1232.救援の為、参戦。

「レオニールさん、怪我人の回復とフォローに入ります! 後衛陣は守りますから、前線の立て直しを!」


 俺は声を張り上げ、ニア、リリイ、チャッピーの後を追い、後衛陣の前に立った。


「すまない、頼む!」


 レオニールさんは俺を見て短くそう言うと、前線の前衛陣に指示を出した。


 俺は、普段使いの剣『青鋼剣 インパルス』を抜いて、構える。

 再度、風の刃が襲ってきたときに止めないと、また大きな被害が出てしまう。


 前衛陣は、レオニールさんの指揮で何とか態勢を整えているが、なかなか厳しい戦いだ。


 俺が倒してしまうのは簡単だが、そういうわけにもいかない。


 何とかフォローして、レオニールさん達に頑張ってもらわないと……。


 さて、どうするか……そうだ! あの戦利品を使おう!


「チャッピー、ここの防衛を頼む。リリイは俺と一緒に来てくれ」


「任せてなの〜。チャッピーがんばるなの〜」

「わかったのだ!」


 俺は、リリイに耳打ちをして、作戦を伝えた。


 そして先ほど手に入れたお宝を、勝手に使わせてもらうことにした。


「レオニールさん、この鞭、使わせてもらいます! 何とか片方の鎌を止めますから、もう一つの鎌を切断してください! 他の皆さんはフォローをお願いします!」


 俺がそう叫ぶと、レオニールさん達は俺を見て首肯した。


 俺は、先程のサブマスター戦で手に入れた魔法の鞭『ワームウイップ』を、使わせてもらうことにしたのだ。


 もちろん俺がもともと持っている鞭を使っても良いのだが、新たに手に入れた鞭を使ったほうが、多少強引なことをしても鞭の性能ということで誤魔化せると思ったのである。

 伸縮自在だし、先端には噛み付ける口が付いているし、『極上級プライム』の『魔法の武器マジックウェポン』だからね。


 俺は走りながらカマキリ魔物に近づき、ある程度距離を詰めたところで、鞭を放つ!


 カマキリ魔物がそれに気づき鎌で切断しようとしてくるが、鞭はまるで生きているように動きながら躱し、鎌脚に巻きついた。

 もちろん俺のイメージで、動かしたのである。

 予想通り生物的な動きができた。


 鞭使いの俺としては、結構いい使い心地だ。

 普段使っている魔法の鞭よりも、かなり使いやすい。

 まぁ元々あの魔法の鞭は、正式には『魔法紐』で、俺が勝手に鞭として使っていただけなんだけどね。


 右の鎌脚を俺に拘束されたカマキリ魔物は、振り払おうともがいているが、俺は必死さを装いながら踏ん張った。


 普通の冒険者なら、すぐに吹っ飛ばされるだろうからね。

 『限界突破ステータス』の俺にとっては、このぐらいの動きを堪えることは造作もない。


 この鞭は魔力を通しているからか、全く切れたり傷んだりする様子がない。

 耐久力も高いようだ。


 それからこの鞭の優れているところは、今のように動きを拘束した状態で、攻撃を仕掛けることができることだ。


 鞭の先端がワームの口のようになっていて、噛み付くことができるのである。


 その機能を確かめる意味でも、鎌脚に巻きつけて拘束したままの状態で、先端だけをさらに伸ばしカマキリ魔物の片方の目に食いつかせた。


 ……破壊力もかなりあって、うまく片目を潰すことができた。

 痛みからか、カマキリ魔物が更に激しく動こうとするが、俺は踏ん張って動きを限定する。


「今だ! リリイ!」


 俺の合図ともにリリイは、サブマスター戦で手に入れた穴掘りの魔法道具を使って、地面に大穴を開けた。


 俺は、カマキリ魔物に動かされたふりをしながら、逆に動かしカマキリ魔物を穴に落とす。


 体の半分位が、穴に入った状態になった。


 そしてここで、リリイが思わぬことをやってのけた。


 なんと穴掘りで掘った土を魔法道具から発射し、カマキリ魔物の下半身を埋めてしまったのだ。

 穴掘りの魔法道具は、掘った土を発射することができるようだ。

 おそらく、専用の亜空間に保存する機能があるのだろう。


 思った以上に、すごい魔法道具だ。

 この使い方なら、攻撃にも使える。


 リリイは瞬時にその性能を使いこなし、カマキリ魔物を半分埋めて拘束したのだ。


 これで一気に、カマキリ魔物の動きが鈍くなった。


「レオニールさん、今です! もう一つの鎌脚を落としてください!」


 俺の叫びに、「任せろ!」と叫びながら、レオニールさんが走り込む!


 そして高く跳躍し、黄金のロングソードを大上段から振り下ろす!


 ——ザンッ

 ——ボトッ


 先ほど深傷を合わせた場所に狙いすました一閃は、今度こそ一撃で鎌脚を切り離してみせた。


 レイニールさんは、着地と同時に再度ジャンプして、俺が鞭で固定しているもう片方の鎌脚にも、鋭い斬撃を放った!


 俺が鞭でしっかり固定していたこともあり、狙い通りきれいに斬撃が入った。

 硬い鎌脚は、あっけなく斬り落とされた。


 よし、これでもう『種族固有スキル』は、放てないだろう。


 もう少し援護しておくか。


 俺は、魔法の鞭にさらに魔力を流し、カマキリ魔物のもう片方の目に噛み付かせた。


 両眼を食われ、両鎌脚を切断されたカマキリ魔物は、たまらず身悶えている。

 だが下半身が土に埋まっているので、体をひねる程度の動きだ。


 と思って見ていたのだが……なんと一瞬で土をはねのけ飛び上がってしまった。


 羽根を広げて、土をはねつけながら飛び上がったのだ。


 飛んでいる……。

 かなり怖い感じだ……。


 ゴキブリが飛んだ時と同じで……普段飛ばない昆虫が、突然飛ぶと……それだけで怖い、というか不快だ。


 そして低空飛行で、攻撃を仕掛けてきた。

 両眼が潰されているはずなのに……見えているかのように攻撃を仕掛けている。


 レオニールさんが、迎え打つ。

 ジャンプして真正面から、斬り込んだ!


 うまく脳天を割れる軌道だったのだが……カマキリ魔物が一瞬止まり、体を躱して斬り込みをやりすごした。


 そして体を翻し、空振りした状態のレオニールさんに追撃をかけた。

 レオニールさんの着地とほぼ同時に、強力な顎が襲う。


 レオニールさんもその動きに気づき、振り向きざまに剣を振った。


 え、……だが一瞬カマキリ魔物の動きが速く、剣を持っている両腕を、肘のあたりから食いちぎってしまった。


 ……まずい。


 俺は、すぐさま鞭を放ち、カマキリ魔物の体に巻き付けた。

 これで追撃はできない。


「レオニールさんを早く!」


 呆然としていたクランメンバーが、俺が叫びで慌てて動き出した。

 そして、レオニールさんを担ぎ後衛陣のほうに避難した。


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