1260.ずるい、レベル上げ方法。

 俺は、付喪神化した迷宮であるイチョウちゃんのレベル上げについて考えた。


 本体と言える迷宮自体は動くことはできないが、アバターボディーで魔物と普通に戦うことができる。

 その方法で、問題なくレベル上げができる。


 だが、もう一つの考えが閃いたのだ。


 これは試さないとわからないが、迷宮内に発生させた魔物を迷宮自身として攻撃して、レベルを上げるという少し不思議な事が可能かもしれないと考えたのだ。

 例えて言うなら……自分のお腹の中のバイ菌を自分の免疫力で攻撃して、レベルを上げるみたいな感じだろうか……いやちょっと違うか。

 まぁそれはどうでもいいが。


 とにかくこの俺の思いつきが可能ならば……一方的に魔物を蹂躙するパワーレベリングができてしまう。


 迷宮で生み出せる魔物のレベルには上限があるが、取得経験値が少なくなっても数をこなすことを続ければ、永遠にレベルアップできるのではないだろうか。


 もちろんこれは誰にでも当てはまることだが、この迷宮の付喪神であるイチョウちゃんならば、自分で生み出して自分で倒すのだから超効率的にできる。

 理論上は、可能な気がする。


 そしてそれを実行すれば、俺の次にレベルが高くなるのはイチョウちゃんかもしれない。

 まぁ無理をする必要はないんだが。

 あと……第一次限界と言われているレベル99で止まる可能性はあるから、ずっとレベルがあげられるかはわからないけどね。


 最初はイチョウちゃんのレベル上げは、『デミトレント』たちのレベル上げをするときに一緒にやろうと思っていた。


 だがアバターボディーではなく、この迷宮自身が自分の中にいる魔物に攻撃できるなら、単独でレベル上げができる。


 これは試してみるしかないだろう。


 俺は、早速イチョウと打ち合わせをして、迷宮内の弱い魔物に攻撃してもらった。


 弱い魔物にしたのは、安全のためだ。

 イチョウちゃんはレベル1だし、自分の中の魔物に攻撃したら何が起こるかわからない。

 可能性は低いと思うが、自分自身がダメージを受けるなんてことも考えられるからね。


 イチョウちゃんは、すぐに実行してくれた。


 ……結果は、全く問題なかった。


 『共有スキル』に入っている魔法スキルの攻撃で、倒せてしまったんだ。

 もちろんレベルも上がった。


 これでイチョウちゃんについては、迷宮内で安全に効率的にレベル上げができてしまうということが確定した。

 俺が言うのもなんだが……かなりのチートだと思う。

 ずるいよね。


 このことを利用してサクサクレベルを上げてしまうのも一つの手だが、俺はイチョウちゃんに、一旦レベル20くらいまで上げた後は、ゆっくりやるようにという話をした。


 それはいつものごとく、スキル取得を考慮してのものだ。

 レベルが上がる時が、一番スキルが発現しやすいということを考慮したのだ。


 一気に駆け足でレベルを上げてしまうよりは、いろんなことを経験しながらレベルを上げたほうが、新しいスキルの発現可能性が高まる。


 迷宮本体がいろんな経験をすることは中々大変だが、そこはアバターボディーのイチョウちゃんがいるから、アバターボディーで様々な経験をすればいいのである。


 そんな感じで方針を打ち合わせした。


 やはり俺に次いで高レベルになるのは、イチョウちゃんではないだろうか。


 ただ無理にレベルを上げる必要もないので、迷宮内の魔物のレベル上限であるレベル70まであげればいいだろうと思っているし、イチョウちゃんにもそんな話をした。


 それから、驚くべきことができることもわかった。


 イチョウちゃんは、迷宮の外部端末というか迷宮の一部と言える存在なので、迷宮内で生み出した魔物を転送することができるのだ。


 『迷宮管理システム』は、迷宮内の魔物を迷宮内の任意の場所に転送することができる。

 当然その能力は、付喪神となった迷宮自身も持っている。


 この魔物の転送は、本来は迷宮の内部のみだが、イチョウちゃんも迷宮の一部という認識だから、イチョウちゃんの所に魔物を送ることができてしまうのである。


 魔物の領域に迷宮内の魔物を解き放って、魔物同士で戦わせる魔物大戦争みたいな感じのこともできてしまうのだ。

 まぁそんなことをしても意味がないが。

 思考が悪乗りしてしまった……自重自重。


 実用的な使い方としては、今後予定している『デミトレント』たちのレベル上げに活用することだ。


 本来は『箱庭ファーム』の魔法道具に入れて運ぼうと思っていたが、イチョウちゃんに頼めば、ワンタッチみたいな感じで最適な魔物を出現させることができるのである。


 効率がめっちゃ良くなるのだ。

 本当に便利すぎる。



 それから、俺はイチョウちゃんと今後の迷宮運営についても打ち合わせをした。


 と言っても、迷宮運営の基本方針は今までと変わりない。

 この『セイチョウ迷宮』の運営は、今まで通り『初心者がレベル上げをするためのもの』ということだ。


 ただこれについては、逆にイチョウちゃんが提案をしてくれた。


 それは、できるだけ冒険者が命を落とさないようにしたいというものだった。


 付喪神化したことによって、迷宮のシステムがより効果的に発動でき、迷宮の構造なども大きな変更でなければ短時間でできるというのだ。


 多少の変更を加えるだけで、初心者レベルの冒険者がより安全に戦えるようにすることもできるはずだというのである。


 言われてみれば、確かにその通りだ。


 将来のことを考えて、あまり過保護にするのは良くないが、ここは初心者が力をつけるための迷宮であり、序盤はもう少し手厚く保護してもいいかもしれない。


 フロア内の構造を少し変えて、魔物の進路を限定的にしたりとか、セイフティーゾーンを作ってもいいだろう。


 どこまでやるかは熟考すべきだが、やろうと思えば迷宮内で瀕死になった冒険者を、迷宮自信が回復魔法をかけて助けてやるようなこともできてしまう。


 さすがに即死は助けられないが、そうでなければ助けられてしまう。

 死亡率がかなり低い……そんな迷宮になる。

 まるでゲームの世界のような感じだ。


 まぁあまり派手にやるとまずいが、瀕死でヤバそうな人だけ助けてもいいかもしれない。


 突然回復した冒険者は驚くだろうけど、嬉しい驚きだからいいよね。


 変な噂が立たないように、突然にして起こる“迷宮の奇跡”みたいな感じの噂を流してもいいかもしれないし。


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