第6話 一方的な再会


 薄汚れ、乾いた土の臭いで充満している貧民街の酒場。

 そこに集まるのは、品性が足りないのか知能が足りないのか――


「んだテメェ! 文句あんのかァ!?」

「ざけんじゃねェ!」


 ――この王国の常備軍である騎士団に入れず、かといって他にめぼしい職業にも就けず。

 冒険者や賞金稼ぎで、やっと生計を立てているような「ならず者達」ばかりなのだ。


 王国の数ある領島の中でも、群を抜いて治安の悪いことで有名な「ベムーラ島」。

 この島には、このような連中が大半を占めているのだ。


「よぉよぉヒカル! 昨日は大活躍だったじゃねぇかよ、えぇ?」

「ああもう、やめろよ酒臭い! だいたい信太、お前未成年じゃ……!」

「シンタ? 誰だそりゃあ」

「あっ……い、いや、別に……」


 鼻を突き刺すような凄まじい異臭を放つ男を、押し退けようとする炫。鶴岡信太の容姿を持つ、そのNPCは――人間と遜色ない自然な動作で、彼と肩を組んでいた。


「……」


 ――あれから約一週間。炫はダイナグ・ローグマンとノアラグン・グローチアの二人を伴い、この「スフィメラの町」に到着。以降、彼らと共に町で受注したクエストを攻略する日々を送っていた。


 この町は、「DSO」の目玉であるマルチプレイの際に、プレイヤー同士が交流する集会所ロビーとしての役割を持っている。シナリオモードにおいても、活動の拠点として扱われる重要な町だ。


(……シナリオ進行のフラグに直結するクエストは、昨日で全てクリアした。あとは、イベントの発生を待つのみだが……。果たして、首尾よくイベントは進行してくれるのだろうか)


 昨日は炫達三人で、若い女ばかりをを狙う連続誘拐犯を捕縛するクエストに挑んでいた。

 だが、本来の「DSO」なら三人で報酬金が山分けされるところ、ダイナグとノアラグンが飲み代で使い果たしてしまうという事態が発生した。


 NPCがプレイヤーの取り分で、勝手に報酬金を飲み代に費やす。

 「DSO」はもとより、普通のゲームでもまずありえない事象だ。ゲームの不文律を乱すほどに、この世界のNPCは「各々の人格」を保持しているのである。


 そこまで行けば、もう彼らは単なるNPCとは言い切れなくなってくる。いわば、電脳世界に暮らす異世界人。

 ――そんな人々がそこかしこに息づいている世界なのだ。もはや、フラグという概念が機能しているかも怪しい。炫が知る「DSO」とは、全く違う結末を迎えることもありうるだろう。


(商人も、他の賞金稼ぎや冒険者も、みんな日本人の姿になってる……。やっぱり、あの新幹線に乗り合わせていた人達がみんな、NPCをやらされているんだな。……これじゃあ、タチの悪い仮装大会だ)


