スーツ×ランドセル

美澄 そら

スーツの人。


 かのう 大輝だいき、二十五歳。

 生まれは茨城県で、東京のそこそこな大学に進学、そこそこな会社に就職して、もう三年が経っていた。

 これといった趣味もなければ、仕事に情熱を燃やしている訳でもない。

 月曜から金曜までせこせこ働き、土日は一人で昼間から酒盛りしたり、スマホのゲームなんかして潰す。……とくにお金をかけたりしないせいで、貯金は増えたけれど、人に話すのも恥じるくらい質素に生きている。

 そのサイクルに慣れすぎてしまって、ふと自分の人生を振り返って――

 あれ?  俺の人生、ずっとこんな感じ? と現実が見えてきて、身震いする。

 小学生の頃、中学生になったら、自分も目立つグループに入れるのではと淡い希望を持っていた。

 しかし、中学生の三年間、仲良くなったのは大輝と同じような日向を知らないような人物ばかり。

 そして、地元のそこそこな高校に進学。今度こそ日陰から飛び出すんだ!と息巻いていたものの、結果は散々だった。

 けれど、遊びにも行かずに勉強に励んだお陰で、東京の大学に受かれたのは行幸だった。

 これで自分も、派手でだらしなくかっこいい生活を送るんだ……という淡い希望は、フラグすら立たなかった。

 特に波風のない人生だったが、大輝にも一度だけ彼女が出来たことがあった。

 友達の紹介で、ユリコという清楚な名前とは裏腹に、とてもけばけばしい女性だった。

 成り行きで付き合ってみたものの、三日で振られた。

 別れ話に呆然とする大輝に、「あんた、つまんないよね」とトドメを刺して彼女は消えていった。

 ……つまり、悲しいことにドーテーは捨てられなかった。


「外回り行ってきまーす」

 大輝の声は届いていないのかと思うくらい反応がない。しかしこれは大輝に限ったことではなく、先輩が声をかけたところで誰も反応をしない。

 コミュニケーションが最も必要に思われる営業部が、無人のように静まり返っていることに、いつか誰かが疑問を抱いてくれないだろうか、と他人任せに思った。

 とりあえず、取引先に向かってから、外で昼休憩を取ろう。

 大輝は資料の入ったバッグを提げて、会社を飛び出した。


 取引先で喉が疲れるほど話をして、会社近くの公園のベンチに腰を下ろした。先程自販機で買ったコーヒーで手を温めてから、プルタブを開ける。

 仰ぐようにして缶の半分を飲んで、盛大に息を吐き出すと、目の前に赤いランドセルを背負った少女が見えた。

 大輝の子供の頃は、男子は黒のランドセル、女子は赤のランドセルが普通だったが、最近はカラフルなランドセルが増えてきたこともあって、赤のランドセルは逆に珍しい。

 背負っている少女は大輝の隣に腰をかけると、子供向けの雑誌を読み始めた。








 

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