1255.りんご飴、できました!
急遽行われたクランメンバーでの植樹式が終わった。
そして、『キジムナー』のカジュルちゃんの『種族固有スキル』の『樹木の楽園』によって、一気に生垣として立派なものが完成した。
だがこれで終りではない。
これで終わったら、ただの生垣でしかないからね。
「次は、生垣で植えた木の根と『デミトレント』のみんなの根を融合させるね」
カジュルちゃんはそう言うと、両手を広げて、胸の前でパチンと合わせた。
柏手のようだ。
そしてその直後に、「樹木結び」と言う『
まずは、一番左側に植わっている『デミトレント』のリーダーヒダリーと、左側の側面つまり北側の側面の生垣である『ワイルドグミ』の根を融合してくれた。
地下で根が接合されているわけだが、地上に部分には大きな変化は感じられない。
だがヒダリーの枝葉が、小刻みに揺れている。
震えている感じだ。
今まさに融合しているのだろう。
少しして、枝葉の揺れが収まった。
どうやら、うまく融合できたようだ。
カジュルちゃんは、この作業を三回繰り返し、残りの『デミトレント』たちと生垣を融合してくれた。
『キジムナー』のもう一つの『種族固有スキル』の『樹木結び』は、本当に凄いスキルだ。
ふと思ったが……これを繰り返していったら……この都市にある樹木の全てが、この『デミトレント』たちの一部になる、なんてこともできるんだろうか……?
ちょっとだけ訊いてみたら……
「理論的には可能だけど、無理に融合するのはお勧めしない。
『デミトレント』たちの負担が、たぶん大変。
まぁ本人たちがやると言うなら、できちゃうとは思うけど。
ただ、そもそも物理的に根が届く場所の樹木としか融合できないから、限界はあるよ」
……とのことだった。
『デミトレント』は、『種族固有スキル』に『
ただ樹木の精霊とも言える特殊な妖精族『キジムナー』のカジュルちゃんは、必要以上にはやらない方が良いと考えているようだ。
『デミトレント』達の負担になるということ以外にも、理由があった。
少し追加で話してくれたのだ。
植物は、魂が宿ってはいないとは言え、霊素に満ち溢れた生命であり、品種ごとにも個体ごとにも、個性があるのだそうだ。
魂とは違うが、精霊の集合体として、意思や感情のようなものがあるとのことだ。
元農家の俺としては、すごくよくわかる話だ。
話しかけたり愛情を注ぐと、それが通じているという感覚はあった。
まぁいずれにしろ、カジュルちゃんが言いたいのは、おそらく『デミトレント』との融合は悪いことではないが、必要以上にはやらないほうがいいと言うことだ。
純粋な植物としての多様性を、維持したほうがいいわけだよね。
ただ、『デミトレント』は珍しい存在で、様々な樹木と繋がっても全く問題なく、むしろその樹木に宿る精霊たちが喜ぶかもしれないとも言っていたけどね。
カジュルちゃんでも、正確にはわからないみたいだ。
まぁいろんな可能性があるということだろう。
それから、残りの三体の『デミトレント』たちの融合先の生垣は、以下のようになっている。
一番右側の『デミトレント』ミギーは、敷地右側つまり南側の生垣の『ワイルドグミ』と接続した。
中央に二本並んで生えている内の右側のウキは、正門側つまり西側の生垣の『クラブアップル』と接合した。
左側のサキは、反対側つまり東側の生垣の『クラブアップル』と接合した。
これらの生垣に、実がついてくれたら、結構な数の収穫が見込めそうだ。
そんなふうに思っていたら……カジュルちゃんが、さらに粋な演出をしてくれた!
なんと、今植えたばかりの『ワイルドグミ』と『クラブアップル』に、実をつけさせたのだ。
もう『デミトレント』たちと融合して一体となっているのに、『ワイルドグミ』と『クラブアップル』の部分だけ成長させて、というか実をつけさせてしまったのだ。
しかも、すぐ食べられるように、完熟まで進めてくれた。
なにこれ……?
こんな調整までできるなんて……。
もう……カジュルちゃんとお友達になった時点で、食糧問題とかは、一瞬で解決できてしまう。
国家レベルの凄いことだと思うんですけど。
そんなことを思いつつも、俺は辛抱たまらず、早速成った果実を食べることにした。
『ワイルドグミ』は、俺が元の世界で食べたグミの実よりも、全然大きかった。
『ワイルドグミ』と言うだけに、異世界補正がかかって、でかくなっているようだ。
元の世界のグミの実は、二、三センチくらいの赤い細長い実だったのだが、この『ワイルドグミ』は、ピーマンみたいな感じの大きさと形だ。
色が赤い点を除けば、ピーマンみたいなだ。
というか、ピーマンが完熟すると赤くなるから、その状態のピーマンと同じ感じの見た目だ。
早速、皮ごと齧りつく。
おお、うまい、甘い!
これはいい。
柔らかい実で、ジューシーな感じとねっとりな感じが、微妙なバランスだ。
このまま食べても、十分美味しい。
もちろん、ジャムにしても良いだろう。
俺は、早速子供たちを含め今いるクランメンバーに、食べさせてあげた。
皆大喜びだ。
甘いと言って、ニコニコしながら食べている。
すごい数成っているので、いくら食べてもなくならない感じだ。
そしてニアさんは……いつものように、無言で食べまくりながら、グミの果汁で顔だけでなく、全身をびちゃびちゃにしていた……残念。
次は『クラブアップル』だ。
俺が思っていた通りの大きさで、『りんご飴』を作るのにちょうどいい。
色は赤い実だ。
ガブリとかじる。
おお、みずみずしい!
甘さはそれほど強くないが、適度に酸味が効いていて、さっぱりとしていて、俺としては好きな味だ。
飴にくぐらせるには、ちょうど良い。
もちろん、子供たちを始めクランのメンバーにも食べさせた。
だが多くの子供たちは、思っていたりんごの味よりも酸っぱかったようで……微妙な顔をしている子が多い。
そこで俺は、即席で『りんご飴』を作ってしまうことにした。
というか……本当は、俺が食べたいだけなんだけどね。
めっちゃ食べたいのだ!
大きな鍋で砂糖を溶かし、べっこう飴状態にし、そこに串に刺した『クラブアップル』を潜らせる。
乾けば、完成だ。
子供たちは、物珍しさもあって、目を星のように輝かせて待っている。
すごい人数のお預け状態が展開されている……。
俺は、急いで『クラブアップル』を飴に通し、人数分完成させた。
そしてみんなに食べてもらった。
結果は……もちろん、大好評だ。
みんな大喜びである。
基本的に飴だから、不味いはずはないんだよね。
飴の部分で、まず満足だからね。
そしてその甘い飴を無くしたところから、酸味の効いたりんごを齧る。
ちょうどいいんだよね。
これには、『キジムナー』のカジュルちゃんも、めっちゃ喜んでいた。
彼女も、ニアサイズなので……彼女に対しては、巨大と言える『りんご飴』を、ベタベタ触りながら舐めまくっていた。
顔中ベタベタのカピカピになっていたが……大丈夫だろうか。
なんとなく……ニアさんと似たものを感じるが、今日のところはスルーしてあげよう。久しぶりの優しさスルー発動……。
俺は、懐かしい『りんご飴』が食べれて、大満足である。
これ簡単に作れるから、リリースしようかなぁ。
大ヒットの予感しかしないけど。
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