第16話 白銀の帝王

 ――同時刻、天坂総合病院。


「……んっ……ぅ……」

「あっ……お嬢様! 優璃お嬢様ぁっ!」


 患者服に身を包む伊犂江優璃は、長い夢から目覚めて間も無く――見慣れない天井を目にしていた。

 そんな彼女のそばには、涙ながらに歓喜の笑みを浮かべる幼馴染が寄り添っている。


「……利佐、子……?」

「あぁ、お嬢様……よかった! お目覚めになられたのですねっ!」


 約一週間に渡り夢の中にいた彼女は、曖昧な意識のまま上体を起こすが……その視界に入り込んできた蟻田利佐子との再会が、彼女の精神を正常な状態へと覚ましていく。


「あれっ……なんで、私……!? 新幹線に乗ってたはずじゃっ……!?」

「あぁっ、お嬢様、どうか落ち着いてください! 事情はお話ししますから!」

「事情……?」


 なぜ自分は、彼女は、ここにいるのか。自分達は林間学校の新幹線に乗っていたのではないのか。

 それは「DSO」から目覚めた彼女達にとっては当然の疑問である。――そう。彼女達は全員、あの世界でのことを覚えていないのだ。


 利佐子自身、自分達に何が起きたのか詳しく知っているわけではない。

 ただ、FBIの者だという警察関係者から大まかな事情は知らされていた。他の生徒達や乗客達も、同様である。


「蟻田さん! 伊犂江さんが起きたのかッ!?」

「あっ、真殿君……」

「あ、ぁあ……! 伊犂江さん、よかった目が覚めたんだね!」

「えっ、ほんと!?」

「ほんとだ、伊犂江さんが起きてるぞ!」

「あ、あなた達待ちなさい! 伊犂江さんは目が覚めたばかりで……!」

「そ、そうだぞお前達! ここは春野先生に従って……ぶげ!」

「るっせぇヒキガエル! んな場合かよっ!」


 するとそこへ、真殿大雅を筆頭とするクラスメート一同が駆け込んでくる。春野睦都実先生や冬馬海太郎先生の制止など御構い無しだ。海太郎に至ってはヒキガエルの如く、鷹山宗生に踏みつけられている。


「なんやろかあれ、騒がしいなぁ」

「ほら、あれよあれ。修学旅行かなんかで集まっとった高校生の子らやって」

「あ、そやったなぁ。……親御さんら、心配しとんのやろなぁ」


 そんな彼らも全員、患者服に身を包んでいた。その後ろを、大阪のおばちゃんのような中年女性達が通り過ぎている。


「よかった……! 伊犂江さんが目覚めなかったら、もうどうしようかって!」

「本当によかったんだねっ!」


 クラスメート達の中から身を乗り出してきた鶴岡信太と真木俊史も、優璃の目覚めに歓声を上げていた。


「えっ……なに、なに? なにがどうなってるの?」

「お嬢様、それは――」


 状況が読めず、一人混乱する優璃。そんな彼女の胸中を慮り、利佐子は事情を話そうとする。


「――私から説明しましょう」


 そんな彼女の肩に手を置く、黒いスーツ姿の青年が現れたのは、その直後だった。利佐子に触れるその青年の出現に、周囲の男子達は殺気のこもった眼差しをぶつけるが、青年はまるで意に介さない。

 ブラウンの髪を短く切り揃えた、碧眼の美男子。年齢は20歳前後だろうか。そんな彼に対する視線は男子の殺気だけではなく、女子達からの熱っぽい視線も含まれていた。


 そうして、羨望や嫉妬を一身に集める青年の美貌を前にして――優璃と利佐子は、真剣な面持ちで青年の言葉を待ち続けていた。

 すでに「意中の男」がいる彼女達にとって、青年の美しさは何の意味もなさないようだ。


 ――そして、それは青年も同じであり。絶世の美少女達を前にしながら、彼は眉ひとつ動かさず、淡々と口を開く。


「私はFBIサイバー犯罪捜査官のキッド・アーヴィング。……伊犂江優璃様を含む、五野寺学園高校の皆様に起きた事態について……私の口から、改めて説明させて頂きます」

「アーヴィング……!?」


 その名に瞠目する優璃に、深く頷きながら。


 ◇


 キッドと名乗るFBI捜査官により、林間学校のあの日に起きた出来事が語られた。


 ――今から一週間前。アドルフ・ギルフォードという科学者が率いるカルト組織が、新幹線の第2車両に催眠ガスを散布。その車両に乗り合わせていた乗員乗客85名が昏睡状態に陥った。

