1290.月光教会の、巫女。
第八号迷宮『システマー迷宮』から、『ツリーハウスクラン』に戻って来た。
もう夕方の時間帯になっていた。
俺は、流通してしまったあの呪われた回復薬の被害が気になり、『冒険者ギルド』を訪ねることにした。
今日も冒険者の中で被害が出ている可能性がある。
『冒険者ギルド』の受付に行き、担当のリホリンちゃんに確認すると、案の定被害は出ていた。
狂乱状態になってしまった冒険者が六人もいるらしい。
『冒険者ギルド』の買取センターの一画に、縛り付けられて寝かされているとのことだ。
解呪しないと、肉体の強化が終わっても狂乱状態のままなんだよね。
俺が捕まえたゴロツキたちも同じ状態で、ムーニーさんが『月光教会』の巫女に頼むと言っていたが、『冒険者ギルド』でもその巫女にお願いしているらしい。
だが、まだ来てくれていないようだ。
ちなみに、ギルド長は出かけていて不在とのことだ。
俺は、ギルド会館の隣にある買取センターに顔を出した。
確かに、六人の冒険者が縄でグルグル巻きにされている。
周りには、かなりの人がいる。
おそらく、それぞれのパーティー仲間だろう。
昨日も冒険者三人に被害が出ていたが、その人たちは衛兵隊で、ゴロツキたちと一緒に隔離されている。
呪いが解かれるのを待っている状態だ。
教会の巫女は衛兵隊のほうに行っているようで、『冒険者ギルド』にいつ来るかは、わからないとのことだ。
まぁそもそも、教会の巫女の解呪が成功するかは、わからないんだよね。
現時点では、衛兵隊詰所での解呪が上手くいったという報告も来ていないようだし。
俺は、目処が立っていない現状に鑑みて、『水使い』のアクアリアさんを呼ぶことにした。
彼女なら確実に解呪ができるからね。
そして『絆』メンバーでもあるから、念話で呼ぶことができるのだ。
買取センター長のドンベンさんに、解呪ができるかもしれないと協力を申し出たが、特に問題はなく受け入れてもらえた。
……しばらくすると、アクアリアさんが来てくれた。
「グリムさん、お待たせしました。解呪するのは、この方達ですね?」
「そうなんです。早速お願いできますか?」
「分りました」
アクアリアさんが解呪に取り掛かろうとしたちょうどその時、豪奢な馬車が、ギルド前に止まった。
買取センターも、ギルド会館一階の酒場と同じくオープンになっているので、外の様子がわかるのだ。
アクアリアさんが、俺の顔を見てきたので、手で合図して解呪を止めた。
馬車から綺麗な女性が降りてきた。
金髪の色っぽいお姉さんだ。
聖女かと思うような神聖な感じの白い衣装も美しい。
金の縁取りが入っていて、胸のところには『月光教会』のエムブレムが入っている。その部分も、輝く金色だ。
教会のエムブレムは、満月の右に下弦の月、左に上弦の月があるという印象的なものだ。
たぶん、この人が教会の巫女だろう。
「お待たせしました。『月光教会』の巫女ムーンラビーです」
「巫女様、お越しいただき、ありがとうございます。解呪が必要なのは、この者たちですが、何とかなりますか?」
買取センター長のドンベンさんが、丁寧な対応で迎え入れた。
彼は、ニアの残念親衛隊改め自警団『ニアーズハイ』の名誉隊長でもあるが、今はギルドの幹部としてしっかり仕事をしているようだ。まぁ当然か。
馬車から降りてきた女性は、予想通り『月光教会』の巫女だった。
お付きの従者のような人や護衛が、六人も同行している。
かなりの重要人物のようだ。
アクアリアさんを呼んだのが無駄になるが、折角だから実力の程を見せてもらおう。
アクアリアさんも、俺のそんな気持ちを察したらしく、俺と視線を合わせた後に頷いた。
「早速、解呪しましょう」
「本当ですか? ありがとうございます」
進み出た巫女を、ドンベンさんが案内した。
「
巫女ムーンラビーさんが
そして、呪われた人たちの体を覆い尽くす。
すると今まで縛られながらも暴れるように体を動かしていた冒険者たちの動きが、ピタリと止まった。
そして表情も安らかになった。
……解呪できたようだ。
お見事、素晴らしい。
任せて大丈夫そうだね。
そのまま見ていると、三人解呪したところで魔力切れになったようだ。
衛兵隊の詰所でも、解呪してきたのだろうから、もともと魔力を消耗していたのだろう。
彼女は、平然として魔力回復用の魔法薬を飲んで、続けて残り三人の解呪をしてくれた。
かなり疲れているように見える。
消耗の大きいスキルなのかもしれない。
このスキルは、当然のことながら俺も初めて見るスキルだ。
特別なスキルなんだろうか……?
俺は、なんとなく気になり……そして何か予感めいたものを感じて、申し訳ないが『波動鑑定』をさせてもらった。
本当は、個人情報なので無闇に『波動鑑定』をしないようにしているのだが、なぜか『波動鑑定』をしたくなっちゃったんだよね。
……決して、この巫女さんが色っぽい美人さんだからではない。そこは、強く主張しておきたい……。
それはともかく、なぜ俺がなんとなく『波動鑑定』したくなったのかは、すぐにわかった。
彼女のステータスが、偽装されていたのだ。
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