修学旅行の夜
湯野正
暴露大会
「なあ、暴露大会しねぇ?」
修学旅行二日目の夜、そろそろ話題もなくなりみんな眠る雰囲気になってきた時、俺が切り出した。
俺がこう切り出したのには訳がある。
つい昨日、同じクラスの前田さんに告白されて付き合うことになったのだ。
俺を含めてこの五人に彼女持ちはいなかった。
だから普通に打ち明けることが出来ず、こういう場を作ってしまおうと思ったのだ。
「…まあ誰かが言いだすんじゃないかとは思ってた、よっ!」
まず
「うん、いいと思う、うん」
次にゆっくりと
「…まあ、構わないが」
その次は
「えぇ、マジで?そういう流れ?」
最後に
みんなで決めた暴露大会のルールはこうだ。
まずお題を決める。好きな女子のタイプ、とか。
次にじゃんけんをして負けたやつから暴露していき、最後まで勝ち残った一人だけはそのお題は暴露しなくてもいい。
「そろそろ、あったまってきたな」
俺はみんなを見回した。
軽いお題での暴露は何周かして、そろそろ大きくいっても良さそうな雰囲気だ。
彼女できました、と打ち明けられるくらいテンションも上がってきた。
「じゃあ、次ラストでお題なしでいくか?」
勇次が踏み込んだ。
俺は頷いた。ほかの三人も神妙に続いた。
忘れられない夜の始まりだった。
「…俺か」
最初に負けたのは倉田だった。
倉田は割と話せるやつなのだが、いかんせんテンション低めで自分語りもしたがらないので、どんな暴露をしてくれるのか結構期待していた。
倉田は目をつぶり深呼吸すると、鋭い目つきで全員を見つめて、口を開いた。
「俺は、一子相伝の暗殺拳の伝承者なんだ」
は、何言ってんだお前この歳で中二病かよ、と俺の口からでる直前に勇次が先んじた。
「まあ、なんかそんな感じのだろうと思った。普段からずっと気配消してるし」
俺は勇次を凝視した。
普段からずっと気配消してるってなんだ。暗殺者一家かよ。いやそう言ってるか。
俺が混乱している間に皆次々になんか言い出した。
「まあ、高校生にしてはオーラが静か過ぎたからね…」
宙が大物シンガーソングライターみたいなことを宣った。なんだオーラってお前酒飲んでんのか。
「まあそんなとこかなー、とはね?」
見田お前適当なこと言ってるんじゃねえよ。なんだよそんなところって。暗殺拳の伝承者みたいなところってどんなところだよ。
「…そうか、あまり暴露にならなかったか、すまん」
倉田が頭を下げた。
なんだか俺だけ全然わかってなかったと言える空気でもなかったので「い、いやいや気にすんなって」と心にもないことを言った。
なんだこれ。
「おっ、俺の番か!」
次に負けたのは勇次だった。
勇次は、多分どぎつい下ネタとかで笑わせてくれるだろう。
「俺、異世界で勇者やってたんだ」
ウェブ小説かな。
唖然とする俺を置き去りにして勇次は召喚された異世界での波乱万丈な冒険を語り出した。
途中から証明のため、五本の指の上にそれぞれ光、火、水、風、雷の球を浮かべた時は変な声が出た。そしてそれから何言ってるのか一切頭に入ってこなかった。
「…常に力をセーブしているとは思っていたが、勇者とは」
「すさまじいオーラだったのはそういうことだったんだね」
なんでそんな簡単に受け入れてるの。
俺はまだ混乱してるよ。
「いやぁ、ウェブ小説読んだみたいな気分だわ!」
感想それか、お前すごいな。
「俺、なんだかんだ打ち明けられてスッキリしてるわ。みんな受け入れてくれるだろうとは思ってたけど、緊張したぁ!」
ずっと秘めていたことを話せた勇次はすっきりとしていて、全然受け入れられてないとか言える雰囲気ではなかったので「勇次マジすげぇわ」と適当なことを言った。
なんだこれ。
なんだこれ。
「…僕の番だね」
三番目に負けたのは宙だった。
正直言ってめちゃくちゃ負けたかった。
もうさっさと彼女できましたーって打ち明けたかった。
なんかオーラオーラ言ってる宙の暴露とか全部適当に受け入れてる見田の暴露とかもうやばい気しかしない。
こんなにハードルが上がりまくってる所で俺が大トリになったらどうするんだ。
こっちは普通のサラリーマンの父と専業主婦の母との間に生まれた一般ヒューマンだぞ。
どうせヤバいんだろうけどどうか宙が大したことないことを暴露するよう祈るしかない。
「僕、宇宙人なんだ」
ダメだった。
事故で死亡した中学生の体に乗り移って、とかなんとか言ってたけど正直あんまり耳に入っていない。キャパシティーオーバーだもの。
「体の動かし方がぎこちない時があったが、なるほど」
世紀末救世主がなんか言ってる。というか普段から俺たちのことどういう目で見てるんだよお前は。
「まあ、魂の形が違ってたしなぁ」
胡散臭い占い師かお前は。いや勇者なのは知ってるけど。いやなんだ勇者なのは知ってるけどって。
「えぇ!?外国人とかかと思ってた!」
あ、お前驚くんだ。
「僕…今までずっと黙ってて…なぜかつらくて、感情なんてないはずなのに…僕…僕…!」
何か泣き出した宙をみんなが慰める中、俺は静かに微笑んで肩を叩いた。いや、宇宙人にかける言葉とか見つからないし、もう次のジャンケンの事しか考えられないし。負けられない戦いがここにある。
「うん、俺だ」
「ッッシャッ!!シャッ!シャッ!」
勝った勝った勝った!
この流れで彼女できましたーとか空気読めないこと言わずに済んだ!
俺が勝利の余韻に浸る中、見田がこっちをみて苦笑してから最後の暴露を始めた。
「俺、実は人の心が読めるんだよねー」
そうヘラヘラと暴露した見田は、みんなの考えている事を当てて証明をした。
「なるほど、それであまり驚いていなかったわけか」
「いやいや宙はほんとビビったよ、謎言語で思考してるから外国人かなーって思ってたのに宇宙人ってそれはあり得ないわ」
何言ってんだサイコメトラー。俺からすればお前ら全員あり得ないわ。
と、そこで勇次が何かに気づいた。
「って、心読めるってことはジャンケンに勝てたはずじゃないのか?どうして…」
俺は感動した。
この激ヤバ暴露大会で最低戦闘力の俺を見田は自分の秘密を明かしてまで守ってくれたのだ。
「いや、あはは」
見田は適当に笑ってごまかしてくれた。
––しかし、それがいけなかった。
「…まさか、そういうことか」
「見田がわざと負けたってことは…」
「僕たちの秘密なんかじゃ釣り合わないほどのものが…っ!」
みんなが畏怖の目で俺を見つめてきた。
いや、そんなことないよ彼女できましたーしかないんだよ俺には彼女できましたーしか。お前らバトル漫画のキャラみたいな奴らとは違うんだよ俺だけ現代青春ものなんだよ。
俺は助けを求めて見田をちらりと伺った。
「あ、あはは」
ふざけんなこの野郎。
結局、俺はこの流れで彼女ができたってだけだったんですとは言い出せず、「いやぁ、まあね?」と適当な事を言ってしまった。
あの日から俺は三人から何とも言えない扱いを受けている。
そのせいかクラスでもあいつは何かすごいやつだみたいな空気になってしまっていた。
まだ、彼女できたことはカミングアウトできていない。
修学旅行の夜 湯野正 @OoBase
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