1265.子供勇者軍団、できたりしないよね?

 ハウジーちゃんに発現していた『勇者の可能性』の『称号』だが、実は他にも発現していた子供たちがいるのだ。


 それは、十一歳のカーゼルちゃんと同じ十一歳のミズリー君の二人だ。


 この子たちも、ツリッシュちゃんを助けて、小さい子の面倒を良くみていた中心的な子達なのだ。


 もしこの子たちも将来的に『勇者』の『称号』を得ることができれば、『ツリーハウスクラン』の子供たちの中から四人も勇者が誕生することになる。


 なんか……冗談でスーパーキッズ軍団になっちゃうかもと思ったけど、それ以上の存在になってしまいそうだ。


 まさか将来的に……『養育館』の子供たちが、勇者軍団になったりしないよね?

 百人規模の子供勇者軍団……いや、さすがにないな。


 まぁ、できたらできたで構わないけどさ。


 勇者の人材派遣業でもするかな……いかんいかん、思考が暴走してしまった。反省、反省。


 いずれにしろ、この子たちにも期待だ。

 もちろん他の子たちもだ。

 『勇者』の称号とか『勇者の可能性』の称号とか関係なく、この子供たちは、人々を助ける素晴らしい存在になってくれるはずだ。


 自分たちが辛い思いをした分だけ、同じ思いをすることがないように、人々を助けてくれる存在になることだろう。


 改めて考えてみると……『ツリーハウスクラン』って、心身ともに英才教育の環境と言えるかもしれないな。


 それと、子供たちの称号獲得によって、注意しなければいけない事が一つ増えた。


 この子たちが『勇者』『勇者の可能性』という『称号』を得たことが知られれば、何者かに狙われる可能性があるということだ。

 それこそ、悪魔たちの標的になるかもしれない。


 対策が必要である。


 俺は、この子たちに密かに話をして、絶対に口外しないようにと口止めをした。


 そして、『鑑定』スキルなどを密かに使われた場合でも『称号』がわからないように、偽装ステータスを貼り付けることにした。


 偽装ステータスを貼っていることは、もちろん説明してあげた。


 この子たちも『使い人』の子たちと同じように、俺の秘密を打ち明けて『絆』メンバーにしてしまった方が安全かもしれないが……一旦様子を見ることにした。


 『勇者』の『称号』や『勇者の可能性』の『称号』を持つ者が、『絆』メンバーになってしまうことで、何か影響を与えないか心配だったのである。


 『絆』メンバーになると、その時点でかなりチートな存在になってしまう。

 悪い言い方をすると、努力をしなくても多くのスキルを使い放題になるし、めっちゃ強くなってしまう。


 この子たちは、これから『勇者の可能性』から『勇者』の称号に高めたり、『真の勇者』になって『職業』としての『勇者』を身に付けるように努力するわけだから、今の時点でチート的にならないほうがいいと思ったのだ。

 直感的にそう感じた。


 だから、様子を見ることにしたのだ。




 ◇




 夜中になって、みんなが寝静まった頃、俺は一人起き上がる。


 もう一仕事あるのだ。


 なんとなく働きすぎ認定で、また俺の固有スキル『怠惰』が警告を発してしまいそうだが、今日はテロ攻撃にあった特別な日だからしょうがないよね。


 そう思いつつ、『怠惰』スキルのタイディちゃんに「許してね」と愛嬌たっぷりに心の中で話しかけてみたのだが……無視された。

 まぁいいけどさ。


 俺は、闇の掃除人仕様に着替えて、『ツリーハウスクラン』から出た。


 目的地は、もちろんドラッグン子爵邸だ。


 奴の子飼いのチンピラたちが、クラン前の道に爆弾を置いていってテロを仕掛けたのだ。


 奴らに吐かせた情報によれば、『黒の賢者』が現れて魔導爆弾を置いてくるように指示したということだった。

 だが、その大元の指示はドラッグン子爵だったのである。


 『黒の賢者』と共謀しているのは明らかで、すぐにでもドラッグン子爵を倒してしまいたいが、神出鬼没の『黒の賢者』を捕まえるためには、しばらく泳がせるしかない。


 少し歯がゆいが気持ちを切り替えて、逆にそれを利用しドラッグン子爵はじわりじわりと真綿で絞め殺すように苦しみを与える方針にした。


 少し思考が歪んできた気がするが……しょうがないよね。

 大事なクランを攻撃されたんだから。


 奴の利権を全て奪ってやるのだ!


 ただ、今回のテロで使った魔導爆弾のような特別な武器を他にも持っていると危険なので、館にもしあれば当然没収するつもりだ。


 奴が持っている隠し資産なども、奪ってしまうつもりだし。


 隠し資産がなくなっても、表の資産があるから、それなりの動きは維持できるはずだ。

 だから、『黒の賢者』が利用価値なしと判断して、切り捨てる感じにはならないと思う。


 多分今まで通りに、関わりを持つのではないだろうか。


 『黒の賢者』に必要以上に警戒されないためにも、今回は奴の状況を探ったり、危険なものを排除するという程度にとどめるつもりだ。



 俺は、奴の屋敷に潜入し寝室に入る。


 ドラッグン子爵はぐっすり眠っているが、両頬をビンタして叩き起こす。


「ぐっ、何者だ!?」と声を出した奴の口を手で押さえ、『状態異常付与』スキルで『催眠』を付与する。


 奴は、催眠術にかかった状態になった。


 今回の潜入は気づかれたくないので、『催眠』を終えるときに何も覚えてない状態にするつもりだ。


 まずは、尋問して必要な情報を聞き出す。


 ……引き出した情報は、今回テロで使われた魔導爆弾がまだあることだ。

 三つもあるというので、保管場所を吐かせて、すぐに没収することにした。



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