 ギルフォードはその全員を仮想空間にダイブさせ、自らの洗脳下に置いた上で、自身が企画した殺人ゲームをさせていた。だが、仮想空間には第2車両に居合わせたFBI捜査官も潜伏しており――現実世界から殺人ゲームを阻止しようと動いていた解析班との連携により、ゲームの強制ログアウトに成功。

 今では85名全員が、次々とゲーム世界から解放されつつある。一方、ギルフォードら実行犯達の身柄も確保された。事件は、終息に向かいつつある。


 ……というのが、キッドが語る事件の推移であった。五野高の生徒達を含む乗員乗客全員が、この説明を受けている。


 今は目覚めたばかりであるため入院している状態だが、じきに身体への異常がないと確認された者から退院していく予定だという。

 すでに病院の外は、被害者達の目覚めを聞きつけたマスコミで溢れかえっていた。さらに病院一階のロビーには、我が子との再会を切望している五野高生徒の父兄達も集まっている。彼らは互いに励まし合い、全生徒の生還を祈り続けていた。


 そんな父兄達だけでなく、優璃達がいる三階の病室にまで向けられるカメラやフラッシュから、彼女達を守るように。キッドは素早い動作で、カーテンを閉めた。


「あっ……」

「……私の父が生んだゲームが、このような悲劇を招いた。その責めを受ける覚悟は、出来ています」

「そんな……あなたは、私達を助けるために頑張ってくださったんでしょ? 助けてくれた人を責めるなんて、出来ません!」

「そうです! それにあなたは、アーヴィングコーポレーションの関係者である前に、FBI捜査官じゃないですか!」

「……ありがとうございます」


 その苗字を聞けば、誰もが気づくことだった。

 ――キッド・アーヴィング。彼はFBI捜査官にして、アーヴィングコーポレーションの御曹司でもあるのだ。


 ギルフォードがアーヴィングコーポレーションの元社員であったことは、すでに周知の事実となっている。そんな男を抱え込んでいた企業の者となれば、相応の誹りは避けられない。

 キッド自身も、それは覚悟していたようだが――優璃と利佐子は、あくまで自分達を助けに来たFBI捜査官として、キッドという男を見ていた。その後ろにいる人々は、複雑な面持ちだったが。


 ――実のところ。アーヴィングコーポレーションの社長だけでなく、優璃の父である伊犂江グループの会長もまた……ギルフォードに加担していた一人なのだが。

 優璃自身も利佐子も、その真相を知る由もなかった。


「……あっ、そうだ利佐子! 飛香君はどうしたの? さっきから姿が見えないんだけど」

「あっ……」


 真実を知らない優璃は、キッドに疑いの眼差しを向ける周囲の人々を一瞥し、話題を変えようと思い――ふと。この中にいるはずのクラスメートが一人・・いないことに気がつく。

