1231.エリアマスター戦、開始。

「みんな、このまま『エリアマスター』に挑もう。まずは『エリアマスター』が何の魔物か確認してからだがな」


 『サブマスター』との激闘後、しばらく回復していた『一撃クラン』のみなさんは、このまま最終目標である『エリアマスター』戦に挑むつもりのようだ。

 クランマスターのレオニールさんが、決意のこもった眼差しで皆に呼びかけた。


 そして斥候メンバーが、最終フロアの偵察に行った。


 潜んでいる『エリアマスター』を誘い出し、何の魔物か確認するようだ。


 レオニールさんたちは、出現する『エリアマスター』によっては、潔く撤退することも考えているとギルド長が言っていた。



 少しして、斥候メンバーが戻ってきた。


「レオニール、当たりだ! カマキリ魔物だ!」


 斥候がそう告げると、メンバーからどよめきが起きる。


 “当たり”と言うのは、おそらく想定していた魔物だからだろう。


 確かカマキリ魔物は、記録上『西エリア』の『エリアマスター』として出現頻度が一番高かった魔物のはずだ。

 前にギルド長から聞いた情報だ。


 レオニールさんたちは、出現頻度が高い魔物については、対策を練っているとの事だった。


 仮に出現頻度が低く、かなり手強い魔物が『エリアマスター』だった場合には、潔く撤退することも選択肢に入れているとの事だった。

 だが、想定していた大本命が『エリアマスター』だった事は、かなりラッキーなことだろう。

 まさに“当たり”を引いた感じだ。


 ただそうは言っても、カマキリ魔物はかなり強い魔物だし、おそらく『エリアマスター』というからには、キング種とかの可能性が高い。

 決して油断できる相手ではないだろう。


「よし! 幸運なことに大本命のカマキリ魔物が『エリアマスター』だった! 事前の想定通りの戦い方で行こう!」


「「「おおぉぉぉ!」」」


 レオニールさんがそう声をかけると、みんな勇ましい声で答えた。



 レオニールさん達は、準備を整え、『エリアマスター』の待つ『西エリア』の最終日フロアに突入した。


 俺たちも、後を思う。


 フロアの奥のほうに、巨大なカマキリ魔物が現れている。

 眼光鋭く……獲物である俺たちを睨んでいる。


 体高三メートル以上ある大きなカマキリ魔物で、ボディはエメラルドグリーンに光り輝いている。

 一見すると綺麗だが……赤い瞳から放たれる眼光と相まって、恐怖の輝きという感じだ。


 『波動鑑定』すると……やはりカマキリ魔物のキングだった。

 レベルは57だ。


 『一撃クラン』の人たちは……最高がレオニールさんのレベル51で、同じ『金獅子の咆哮』の他のメンバーはレベル50だ。

 それ以外のCランクパーティー四組のメンバーは、皆レベル40台だ。


 覚悟していたことだろうが、完全に格上の相手だ。


 前にギルド長に聞いたことがあるが、『エリアマスター』のレベルはその時によって違い、低い時はレベル50台前半という時もあるようだが、今回はレベルが高めのマスターに当たってしまったようだ。


 『種族固有スキル』に、『鎌斬カマキリ』というのを持っている。

 前脚の鎌を使って、風の刃を出し攻撃できるようだ。

 鋭利な衝撃波を出せるということだろう。

 この攻撃は厄介かもしれない。



 戦いが始まった。


 レオニールさん率いる『金獅子の咆哮』と、Cランクパーティー二組が戦いに参加しているが、残りのCランクパーティー二組は、『タンク』ポジションの人を除いて、後方支援に徹するようだ。

 回復と武器の交換を担当する役割らしい。


 カマキリ魔物の鎌は強力なので、武器の消耗を考慮し、すぐに交換できるように多くの剣と盾を用意している。


 三メートルを超えるカマキリ魔物が、鎌脚を大きく広げて威嚇している。


 普通の冒険者なら、かなりビビるだろう。

 あの鎌を食らったら、瞬殺されかねない。


 普通なら『タンク』ポジションの人が、鎌を受け止めて動きを止めるところだが、それは行わず避けている。

 どうしようもないときだけ、三人が並んで、何とか受けるということをしている。


 一人の盾だと弾き飛ばされてしまうので、連携しているのだ。

 その間隙を縫って、『魔法使い』と『ロングアタッカー』が遠距離攻撃を加えている。


 だがさすが昆虫系の魔物だけあって、外皮が硬く、大きな傷はつけられていない。


 まずは、あの鎌の前脚を切断したいところだけど……。


 レオニールさんもそう思っているようで、仲間の『タンク』を踏み台にして、大きくジャンプすると、横から鎌脚に対して斬りつけた。


「ジュッ」という焼ける音がしたので、レオニールさんの高温の剣がかなり食い込んだようだ。

 だが、一撃で切断するには至っていない。



 そんな攻防が、何度か繰り返されている。

 一進一退の攻防だ。


 だがある意味うまく戦えれているのかもしれない。

 チームで戦っているにもかかわらず、チーム全体でヒット&アウェイができているのだ。


「レオニールさん達、結構やるわね。時間がかかる戦い方だけど、安全を取りつつ地道に倒す作戦のようね」


 ニアが、そんな感想を漏らした。


「おじちゃんたち、頑張ってるのだ」

「チャッピー、応援するなの〜」


 リリイとチャッピーも、レオニールさん達の戦いぶりに、心動かされたようだ。

 ただこの子たちの場合は……自分も戦いたくなって、うずうずしているような感じだが……。


 有効打が与えられているのは、一時的にでもカマキリ魔物の動きを止めた時だ。

 そのためのいい働きをしているのが、巨大なクマのゴーレムだ。


 カマキリ魔物の鎌が鋭いので、土でできているゴーレムはすぐに切断されているが、倒されるときに、うまくカマキリ魔物に覆い被さるように倒れている。

 その時に、一時的にだが、カマキリ魔物の動きを止めることができている。


 それを逃さず、『アタッカー』たちが集中攻撃をしているのだ。


 そして、『魔法使い』の女性が急いで破壊されたゴーレムを作り直し、再度押さえ込むということを繰り返している。


 『タンク』や『アタッカー』たちだけでのヒット&アウェイのパートと、ゴーレムも含めた集中攻撃のパートを繰り返しているのだ。


 ただ『魔法使い』の女性が担当しているゴーレムは、やはり魔力消費が激しいようで、すぐの連発はできていない。

 魔力回復薬を飲みながら戦っているが、しんどそうだ。

 過剰に摂取すると効きも悪くなるし、気持ち悪くなるのだが、もうその状態になっているようだ。


 この作戦の要的な役割だが……かなりの負担に見える。

 大丈夫かな……?


 ——ビュウンッ、ザンッ

 ——ザクッ、ザクッ


 そう思った矢先だ、『魔法使い』ポジションの女性の右手が、吹き飛ばされた。


 その前で護衛をしていた『アタッカー』の二人も、腕と体の一部を吹き飛ばされている。


 やばい! 瀕死の重傷だ。


 カマキリ魔物が『種族固有スキル』を使ったのだ。


 どうも連発はできないようだが、最初の一発を後衛陣を狙って放ったのだ。

 なかなかに頭が回る奴らしい。


 だがそんな分析をしている場合ではない、このままだと死んでしまう!


 ……ここはやむを得ない。


「ニア、重傷の三人の回復を頼む! リリイ、チャッピーは他の後衛陣の回復とフォローを頼む!」


「オッケー、任せて!」

「わかったのだ!」

「すぐ行くなの〜」


 みんな、すぐに飛び出した。

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