 そうした先行きの不安を覚える彼は、片手で顔を覆いながら目を伏せていた。


 炫達の後ろで殴り合いを始めている冒険者達。町を歩く一般人達。クエストの受付業務に励む、酒場の看板娘達。

 彼らは皆、この世界の住人として生きており、服装も与えられた「配役」に応じたものなのだが……服を除いた外見だけは、紛れも無い「日本人」であった。


 人の多い町に出たことで、より強くその歪さを実感し、炫は深くため息をつく。まるで大規模な仮装大会のようである――と。


「若い女をさらう誘拐犯に正義の鉄槌! ってな! いやぁ、イカすじゃねぇか俺達!」

「知るもんかよ。結局三人で賞金山分けって話だったのに、夜の飲み食いだけで使い切っちゃってさ」


 炫は目を細めて、隣のダイナグと、後ろのテーブル席で肉を貪っているノアラグンを言葉でチクリと刺す。

 ――自分の気も知らずにどんちゃん騒ぎに興じる親友達への、軽い意地悪であった。


「い、いやぁ〜、快勝快勝! ってハメを外しすぎちゃったみたいでなぁ!」

「そ、そうそうっ! そういうこともあるんだねっ!」


 炫の指摘に冷や汗をかき、乾いた声で笑う眼鏡を掛けた少年。

 そして――「ツンデレ」というものが好き過ぎるあまり、野太い声でありながら「勘違いしないでよねっ」の「ねっ」を語尾に付けたがる小太りの少年。


 賞金稼ぎ仲間の、ダイナグ・ローグマンとノアラグン・グローチア。彼らは日本人の容姿を持ちながら、ファンタジー感に溢れた衣装に身を包んでいる。


 黒い髪を少し長めに伸ばし、黒いジャケットを着込んでいる、貧民街に居座る賞金稼ぎにしては割りとオシャレなダイナグ。

 自力で仕留めた熊の皮で作った、肩の露出する服で身を包む、小太りのノアラグン。


 そんな彼らは眉をヒクヒクと動かしながら、炫の表情を伺う。


「……わかってるだろうが、金は出さないからな」

「そんなぁ〜っ! ひどいねっ!」

「つれないぞヒカルぅ!」

「やかましい! だいたいこないだのツケも払わないで、何を勝手なこと言ってんだよ!」


 いつもこうして、彼らは自分達が次の賞金首を見つけるまでの、生活費をねだろうとしてくる。


「……まったく……」


 炫はそんな彼らを煙たがりつつ……何処と無く、その眼に憂いを滲ませていた。


 ――この一週間。炫はこの「DSO」の世界の中で、数多のNPCと巡り合ってきた。クエストの受付嬢、賞金稼ぎギルドのマスター、同じ賞金稼ぎのライバル達。個性豊かな「キャラクター」達と、関わってきた。


 だが、その中に彼の記憶と合致する「容姿」の持ち主は、一人もいなかった。彼らは皆、日本人の外見を持っていたのである。

 イマドキの女子高生。頭皮が心配な中年男性。二十代後半のサラリーマンらしき青年。老若男女問わず、誰もがこの世界の「キャスト」として、無意識下で己のキャラクターを演じさせられていた。


 例えるなら、コスプレ大会といったところだが。彼らは「キャラクターを演じる」どころか、人格そのもの・・・・・・を挿げ替えられているかのような、トランス状態に近い精神に変心していた。

 炫と同じ、日本人の顔を持っていながら。炫と同じように、本来の人格を持った「人間プレイヤー」は、一人もいなかったのである。


(信太……俊史、みんな……)


 友達なら、すぐそばにいる。それどころか、一緒に戦ってくれてもいる。しかし、それは鶴岡信太や真木俊史としての意思ではない。

 あくまで、ダイナグとノアラグンという、ゲームによって設定された「プログラム」の範疇でしかない。


 ――近いようで遠く、賑やかなようで孤独。

 そんなえもいわれぬ疎外感の中で生きる彼は、逡巡する。


(……そもそも、なぜオレなんだ。元DSOプレイヤーだから……ではないのだとしたら、本当に単なるランダムで……?)


 あの老紳士は炫と対面するまで、炫が元DSOプレイヤーであることは知らないようだった。もし彼がこの世界の「配役」に関わっていたとするなら、炫が「主役プレイヤー」に選ばれた原因は別にある……ということになる。

