1284.付喪神化で、天然の迷宮により近くなる。

 俺がしばらく黙って見ていると、雰囲気を察知したらしく二体の立体映像のじいさんがおとなしくなった。


「……えっと、まぁ我々二人でマスターをフォローするので、遠慮なく使ってほしい」


「そうである。我は皇帝の思考がベースとなっているが、皇帝ではないので、気軽に使ってくれてよいぞ」


 賢者コータローの思考をベースにした『迷宮管理システム』と、皇帝ゴールディの思考をベースにした『迷宮管理サブシステム』の二人が、少し気まずそうな表情をしながら俺に言った。


 俺をほったらかしで二人で戯れていたことを、一応反省しているらしい。


「分りました。ありがとうございます。それでこの迷宮の特徴はやはり……」


「そう、人造迷宮を作る秘匿された技術そのものである。“人造迷宮創造技術”の結晶、それがこの迷宮の特徴と言えるのう。

 だから第零号迷宮は、テスト用迷宮ではないとも言えるかのう。

 まぁ厳密に区別しているわけではないのだが」


「なるほど。ただそうなると、もはや迷宮というよりも、研究所みたいな感じですね」


「それもそうだのう。迷宮と言いつつも、人を招き入れることを前提としておらんからな」


「それを言ってしまえば、全てのテスト用迷宮が同じだぞ、ガッハッハ」


 傍で聞いていたサブシステムの皇帝じいさんが豪快に笑った。


 それを聞いて、「それもそうだのう」と言ってメインシステムの賢者じいさんが笑った。


 この二人、迷宮のシステムになっても、かなり仲が良いようだ。


「あの……この第零号迷宮のダンジョンマスターになったことによって、ここにある技術を使って新たに迷宮を作り出すことが可能になるのでしょうか?」


「そうなるのう。ちなみに、創造できる迷宮の仕様は、本格稼働迷宮の第二世代型までだ。

 この迷宮を作って休眠させるときには、第二世代型までは完成していたからのう。

 マスターは、本格稼働迷宮の第二世代型のマスターにもなっておるようだのう。

 波動情報の記録がある。さすがですな」


「ええ、実はそうなんです。ただその迷宮『セイチョウ迷宮』は、今は付喪神化していまして……」


 俺は、『セイチョウ迷宮』が付喪神化した経緯を詳しく説明した。


「ほほほ、なるほど、すばらしいのう。さすがマスターだ」


「そんなことをなせるとは……素晴らしい! 我が皇帝であったならば、最高勲章を与えるところだぞ」


「付喪神化した事は、人造迷宮に悪い影響は与えないですよね?」


「もちろんだ。天然の迷宮が生き物みたいなものだから、人造迷宮が付喪神化できたことは、より天然の迷宮に近づいたと言うこともできるしのう」


「我は思うのだが、テスト用迷宮を全て付喪神化したらどうじゃ」


「実は私もそうしようかと思っていたのですが、問題ないでしょうか?」


「ああ、それは全く問題ない! お互いのシステムが、まさに有機的に繋がる感じにもなるしのう」


 賢者じいさんが、めちゃめちゃハイテンションだ。


「そうじゃそうじゃ! この第零号迷宮も含め十個全部付喪神化できるのなら、やっておくれ」


 皇帝じいさんも、すごいハイテンションだ。


「はい、時間はかかるかもしれませんが、私のスキルを使えばできると思います。

 ただ『再起動復旧モード』中の迷宮は、『再起動復旧モード』が終わった後のほうがいいですよね?」


「そうじゃのう。そうしたほうが良いだろう。

 まぁ『リンクダンジョンズ』になったことによって、『再起動復旧モード』自体も早められる可能性があるから、その後でいいだろう」


「焦る必要もないが、楽しみだのう。我ら第零号迷宮はどうするかね?」


「そうだのう……念のために、一度『再起動復旧モード』はやっておきたいのう」


「そうか……じゃあしばらくお預けだな……」


 まずい、また二人の世界に入っている。


「わかりました。じゃあここも、この後『再起動復旧モード』に入るんですね?」


「そうだのう。まぁそれほど時間はかからないとは思うがの」


「ではその後にしましょう」


「そうするかのう」


「楽しみだが、我慢しよう」


「『再起動復旧モード』に入るから、この迷宮の技術はそれが終わるまで使えないですよね?

 もっとも、人造迷宮を新たに創造する予定はないんですけどね」


「そうだのう、『再起動復旧モード』が終わってから、本格的に使ってほしい。

 それから、人造迷宮は別に作らなくてかまわんよ。

 むしろ、そのぐらい慎重なほうがありがたい。

 ただ……人々の生活が豊かになるために人造迷宮を活用するなら、当初の理念に沿うから大歓迎だよ」


「分りました。その時はお願いします」


 俺はそう言って、頭を下げた。


 今までは、ダンジョンマスターになったテスト用迷宮のいくつかを、今後状況が許せばオープンにして、人々の生活が豊かになるように活用しようかと思っていた。

 だが、テスト用迷宮だけに機能や仕様が限定されていたりする。


 むしろ、ここの技術を使って、新たに迷宮を作った方がいいのかもしれない。


 実は、もう少し先の話だけどピグシード辺境伯領の復興というか、人寄せの目玉として、領都に近い場所にあるテスト用第二号迷宮『イビラー迷宮』の一般開放も考えていたのだ。


 だが、人造迷宮創造の技術が手に入ったから、テスト用迷宮を無理に活用しないで、新たに作った方がいいだろう。


 そして、領都ピグシードの近くではなく、今後復興する都市の近くに迷宮を作った方が、移住者を集めるのにいいだろう。


 その方向で考えてみよう!



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