1293.薬師ギルドを、ロックオン!
『ツリーハウスクラン』に戻って、改めて『水使い』のアクアリアさんに解呪をお願いした。
ただ、対象は人ではない。
呪われた武具である。
そうあのゴロツキたちのアジトで没収した呪われた金棒だ。
ドラッグン子爵邸で没収した三本と合わせて、合計六本ある。
うまく解呪ができれば、普通の魔法の武器として使える。
クランの冒険者たちに使わせてあげようと思っている。
俺の印象では、呪いの部分だけ取り去って、本来の魔法的な機能は残せそうな気がする。
呪いの部分が、密接に魔法機能と絡み合っている感じはしないのだ。
「……多分、私も大丈夫だと思います。
後から無理矢理呪いを付け加えたという感じがしますから、その呪いの部分だけ除去できると思います」
「そうだね。呪いと同時に魔法の武器になったのではなく、もともとあった魔法の武器に後から呪いをかけたという感じだよね」
俺たちはそんな感想を言い合って、早速解呪を試すことにした。
……俺たちの予想通り、問題なく解呪することができた。
よし、これをクランメンバーの希望者に使わせてあげよう。
まぁ無理に使う必要はないんだけど。
金棒の正式名称は、『魔具 剛力金砕棒』で『
魔力を流すことで自動的に両腕の筋力を強化し、攻撃力を二倍にするという性能だ。
攻撃力二倍は、恐るべき能力である。
棍棒使いのアタッカーはあまりいないが、無理矢理に剣のように使えなくはない。
使いたいという者は、結構いるかもしれない。
それから……呪いが付加された回復薬についても解呪してもらった。
さっきギルドで確認したときに、回収してきたのだ。
ギルドで回収した回復薬のうち、確認が終わって呪われた回復薬と分かっていた物を引き上げてきていたのである。
これも後から呪いをかけているわけだから、簡単に解呪できると思ったのだが……なぜかできなかった。
どうも呪いの力が液体と密接に混じり合って、回復薬が呪いの液体そのものになってしまったようだ。
だから、この液体を解呪することは諦めた。
廃棄するしかないだろう。
まぁ実際には、俺の『波動収納』に死蔵しておくけどね。
今後研究とかが必要になる可能性があるから、一応保管しておくことにした。
それにしても、解呪できないのは全く予想していない結果だった。
液体と混じり合って不可分になったという予想を立てているが、それを飲んでいる人間を解呪することができるのに、液体自体が解呪できないのは理屈に合わないような気がするんだよね。
まぁ今の時点で考えてもしょうがないことだが。
そんなこんなで一段落したところで、クランメンバーのハッパさんがやって来た。
ハッパさんは、クランで情報収集を担当してくれている諜報部隊みたいなポジションの冒険者チームのリーダーである。
彼に頼んであったドラッグン子爵周辺や薬師ギルドについての調査報告をしに来てくれたのだ。
報告によれば、ドラッグン子爵にはこの前一緒に来たオベッカ男爵以外にも取り巻きと言える貴族が十五家ほどいるそうだ。
いわゆるドラッグン子爵派ということだろう。
そして太守のムーンリバー伯爵とは、違う派閥の者たちである。
ただ重要な役職の者は少なく、皆利権に群がる守銭奴みたいな貴族ばかりとのことだ。
という事なら、そんな貴族たちはやっつけちゃって構わない感じだよね。
まぁしばらくは自重するけどさ。
それから、利権の中心である薬師ギルドについては、かなり酷い状態とのことだ。
薬師ギルドのギルド長、副ギルド長、会計担当など幹部たちは皆ドラッグン子爵の息のかかった者たちで、派閥の貴族たちの子弟らしい。
薬師ギルドのメンバーである薬師たちの待遇は、かなり極端になっているようだ。
ギルド幹部に協力的な一握りの大きな薬師工房は優遇されているが、ほとんどの薬師や中小の薬師工房はきつい締め付けにあえいでいるらしい。
自由に製品を販売することが許されず、全て薬師ギルドに収めなければならない。
それなのに、ギルドでの買取価格は低く抑えられて、必死で生産しても生活するのがやっとという者がほとんどとのことだ。
働いても生活が楽にならない厳しい状態と言える。
薬師ギルドはかなり利幅を取っていて、その利益の相当な部分をドラッグン子爵に納めているらしい。
もちろん密かにということだろう。
完全に利権構造が出来上がっているわけだ。
薬師ギルドに意見するような薬師は、すぐに冷遇される状況で、買取価格を下げられたり、難癖をつけられて商品の納入を拒否されたりするらしい。
中にはギルドから追放されて、迷宮都市で生活できなくなった薬師もいるそうだ。
ギルドの縛りを無視して個人的に薬を販売した薬師も過去にはいたが、前に噂を聞いたように、大怪我をしたり命を落としたりしたとのことだ。
また、この街にやって来て薬師の仕事をしようとする者は、薬師ギルドに入ることができず、仕事ができない状態にされている。
まぁこれは既存の薬師を守るためと言えなくもないが、他の街の薬師ギルドの状況を知っている者を入れると、不穏分子となる可能性が高いから入れたくないのだろう。
まぁいずれにしろ、薬師ギルドに所属しているほとんどの薬師は何らかしらの不満を持っているだろうとのことだった。
俺は、その報告を聞いてニヤリとしてしまった。
俺が、予想していた通りだったからだ。
この状況なら、話が早い。
薬師ギルドを崩壊させる事は、容易いだろう。
そう俺は、ドラッグン子爵の利権の中心である薬師ギルドそのものを、事実上崩壊させてしまおうと考えているのだ。
『黒の賢者』の情報取得のために、ドラッグン子爵はしばらく泳がせるが、利権の中心である薬師ギルドは別だ。
薬師ギルドは、既に俺にロックオンされているのだ。
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