 飛香炫。その所在を問われた利佐子は、答えるべきか迷うように視線を泳がせる。だが……その様子を間近で見て、気づかない幼馴染ではない。


「……起きて、ないの?」


「――っ! お嬢様っ!」

「伊犂江さん! まだ寝てなきゃダメよッ!」

「お、おい伊犂江さんっ!」


 それが意味するものは何か。そこまで想像した途端、優璃は弾かれるようにベッドから飛び出した。睦都実やクラスメート達の制止も聞かず、躓きながらも廊下を走り出す。

 品行方正な普段の彼女からは、想像もつかない姿だった。一週間も寝たきりだった体は思い通りに動くことはおろか、まっすぐに走ることさえままならない。


「あぐっ、うぅっ!」

「お、お嬢様ぁっ!」


 あちこちにぶつかり、手すりや器具に引っかかり患者服を乱しながら、それでも彼女は懸命にひた走る。


「はぁ、はぁっ……あ、飛香、君っ……飛香君っ!」


 そうして白い柔肌の節々を露わにしつつ、ようやく――優璃は、ある一室で眠り続ける少年を見つけた。

 ヘブンダイバーを被せられたまま、夢の世界に囚われている飛香炫。それを目の当たりにして、優璃は寄りかかるようにそこへ駆け込んだ。


「飛香君、飛香君っ! ねぇっ、飛香君っ!」

「お嬢様、落ち着いてください! 飛香さんはまだ、ログアウトが済んでいないんですっ!」

「ねぇ起きてよ! ねぇったら、返事してよっ! 飛香君、飛香君っ!」

「お嬢様っ!」


 そして、目元を潤ませながら懸命に揺さぶるのだが……炫の体は、糸の切れた人形のようにぐったりとしたままだった。

 強引にヘブンダイバーを外せば、その瞬間に電磁パルスが発動して死に至る。キッドからそう聞かされていた利佐子は、懸命に炫から優璃を引き剥がした。


「……飛香炫様につきましては、まだログアウトまでに若干のタイムラグがあるようです。いずれは彼も目覚めるでしょうが、もう暫く掛かるかと」

「いずれは……って、一体いつなんですか!?」


 そこへ、キッドを含む他の人々も追いついてきた。彼らの先頭に立ち、声を掛けてくるキッドに、優璃はいつになく取り乱した様子で訴える。


「具体的な時間を申し上げることはできません。ですが、すでに解析班の手は彼のアバターにも及んでいるはず。焦らずとも、必ず彼は目覚めますよ」

「……飛香君っ……」


 だが、「必ず目覚める」というキッドの言葉を受け――僅かに、平静を取り戻した。それでも不安をぬぐい切れなかったのか、懸命に手を握りながら、祈るように目を伏せている。


 そんな彼女の姿を見れば、伊犂江優璃という少女が、どれほど飛香炫という少年を想っているのかは明らかだった。優璃の形相を前に、男子達はこの状況下でありながら、胸中に苛立ちを募らせる。


「……けっ。あのキモいゲームオタクのことだ。『まだゲームしたいー』って、駄々こねてんじゃねーの」


 ――そんな彼らの、口には出さないまでも心のどこかで思っていた本音。それを零したのは、鷹山宗生だった。


「ちょ、ちょっと鷹山!」

「……そーそー。もしかしたら、もう目が覚めてんのに狸寝入りしてんじゃねーの? 伊犂江さんにかまって欲しくてよぉ」

「きったねぇ野郎だなァ、おい」

「あなた達っ……!」

「そ、そんな言い方ないんだねっ!」


 この非常時に露骨にクラスメートを軽んじる彼の物言いは、当然ながら非難の視線を集める。だが、炫に対し反感を持っていた一部の男子達は、宗生に続くように彼を罵倒する。

 そんな彼らの言い草に、睦都実や大雅、信太達が眉を吊り上げ声を上げようとする――その時だった。


「……最っ、低」


 感情を押し殺した、冷ややかな呟き。普段とあまりにも違う声色ゆえ、周囲はそれが伊犂江優璃の声であると、すぐに気づくことができなかった。

 彼らが声の主に気づいた時には――すでに。優璃は炫の手を握ったまま、涙を目尻に貯めながら、怒りの形相でクラスメート達を睨んでいた。


 その眼力や、「学園の聖女」を敵に回すような物言いをしてしまった事実に直面し、男子達は今になって口をつぐむ。だが、もはや遅かったようだ。


「……鷹山さん。あなたは決して、言ってはならないことを言いましたね」

「な、なんっ……ぶげっ!」


 怒りが一周し、氷点下の如く冷たい表情となった利佐子が、ツカツカと宗生の前に歩み寄り――空を裂く速さで、平手打ちを放った。

 宗生と利佐子には、大人と子供のような体格差があるはずだが……彼女の平手は、その差を覆すほどの威力だったらしい。思わず周囲が怯んでしまうほどの激しい轟音が響くと――宗生は目を回して、膝から崩れ落ちてしまった。

