1270.無理矢理感がハンパない、ニアーズハイ十二神将。

 ニアの残念親衛隊が、自警団組織『ニアーズハイ』として正式に活動を開始することになった。

 名誉隊長は、冒険者ギルドの買取センター長のドンベンさんだった。


 人員の紹介は、ここからが本番だ。


 俺に挨拶をするために『ツリーハウスクラン』を訪れて、控えていた幹部たちが次々に挨拶を始めたのである。


「グリム様、改めてご挨拶させていただきます。

 私は、ニア様親衛隊『ニアーズハイ』の隊長、そして事務局長を仰せつかったシュウレンと申します。

 『炎のシュウレン』という二つ名を賜っております」


 そう挨拶をしたのは、三十代手前といった感じの赤い短髪の男だった。


 いつも見る残念親衛隊の中では、比較的落ち着いた感じの人だ。


 隊長と事務局長をやるのだから、組織の運営は彼が取り仕切るのだろう。


 改めてしっかり挨拶されると、残念な人たちの集団にしか見えなかった残念親衛隊の中にも、しっかりした人はいたようだ。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 俺は少し苦笑いをしながら、手を差し伸べ握手をした。


「ありがとうございます。これからは、ニア様を崇めるだけではなく、人々のお役に立つように誠心誠意努める所存でございます」


 シュウレンさんは、真剣な表情で俺に言ってくれたのだが……あなたたち冒険者だよね?


 本業は、大丈夫なんだろうか……?

 いや、ここでそれを言うのは野暮か……。


「……無理のない範囲で頼みます」


「はい、承知いたしました。それでは、組織を運営する幹部を紹介させていただきます。

 私を除いた十二人で、『ニアーズハイ十二神将』という呼び名をいただきました。

 それでは、その者たちから一言ずつご挨拶をさせていただきます」


 そう言って、シュウレンさんは大仰に頭を下げた。


 何なのこれ?

 『ニアーズハイ十二神将』って……?

 この変な風な作り込み感……残念でしかない。


 確か十二神将って……薬師如来の部下的なやつだよね?

 ニアを薬師如来に見立てているのかな?


 いずれにしろ、この無理やりなネーミングは、見かけは四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんか、『ランダムチャンネル』で情報が取得できる『ライジングカープ』のキンちゃんあたりの入れ知恵だな。


 組織のトップであるシュウレンさんが入っていないあたり、無理矢理十二人に抑えたかったのが、見え見えだよね。


 そんな俺の困惑をよそに、自己紹介が始まってしまった。


「私は、山のブドウ。子供は国の宝、いえ我らの未来です。私は、子供たちの安全を守ることに特に力を入れたいと思います」


 大柄な山のような大男が、優しい笑顔を作りながら挨拶をしてくれた。

 彼は、垂れ耳の犬の亜人だ。


 彼も、残念親衛隊の中では、あまり馬鹿騒ぎをしない落ち着いたメンバーだと思う。

 その体躯から当然見知っていたが、確かいつも後ろの方でバカ騒ぎするメンバーを優しく見守っていた人だと思う。


 幹部の選定にあたっては、ニアに対する熱狂度よりも、実力で選んでいるということなのだろう。


 まぁ当然と言えば当然だが。

 そして冷静に考えると、騒がないからといって、熱狂度が低いという事でもないんだよね。

 静かに熱狂しているタイプかもしれないからね。

 まぁそんなことはどうでもいいか。


「俺は、雲のジュウタン。俺は、冒険者の自由を脅かすような存在は許せないねぇ。

 貴族だろうと、自由を脅かす奴、弱者を踏みにじる奴はただじゃおかないぜぇ」


 猫の亜人で、青髪のイケメンである。

 凄くお気楽な感じの優男といった雰囲気もある。

 なんとなくムーニーさんに雰囲気が似ていたりする。


 この人は、残念親衛隊の中でもノリがいい騒ぐタイプの人だ。


「我は、海のトリハク。改めてご挨拶をさせていただきます。少々歳を取っておりますが、必ずお役に立って見せましょう」


 彼は、白髪で四十過ぎに見えるかなりベテランの冒険者だ。


 だが、筋肉質で頑強な体躯だ。

 生真面目な雰囲気だが、ノリは良さそうな男だ。


「剣のイッセンです。俺めっちゃがんばるっすよ」


 今度は二十代のチャライ感じの金髪男だ。


 今まで出てきた中で一番若い。

 残念親衛隊の中でも、いつもノリ良く騒いでいる一人だ。


「私は槍のシトツ。ニア様、そしてグリムさんの役に立てるのは、身に余る光栄です」


 今度は、打って変わって真面目そうな人だ。

 だが、この人も酒を飲むと結構盛り上がっていた人だな。

 酒を飲むと変わるタイプなのかな。


「我こそは、斧のボンバー。立ちはだかる敵は、斧で粉砕します」


 金髪ロングそして口ヒゲを蓄えた四十代ぐらいの濃い男が、腕を曲げて力コブを作った。

 この人も、いつも盛り上がっている陽気な人だ。


「弓のツル。狙い撃つぞ!」


 彼は、ワイルドな感じの三十代だ。

 大騒ぎしている盛り上げ要員でもある。


「盾のユウ。守りはお任せを!」


 初の女性だ。

 残念親衛隊では見た記憶がないけど……最近入ったのかな?


 三十代くらいの大柄な女性で、愛嬌のある優しい顔つきだ。

 残念親衛隊は、むさい男集団だとばかり思っていたが、女性もいたんだと感心しつつ、少し話を訊いた。


 それによれば、やはり残念親衛隊の奴らといつも一緒にいるわけではなかった。

 だが、中堅冒険者同士と言うことで顔見知りが多く、今回自警団組織を作るというに賛同して、入ってくれたらしい。


 もともと『ツリーハウスクラン』の賛助会員にはなっていた人なのだ。

 なんとなく見覚えがあると思ったら、やはり賛助会員になってくれていた女性冒険者の一人だったわけである。


  『ツリーハウスクラン』に入りたい希望者の中で、中堅冒険者は、一旦断って、性格に問題がない人は賛助会員を勧めていたわけだが、女性の中堅冒険者もかなり会員になってくれていたんだよね。


 彼女は、その賛助会員の女性冒険者の中でも顔が広く、中心的な存在らしい。


 女性だけのパーティだけではなく、男性パーティに入っている女性冒険者とも、広く交流があるとの事なので、本当に中堅女性冒険者のリーダー的な感じなのだ。


 彼女は、残念親衛隊が持つ独特の残念な感じの雰囲気がないので、今後の活躍に大いに期待したい。

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