 何か他に、彼自身に選ばれる理由があったのか。それとも本当に、単なる気まぐれ……ランダムだったのか。

 少なくとも今は、分かるはずのないことである。


 いつまで、こんな日々が続くのか。現実リアルの自分達はどうなっているのか。……いつになれば、自分達は帰れるのだろうか。


 ふと、そんな弱気が脳裏をよぎろうとしていた、時だった。


「失礼する! 賞金稼ぎや用心棒が集まる酒場とは、ここで間違いないか!」

「……!?」


 酒場一帯に響き渡る、甲高い男の声。

 すると、それまで好き放題にどんちゃん騒ぎしていた連中は全員、目を丸くして声を上げた男に注目した。


 何しろ、ここにいるような者達からすれば、あまりにもその声や、その主の格好は場違いなものだったからだ。

 精巧に作られた鎧を見れば、高貴な出の人間であることは一目でわかる。


「王国の騎士……?」


 一人がそうこぼした途端、一気に場がざわめいた。


「なんで騎士団がこんなところに!?」「まさか騎士団に入れなかった俺達の、今の仕事にまで難癖つけようってハラか!?」


 ならず者達は、思い思いの疑惑を囁き合う。そんな彼らの喧騒を尻目に、突如現れた黒髪の騎士は、しきりに辺りを見渡していた。


「おいおいヒカル、とんだ客人だな」


 ダイナグはうまく話題を逸らせたと思っているのか、調子のいいことを炫に囁いている。


「な……!」


 一方。炫は現れた騎士の人相に、暫し硬直していた。


 ――真殿大雅。彼はその美貌に相応しい鎧を纏い、イリアルダ家の騎士として「キャスティング」されていたのである。


(真殿君がテイガート……! ――なんだろう、こんな状況なのに妙に納得がいく)

「今日は諸君のいずれか一人に、救出任務の同行を依頼したく、参上した。騎士団が救援要請に応じない現状では、諸君が頼りになる。これが報酬金だ!」


 簡潔に用件を述べると、大雅――が扮する騎士は、貴族のサインが付いた一枚の紙を広げ、ならず者達からよく見えるように突き出した。

 一年は遊んで暮らせるような破格の金額に、周囲は喚声に包まれる。


「おいおい騎士団のあんちゃん! 誰を救出しようってのよ!? なんなら俺が一肌脱いでやってもいいんだぜ!?」

「てめぇのストリップなんざ誰も見たかねぇんだよ! それよりワシを雇ってみねぇか!? ワシぁこう見えても若い頃はそらもう……」

「歳食ったオヤジの出る幕はねーよ! それよりこの俺がだな!」


 この場の賞金稼ぎ達はこぞって、依頼を受けようと騎士の男に猛然と迫る。

 しかし、当の騎士は暑苦しい熱気に当てられても、一歩も引く気配がない。本来なら近付かれるのも嫌であるはずだが、そうも言っていられないほどに事態が切迫しているのだろう。


「救出対象は――ユリアヌ・リデル・イリアルダ様だ」


 だが。騎士のその一言で、盛り上がっていた空気が一気に凍り付いてしまった。

 その名前に、炫は他の連中とは違う事情で表情を強張らせる。


 ――ユリアヌ・リデル・イリアルダ。

 この「DSO」シナリオモードのヒロインであり、物語を引っ掻き回すお転婆姫だ。彼女を救い、ラスボスを倒せば、晴れてシナリオモードはクリアを迎えられる。

 ……もっとも、それは炫が知る「DSO」の話であり、この世界に当てはまるとは限らないのだが。


「マジかよ……イリアルダの格闘娘じゃねぇか」

「暴れ豚五十頭を素手でブチのめしたって噂のあの怪力女がさらわれるって……相手はどんなバケモンなんだよ」

「それはわからない。ただ、目撃情報を元手に追うことは容易だ。今必要なのは、戦力に他ならない」


 淡々と現状を説明してみせる騎士だが、周りのならず者達は先ほどまでの威勢が嘘のように萎縮している。


 ユリアヌ・リデル・イリアルダといえば、没落貴族イリアルダ家の令嬢にしてイリアルダ式格闘術の使い手だ。

 その手腕は、慈悲なき冷酷な山賊さえ黙らせる程と言われている。


 それほどな怪物を捕まえてしまうような、それ以上の怪物と戦え。

 この依頼は――そう解釈して差し支えないのだ。


「はは、こいつはちょっとキツイぜ……」

「ど、どうもワシには向いとらんかった依頼みたいだのう」


 賞金しか目に入らずにがっついていた連中は、頭を冷やしてその場から引き下がっていく。

 そんな手の平返しを前にして、騎士の表情が険しくなる。頼みの綱の賞金稼ぎですらこれでは、いよいよ万事休すとなってしまうからだ。


 だが、光明はある。それが「主人公プレイヤー」の役割なのだから。


「わかった。オレが行く」


 周囲を一瞥し、立候補者がいないことを確認した上で、炫は名乗りを上げた。「DSO」では稀に、他の立候補者に随伴する形でこの依頼に応じるケースもあるのだが――どうやら今回は、そんな猛者が現れる気配はなさそうだ。