 白目を剥いて失神してしまった彼の有様を目にして、男子達は顔面蒼白となり利佐子を見遣る。そんな彼らに、「学園の天使」は冷酷な視線を注いだ。


「……下らないことしか喋れないなら、その口は閉じていてください。黙らせる手間が省けますから」


 逆らえば、死。そう思わせてしまう眼光を浴びて、炫を罵っていた男子達は揃ってコクコクと頷き、引き下がってしまった。

 そんな「学園の天使」の真の怒りを目にして、大雅や女子達も息を飲む。信太と俊史に至っては、ガタガタと奥歯を震わせていた。


「……お、恐ろしい」

「ぼ、僕、見ちゃいけないものを見たんじゃあ……」

「な、なにも見てないんだねっ……」


 やがて利佐子は大雅達のほうを見遣ると、まるで何事もなかったかのように、普段と変わらない柔らかな笑みを浮かべ――睦都実の側を通り過ぎ、優璃の隣に向かった。


「……生徒への暴行を見過ごすわけにはいかないけれど。反省文は原稿用紙15枚から……14枚にまけてあげます」

「……はい。ご厚意に、感謝致します」


 すれ違いざまに、僅かに言葉を交わして。


「り、利佐子……」

「ふふ。飛香さんの名誉をお守りするためなら……お安い御用ですよ、お嬢様。さ、お寝坊さんが目覚めるまで、ここで待っててあげましょうか」

「……うん、ありがとう。反省文、私も手伝うね……」


 そんな幼馴染の、いつもと変わらない笑顔と共鳴するように。優璃は目覚めてから初めて、口元を緩めたのだった。


(……さて、解析班は間に合うだろうか)


 ――その一方。被害者達の動向を静観しつつ、五野高を代表する美少女2人に見守られている少年を見下ろす、キッド・アーヴィングは。


(パーネル捜査官。必ず彼を守り……そして、あなた自身も生き抜いてください。あなたの、そして俺達の戦いを終わらせるためにも……)


 別室で眠りにつき、今も仮想空間で戦い続けている上司を含む――「全員」の生還を、ただ静かに祈っていた。


 ◇


 ――同時刻、インターフェース・エリア。


「アドルフ・ギルフォード……!」

「あなたが……!」


 この電脳空間に取り残された飛香炫と、アレクサンダー・パーネルの2人は――諸悪の根源である老紳士と対峙していた。

 険しい面持ちで睨みつける彼らに対し、ギルフォードは普段と変わらない涼しげな面持ちだが……その眼だけは、衝き上げるような憤怒の色に染まっている。


「……NPCに成りすまし、私を欺きながらこの世界を解析していたのですね。まさか、物語の感動的な幕引きを前に……全てを台無しにされるとは、夢にも思いませんでしたよ」

