第11話 静かな渓谷の森の影から

 新緑の眩しい季節が訪れた。メシヤたちは夢賀渓むがけいに保養に来ていた。三重県北西部にある、大自然の観光スポットである。メシヤはこの場所にもインサイドパンツホルスターを装着して、両刀を忍ばせていた。これまでの現象から、メシヤはある法則に気づいた。

 

 銀の柄は右手で持つと共鳴する。であるから、右腰に差しているといつも水に反応してしまう。だが、左手で持つと反発するので、普段は左腰に下げているのが良いと判断した。

同様に金の柄は左手で持つと共鳴するので、平時は右腰に下げている。メシヤは両利き(正確にはクロスドミナンス)なので、両刀を使うときは手をクロスして抜くことになるな、などとシミュレーション(妄想?)していた。


 男連中は渓流でイワナを釣り、女子たちは山菜摘みと果物狩りを行った。週末ということもあり、いつもは静かな山間部も活気を呈していた。家族連れ、小学生のキャンプ学習も行っていたようだ。


「エリとレマは川魚を食べられるのかい?」

 調理場で慣れた手付きでイワナを捌くメシヤ。刃物に慣れたメシヤだから、得物を聖剣に持ち替えてもすぐ順応したのだろう。

「ウナギとかアナゴみたいな鱗のない魚は駄目だけど、イワナはOKだヨ!」

エリはほっぺたにOKサインを作って微笑んだ。

 メシヤは以前、シーフードチャーハンを裁紅谷姉妹に振る舞ったことがあるが、彼女たちはイカ・エビ・貝柱を神経質に取り除いて食べていた。軟体動物・甲殻類も駄目らしい。

「作り直して!」

 と、言わなかったのがせめてもの救いか。砂漠の国に生まれ、迫害・放浪の歴史を持つユダヤ民族にとって、食べ物を粗末にすることは神の教えに背く行為だ。取り除いたエビたちは、メシヤがそのあと美味しく頂いた。

 

 山菜の収穫物は、こしあぶら・青こごみ・行者にんにく・山ウド・タラの芽など豊作だった。いちご狩りもしたので、デザートは期待できそうだ。

 山菜は意外なことにマリアが詳しかった。メシヤに付き合っているうちに覚えたのだが、裁紅谷姉妹にテキパキと教えていた。

 

「天ぷらにするか」

 メシヤが収穫物のメニューを決めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る