「おお、やる気かヒカル! ガッツあるなあ!」


 ダイナグは空席が一つだけなのをいいことに、他人事扱い。


「実は俺とノアラグンも別の依頼されててよぉ、お前だけ仲間はずれにしちまうのは気が引けるから、返事は保留にしてたんだが……」

「行くのがお前一人だってんならちょうどいいじゃねぇか、応援してるねっ」

「なんだ、そうだったのか? 別に構うことないのに、律儀だな全く。じゃあ、行ってくるよ」


 ――それでも彼らがいたからこそ、ここまで致命的な負傷もなくたどり着くことが出来たのも、事実。

 ヒカルは特に文句を言うこともなく、席を立った。


(……本来ならダイナグとノアラグンも、オレと同行するはず。やはり、本来の「シナリオ」とは違う展開になろうとしているな……)


 だが、ここでも炫が知る「DSO」とは合致しない状況が発生していた。この先に待っているであろう「物語の結末エンディング」は、どこに向かうのか。

 それは、かつてトッププレイヤーとして名を馳せた彼にも、予見できない。


 ◇


 例の騎士の前に立つと、テイガートは怪訝そうな顔で炫をジロジロと見ている。


「王宮での直談判が通じなかったとは言え、よりによって残ったのがこんな子供だとは……ユリアヌ様、マクセル様、どうかお許しを……」


 最終的に名乗りを上げたのが少年一人、という状況への嘆かわしさゆえか。彼は懺悔するように、暫し目を伏せる。

 到底戦力として当てになどできない、といわんばかりの反応だ。予想していたこととはいえ、露骨なまでに侮った対応を見せられ、炫は微かに眉を顰める。


 ――本家の「DSO」でも、ここまで邪険にはされなかった。やはり、大雅の人格がテイガートの「キャラクター」に影響しているのか。


「……お嬢様を救うことが、あなたの誇りなんだろう。汚い小僧一人を引き連れたくらいで、その誇りが汚れるものか」

「くっ……」


 大雅の顔を持つ彼の前で強気に出るのは気がひけるが、多少は威勢を示さないと話が進まない。

 炫はクリア後に彼ら「キャスト一同」が、この世界での出来事を覚えている可能性に冷や汗をかきつつ、あくまで毅然に対応する。


 一方、テイガートは言葉に詰まったのか、バツが悪そうに炫から目を逸す。よほど、後がないのだろう。


「……やむを得ん。賞金稼ぎとして生計を立てているならば、多少は戦えよう。名は何と言う?」

「ヒカルだ」

「ヒカル……だと? 変な名前だな」

「ほっといてくれ。……しかしオレとあなただけでやるのか?」

「仲間はいる。外で待機してるから挨拶しておけ」

「ん、わかった騎士さん」

「私はテイガート・デュネイオンだ。覚えておけ」


 炫の問いに、テイガートは鼻を鳴らしてぶっきらぼうに答える。

 主人公にいい印象を抱いていない、という点は本来のキャラ付け通りだが、その言動はいつにも増してエスカレートしているようだった。


 没落とは言え立派な貴族の人間を救うのに、薄汚い庶民の手を借りなければならない。そんな屈辱感ゆえの感情、なのだが。明らかにそれ以外の「私怨」も入っているように感じられる。

 ――やはり、大雅の炫に対する反発心が、テイガートの威圧に拍車を掛けているらしい。


 そんな思いがけない悪影響に頭を抱えつつ、酒場を出た炫を、テイガートと同じ鎧を纏った少女が出迎えてくれた。


「あ、ど、どうも! 私、ネクサリー・ニーチェスという者です! この度はよろしくお願いしますっ!」


 そこで、炫はハトが豆鉄砲を食らったような顔になる。


「……蟻田さん?」


 ……栗色のセミロングを揺らす、小柄な少女。間違いなく、蟻田利佐子の人相だ。


(蟻田さん……無事でよかった。ネクサリーの役ということは、そうそう彼女が殺されるような展開にはならないはず)