「……生憎だったな。貴様のくだらん劇は終わりだ。じきに、我々のアバターもログアウトされる」


 静かな口調からは想像もつかない、圧倒的な殺意。それを真っ向から浴びてなおも、アレクサンダーは怯むことなく毅然と言い放つ。

 ――もう、ゲームは終わったのだと。


「それを私が許すと思いますか? この世界の創造主にして、GODである私が」

「すでに貴様からはゲームマスターの権限が失われている。もはや貴様など、神を僭称する紛い物に過ぎん」


 そんな彼の力強い言葉を耳にしても、ギルフォードに怯む気配はない。そればかりか、さらに内に秘めた黒い激情を掻き立てるかのように、皺の寄った貌を歪ませていく。


「……確かに。もはや私の体は、この世界におけるキャラクターのアバターに過ぎない。あなた方と同じ、消えゆく存在……」

「……っ!」

「ですが……その前に、あなた方を消せる道具を持ち出すことには成功しているのですよ」


 ――やがて。彼はステッキを投げ捨て、懐に手を伸ばすと。

 そこから、「ある物」を引き出してきた。


「……!?」


 その形状に炫は瞠目し、アレクサンダーはより険しい面持ちとなる。


 濃いオレンジで塗装された長方形。その中央には白く塗られた四角形のスペースがあり、その中には幾つものボタンが並べられていた。

 さらに長方形の両端には、黒塗りのボリュームタイプのつまみが備え付けられている。


 ――それはまるで、70年代のゲーム機のようだった。


 そう。彼の手中に在るそれ・・は……炫とアレクサンダーが持つ「神具」に通じる、ファンタジー世界にそぐわない代物だったのだ。


「あれは……ブレイブドライバー!?」

「……あの世界のシナリオに、実装されていなかったドライバーか」

「ほう、さすがはFBI。この個体の情報もサーチしていましたか。……なら、わかるでしょう? ゲームにならないという理由でお蔵入りになった、この鎧の力を」


 その言葉に、アレクサンダーは息を飲む。ゲームにならない――それは、ゲームバランスが崩壊するほどの性能であることを意味していた。


 それを理解している彼の、焦燥の表情を眺めるギルフォードは……歪に口元を吊り上げながら、手にしたドライバーを丹田に当てる。

 やがて、その両端からベルトが伸び――彼の腰に巻き付いた。


「あなた方……特に、そこの捜査官。全ての命が灰燼と帰す感動的瞬間に、水を差したあなたには、とびきりの返礼をせねばなりませんね」

「……やれるのか? もはやただの一プレイヤーでしかなくなった、貴様に」

「命を灰燼……じゃあやっぱり、あのログアウトボタンは……!」

「そう……奴は『物語』を終わらせた君に、君を含む全ての人間を殺させようとしていたんだ」


 「甲冑勇者」という、この電脳空間における絶対的な暴力。その力を振りかざそうとしている老紳士を前に、炫は唇を噛み締める。どこまで人々をおもちゃにしようというのか――と。


「……あなたはッ……!」

「飛香炫君。私の人生を懸けた英雄譚を、完成直前まで進めてくれたことに免じて……今すぐ私の側につけば、ログアウトの時まで生かしておいて差し上げますよ?」

「……オレ達皆を殺そうとして、よくもそんなことを」

「あの時はまだ、私はゲームマスターでしたからねぇ。しかし今となっては、ただのプレイヤーでしかない。そんな私としては、差し違えてもその男だけは殺したいのですよ。あの時とは違います……約束は守りますよ」


 白々しくも、ギルフォードは炫に甘い言葉で囁こうとする。だが、真実を知った炫が出せる答えは、一つだった。


「……失ったものは、もう、帰ってこない。人も、信頼も。それはあなたも、知っているはずだ」

「そうですか……なら、仕方ありませんね」


 それを受け。ギルフォードは、分かりきっていた言葉を聞きほくそ笑むと――「電源」と書かれたスイッチを指先で入力する。


「――発動」


 その直後に出てきた言葉は、いわば彼らへの死刑宣告だったのだろう。一瞬にして、ギルフォードの全身を包んだ輝きの中から――新たな「甲冑勇者」が現れる。


 バーゴネットの鉄仮面や、フルプレートアーマーで固められた全身は、全て純白に塗装されている。

 そんな無骨な鎧姿である一方で、襟を立てたオレンジ色のマントを纏ってもいた。鮮やかにマントを翻すその姿は、無用な飾り気を要さない武闘派の「王」のようだ。

 さらに――紳士服に隠されていた、ギルフォードの肉体を強調するかのように。その鎧は、内側から漲る力により張り詰めていた。


Set upセタップ!! Firstファースト generationジェネレーション!!』


 そんな中、「変身」の完了を告げる電子音声が鳴り響き。ギルフォードは拳を握ると、改めて2人と対峙する。

 ――これから殺す、彼ら2人と。


「さぁ……始めましょうか。あなた達の命で飾る、この世界の終末を」

「……炫君ッ!」

「わかってる……!」


 これが、真の最終決戦となる。

 「原始勇者げんしゆうしゃディアボロト」と相対した炫とアレクサンダーは、そう確信し……同時に、この戦況を左右する「神具」に手を伸ばすのだった。


 ――全ては、この悪夢を終わらせるために。

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