エメラルド・タブレットは無事ゲットしたけど」
「はい」
「やっぱり使い方が分からない!」
「これは俗に言う賢者の書です」
「てことは、この石版はアカシックレコードみたいなもの?」
「その通りです。全宇宙の始まりから終わりまで、すべての出来事が克明に記録されています」
「ああ、やっぱり宇宙にも終わりがあるんだね」
「誰かが死んでも、新しい生命は生まれてくるでしょう? 宇宙もそれと同じですよ」
「理屈では分かるけど、でも大きな災害や戦争なんかで人類絶滅なんてこともあるんじゃない? そしたら新しい生命も生まれようがないよ」
しばし沈黙したあと、奈保は口を開いた。
「宇宙の始まりについて、考えたことはありますか?」
「ビッグバンじゃないの?」
「そのように言われていますね。ではビッグバンの前は何もなかったのでしょうか?」
「それは・・・・・・宇宙があったんじゃないの?」
「それでは堂々巡りです。改めてお聞きします。この宇宙の始まりは?」
「僕には・・・・・・分からないな」
「無から有は生まれません。プラスとマイナスの素粒子が打ち消し合い、ゼロになっている状態を無と呼んでいる人間はいますが、決して何もないわけではありません」
「レオンくん、君はいったい・・・・・・」
「私は、時空の狭間から、あなたに逢いに来たのです」
「僕は・・・・・・誰?」
「あなたは、アルファであり、オメガである。全宇宙・全時間の中心点にして、人類の
メシヤは驚きを隠せない。いまは神妙な面持ちで、レオンの言葉に聞き入っている。
「メシヤくんは、時間というものをどのように捉えていますか? あるいは、空間は?」
人はいつか、時空をも支配することができるさ! ってなことを夢見るけど、現実には難しいのかな? なんて思ってたよ」
「光速を突破すると、時間は逆戻りする、という話を聞いたことがあると思います」
「SFの定番だね。でも光速を突破することは不可能でしょ?」
「物理的な実体物はそうかも知れません。ですが、我々は宇宙の果てを想像することは出来ますし、過去にも未来にも思いを馳せることが出来ます。つまり―――」
「人の想いは、光速を突破する―――ってことかな?」
「その通りです」
「古代人、現代人、未来人、それぞれがどの時間ベクトルへ向かっても意識を飛ばすことができます」
「時空を超えて、その意識が影響し合うって考えたら、壮大なロマンだね」
レオンとメシヤは、話と心が通じ合い、にこやかにしている。
「いつまでも若い人というのがいるでしょう?」
「いるね」
「宇宙ロケットに乗るとわずかに時計に遅れが出ます。速く動くと時の流れが遅くなるわけです。あの現象がいつまでも若い人に、起こっているのですよ」
「思ったことはすぐに行動する人かな? 頭の中の思考が光速を超えていると」
メシヤのセリフを聞いて笑みを漏らすレオン。
「失礼しました。まさにあなたのことだなと思いまして」
レオンは話を続ける。
「時間はすべての人に平等。私達はこう諭されてきました」
「そうだね」
「ですが、実際は平等ではありません。何も行動しない人の時間速度は、とても速く流れます」
「だけど、楽しい時間は速くすぎるって言うよね」
「あの感覚は、まだ時の法則の入り口です。真の悟りの境地になると、楽しい時間を長く味わうことが出来ます」
「無敵、だね」
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