第26話 お釈迦様には内緒だよ
めし屋フジワラの裏庭に出る二人。日本建築では南面を広く取りがちだが、藤原家は四方向をうまく使えるように、建物が敷地の中央にある。
「見てろよ」
左手で鳳雛剣を抜く。弱火にするため軽く握った。外している指もある。柄と同じ長さ程度の刀身があらわれた。その炎の塊を、煤だらけの聖杯に向けて放った。
みるみるうちに、聖杯が赤く焼けて光りだす。
「うわあ、刀鍛冶さんみたい!」
「叩いてもいいぞ」
「トンチンカンになりそうだから、やめとくね。でも、なんでそんな弱火なの?」
「あんまり強火にするとオシャカになるからな」
「オシャカ?」
「よくぞ聞いてくれた。オシャカとはあのお釈迦様のことなんだ。お釈迦様は4月8日生まれ。シガツヨウカだった→シガツヨカッタ→火が強かった、ってことなんだよ」
「お兄ちゃん、ダジャレばっかり!」
「これは俺がっていうよりも、日本人というのは、古来より言葉遊びを好んできた民族なんだよ。和歌も掛詞ってあるだろ? 暗号文なんかでも文字の変換作業はダジャレ好きのほうが向いてるんだよ」
「そんなこと言ってると、オシャカになるよ!」
「おっと、そうだった」
メシヤは鳳雛剣を持ち替え、右腰の鞘に納め、納めた右手で、左腰の臥龍剣を抜いた。
「そらよっ」
勢いよく聖杯を丸洗いして、急速冷却した。すると、聖杯は本来の輝きを取り戻し、キラキラとその表面に顔が映るくらい綺麗になった。金色の、宗教的な儀式で使われるような代物だった。
「いくら金が錆びないっていっても、あれだけ泥やホコリにまみれてたら、目も当てられないな。作り主も浮かばれないぞ」
「パカパパッパンパーン♪」
マナが口でファンファーレを鳴らした。
「お兄ちゃんはレベルが上った! なんと、聖杯の復元を覚えた!」
「なんだよ、それ。でも、熱を加える、冷やすの工程で、もっと色々できそうだぞ」
「特大キャンプ鍋サイズのクリームブリュレにジェラートも作れそうだね」
「ああ、それくらいなら楽勝だな」
頼もしいことを言う兄。
「だけど、食材費が大変だぞ」
やはり頼もしくなかった。聖杯を両手で持ち上げマジマジと見つめる。不意に何かを思い出す。
「マナ、そういや牛ヒレ肉買っといてくれたか? 3枚で良かったんだけど」
「あ、ごめん、まだ買い出し行けてない」
「おいおい、頼むぜ」
「あっ、お兄ちゃん!」
マナが異変に気づき、手で口をおさえる。
「ん?」
「それ・・・」
メシヤが前を向くと、聖杯から牛ヒレ肉が3枚湧き出していた。不思議に免疫のあるメシヤもこれには面食らう。
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