 利佐子がネクサリーの人格を与えられていたことに、炫は不幸中の幸いだと胸をなで下ろす。


 「DSO」のシナリオモードでは、ネクサリーは最終的に、マクセル達を連れてラスボスの魔獣から避難する役目を請け負う。エンディングまで生存していることが確定しているキャラだ。


 仮に利佐子――ネクサリーがこの世界で死んだところで、現実の肉体に影響があるとは限らない。が、この状況そのものが異常である以上、何も起こらないとも考えにくい。

 だから炫自身も、ダイナグとノアラグンが信太と俊史であると知って以来、彼らを決して死なせない立ち回りを続けてきたのだ。


「オレは……ヒカル。短い間だが、よろしくな」

「はいっ! こちらこそよろしく……?」


 これからも、それは変わらないだろう。炫は握手を求め、右手を差し出す。ネクサリーも、たどたどしい様子でそれに応じようとする――のだが。


「……?」

「どうした?」

「あの……私達、どこかで一度、お会いしましたか?」


 小首を傾げ、不思議そうにそう問いかけて来た。そんな彼女の言葉に、炫は苦々しく目を背ける。


(……蟻田さん……)


 ――テイガートが大雅の人格に影響されていたように。ネクサリーもやはり、利佐子の影響を受けているようだ。

 「DSO」本来のネクサリーにこんな台詞はないし、過去に主人公と面識があった、などという設定もない。


 会ったことがあるだろう、オレだ、同じクラスだ。飛香炫だ。思い出してくれ。

 ――そう訴えたところで、今の彼女はまず理解しないだろう。利佐子の影響があるとはいえ、基本的な人格は「ネクサリー・ニーチェス」というNPC。AIだ。


 手が届くどころか、こうして目の前にクラスメート達が集まり始めているというのに。誰一人、本来の人格を塗り潰されている。

 唯一それを認識している自分は、そのことを伝えることすら叶わない。


「……」

「ヒカル、さん? どうしたんですか、どこか痛むんですか?」

「……いや、なんでもないよ。ありがとう」


 そんな歯痒さに顔を顰める炫に、ネクサリーは心配げに顔を覗き込んでくる。その甲斐甲斐しさは、まるで利佐子本人のようだった。彼女の姿をしている分、余計に強く、そう感じてしまう。


 しかし、彼女の優しさは蟻田利佐子の人格ではない。ネクサリー・ニーチェスのAIによるもの。

 ――その事実に、炫が拳を震わせた時。


「ネクサリー、そろそろ出発だ」

「はい!」


 準備を終えたテイガートが戻り、いよいよ旅立ちの瞬間を迎えることとなった。炫は名残惜しげにネクサリーから視線を逸らし、未練を断ち切るように踵を返す。

 ――今ここにいるのはネクサリー・ニーチェス。蟻田利佐子じゃない。そう、己に言い聞かせるために。


「なんだよ〜、美少女連れてピクニックなんて、羨ましいにもほどがあるもんねっ!」

「さっきから見てたら、なんかイイ雰囲気だったじゃねぇか! なんだよヒカル、お前さっそくハッスルかあ!?」


 そして、いざ出発と思いきや。

見送りに来たダイナグとノアラグンの二人が冷やかしに掛かる。


「あ、いえ、その……! わ、私そういうことは……!」

「……」


 それを受け、ネクサリーは頬を赤らめてそそくさと後退りしてしまう。余計なことを口走る二人に、炫は無言で睨みを効かせた。


「何をモタモタしている! 行くぞネクサリー! あとヒカルとやら!」

「は、はいっ!」

「ああ。……まったく、もう」


 そして。テイガート率いるユリアヌ救出隊は、ようやくこの街を出発する。

 陽気そのものな友人二人や、本来の人格以上に自分を嫌う騎士に、ため息をつきながら。炫はいよいよ、「物語」を動かすべく旅立つのだった。

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