1348.目覚めた、聖剣の擬似人格。

 俺は『聖剣 グリムカリバー』を、改めて里の人たちに掲げた。


 そして、鞘から抜き放った!


 やはり剣の部分は、薄っすらと色違いに光っている。虹のような感じだ。


 その光は、揺れているようにも見える。


 なぜ抜いたかと言えば、疑似人格を持つに至ったという機能を確かめるためだ。


 剣を掲げた俺は、少しずつ魔力と生命エネルギーを流す感覚で集中する。


 付喪神化させるときの感覚に似ているが、『波動』スキルの『生命力強化』コマンドを発動しているわけではない。


 また、魔剣ではないから必ずしも魔力が必要というわけではないだろうが、最初の起動には何かしらの力が必要だろうというトウショウさんのアドバイスより、このような形になっている。


 魔力と生命エネルギーが流れ込んでいくのがわかる。


 途中からは、吸い上げられるような感覚に変わっている。


 そんな感覚を確かめていると、薄っすら輝いていた聖剣が、突然に強く輝いた。


 まるで虹色の炎を纏ったかのようだ。


 周りで見ている人たちからは、大きな歓声が上がる。


 少しの間虹の炎を纏っていたが、その後それは収束し、綺麗な虹色の光沢の剣として固定された。


 そんな時だ——


「マスターグリム、私は聖剣グリムカリバーです」


 突然、声が響いた。


 俺の脳内に聞こえているわけではない。

 普通に言葉として発せられている。


 中性的な、そして少し機械音声的な感じのトーンだ。


 どうやらこの剣に宿った疑似人格が、目覚めてくれたようだ。


「君が聖剣に宿った疑似人格かい?

 俺はグリムだ。よろしくね」


「はい、よろしくお願いします。

 私は……いわば生まれたばかりの状態です。

 様々な情報をこれから集積し、マスターグリムのお役に立てるようになりたいと思います。末永くよろしくお願いします」


「ありがとう。こちらこそよろしく」


「それから、私に自然発生したプログラムにより、成長する聖剣となります。

 成長の最善を期すために、この後は、人族に似た成長過程を歩むこととします。

 そのため私は、この後、第一段階として幼女のような状態になりますが、お許しください。

 成長とともに、この大人の状態になると思います。

 ただ先の事は分かりませんので、状況により幼女のままかもしれません。

 全ては、今後の可能性次第ということになります。

 そして、しばらくの間は赤子のように眠りたいと思います。

 ずっと眠り続けるか、時々起きるのか、もう眠らなくなるのか、それも今ははっきりとはわかりません。

 全ては不確定ですが、何卒よろしくお願いします」


 うーん、なんか色々言ってるけど……どういうこと?


「えーっと……どういうことかな?

 しばらく眠っちゃうってことかな?」


「はい、その通りです。

 その前に一つだけお願いがあります」


「お願い……?」


「はい、改めて私の名前をつけてください。

 もちろん正式名は『聖剣 グリムカリバー』ですが、人族のように成長を歩むにあたって、可愛い名前が欲しいです。

 グリムカリバーって、あまり可愛くないですよね?」


 え、名前気に入ってたんじゃないのか……? 


 まぁいいや……とにかく可愛い名前が欲しいってことか……。


 愛称的な感じでいいかなぁ……?


 確かにグリムカリバーって呼びにくいよね。

 もちろん可愛くもないし。

 俺的にはパチモン感半端ないし……。


 なんとなく……女の子っぽいというか、幼女になるって宣言してる時点で女の子属性だから……そうだなぁ……グリムの一部をとってリムってどうかな?

 リムちゃんなら呼びやすいし。


「リムなんてどうかな?」


「わあ、可愛いです! 気に入りました!

 それではマスターグリム、わたくしリムはしばらく寝ながら成長したいと思います。

 次に目覚めたときには、可愛い幼女の口調になっていると思いますので、お楽しみに。

 あぁ……もしかしたら、赤ちゃん的な感じかもしれませんけど、その時はごめんなさい」


 そう言って、グリムカリバーは一瞬光った後、静かになった。


 次に目覚めた時に赤ちゃん的な感じだったら、会話とかできないと思うんですけど……。


 まぁ今考えてもしょうがないな。


 なんか怒涛の展開だったけど……やはり魔法AIのような擬似人格が宿ったのは間違いなかった。


 そしてどんな機能かわからないが、人族みたいに成長したいということだから、ある意味楽しみだ。

 成長する聖剣ということだよね。


 まぁ実際は、あまりピンと来ていないけどね。

 人型に顕現でもしてくれたら、わかりやすいんだろうけどね。


 しばらく赤ちゃんみたいに寝てるみたいだから、ゆっくり寝ていてもらうとしよう。


 ここまでの一連の様子を見ていた里の人たちは、ただただ呆然としている。


 それでも、俺と聖剣の会話が終わったのがわかり、少しずつ雑然としてきた。

 最終的には「おおぉぉぉ!」とか「歴史の瞬間に立ち会ったぁぁぁ!」とか「ほんとに魂が宿ったぁぁぁ!」みたいな叫びと共に、大歓声が起きた。


 ちなみに、あくまで魂は宿っていないけどね。


 ただなんとなくだけど、このまま成長したら魂が宿って付喪神になってしまいそうな気はする。


 特に俺が意図的に『波動』スキルの『生命力強化』コマンドを使えば、間違いなく付喪神化できてしまいそうな予感はするよね。


 まぁそこは、今後の状況次第で決めればいいだろう。


 付喪神化しちゃうと収納系スキルで収納できなくなっちゃうし、無理に付喪神化する必要もないかもしれないからね。

 魔法AIというかこの聖剣の擬似人格が優秀だったら、そのままでもいいかもしれないからね。


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