第12話 ダビデのひこばえ

 藤原ヨシヤ(メシヤの父)の車に天ぷら米油が積んであった。メシヤはそれを持ってきてもらうようにエリに頼んだ。

 駐車場は小高い丘にあり、その端から見下ろす形で調理場があった。低い崖の下にメシヤたちがいるような位置関係だ。

小柄なエリには少々天ぷら油の一斗缶が重かったのか、不安定にヨロヨロしだした。嫌な予感がする。

  メシヤはそれを知りもせず、山菜の具材に天ぷら粉をまぶしていた。エリが小崖の上から助けを求めようとしたその時―――

 

 バッシャー――ン

 

 一斗缶から油がぶちまけられて、メシヤは頭からそれを浴びてしまった。メシヤは何事かと驚いたが、米油は思いのほか嫌な感じはせず、全身で美味しく味わえた。

 

「油、そそがれし者……」

 レマが真摯な表情でその台詞を口にした。ユダヤ人は救世主を待望しているが、救世主マシアッハとは、油そそがれし者という意味である。

 



「メシヤ、川で洗ってきたほうがいいぞ」

 イエスが哀れみの声を掛ける。

「ああ、そうだね。このまま天ぷらを揚げたら、僕が火だるまになっちゃうよ」

 調理を中断し、川に向かおうとするメシヤ。

「メシヤ、ごめン……」

 申し訳なさそうに眼をウルウルさせるエリ。

「手伝おうとして起きた事だし、全然気にすること無いよ、エリ。それに米油って直接舐めても美味いんだって分かって新発見だったよ」


 米油がポマード代わりになって、普段は前髪をおろしているメシヤがオールバックになっている。

「ありがとウ! 前髪をあげてるメシヤもカッコいいネ!」

 エリは自分の感情を正直に表現するようだ。

 あらあらといった表情のマリアからタオルを渡され、エリはメシヤと一緒に川べりまで付いて行った。


 女の子の前でパンツ姿になる訳にもいかず、ズボンはそのままで上半身のシャツを脱いだ。その裸を見て、エリは驚嘆した。それはミケランジェロのダビデ像のような肉体美だった。

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