1229.サブマスター、撃破。
「レオニールさん、体の交わっているところに『魔芯核』があるかもしれません!」
俺は、『拡声』スキルを使って、声を張り上げた。
突然の大声に、戦っている『一撃クラン』の人たちが、一斉に俺を見た。
当然俺がやって来た事は、知らなかったわけだが、レオニールさんは俺を見て、すぐに頷いた。
『魔芯核』を破壊すれば倒せるかもしれないという俺の意図を、すぐに理解したようだ。
さすがである。
「ライヤ、尻尾の方の動きを止められるか?」
「任せて!」
レオニールさんが、『魔法使い』ポジションの女性に声をかけると、彼女はすぐに巨大クマのゴーレムを動かし、尻尾の辺りに倒れ込ませた。
土の巨体で、三つの動き回る尻尾を、押さえつけている。
今度は三つの頭に対し、各パーティーの『タンク』『アタッカー』『斥候』からなる前衛陣が、攻撃を仕掛けている。
『タンク』は本来攻撃を受け止め、足止めをするポジションだが、まともに受けると弾き飛ばされるので、避けながら打撃攻撃を加えている。
『ロングアタッカー』と『魔法使い』ポジションの人たちが、三つの体の接合部分に向けて攻撃を仕掛けた。
尻尾の動きをゴーレムで抑え、頭の注意は前衛陣が引いているので、後衛陣の攻撃はある程度当たっている。
だが、接合部を射抜くほどの攻撃力はない……。
「トォォォォ」
そこに疾風のごとく走り込んだレオニールさんが、黄金のロングソードを突き刺した。
「タァァァァ」
レオニールさんは接合部に剣を突き刺したまま、裂帛の気配とともに、再度魔力を注入した。
ミミズ魔物の接合部分が煙を上げている。
攻撃は確実に効いているが……その分、より激しく暴れ回りだした。
尻尾の部分を抑えていたゴーレムが弾き飛ばされ、その勢いでミミズ魔物は大きく体をくねらせ、前衛陣とレオニールさんを弾き飛ばした。
これは……みんな結構なダメージを負っている。
回復してあげたほうが良さそうだ。
部外者が無闇に手出しするのは、良くないが……回復くらいはいいだろう。
「みんな、回復だけ手伝ってあげよう」
「オッケー、じゃあ私はひとっ飛びしてくる」
ニアはそう言って飛び去り、遠くに弾き飛ばされた人の回復に向かってくれた。
「リリイ、チャッピー新しい道具を試そう」
俺は、回復用の新調アイテム『魔法薬ショットガン』を出した。
これは最近新しく作ったもので、クランの新人冒険者に持たせる『竹筒水鉄砲』をショットガンくらいのサイズにしたものだ。
かなり遠くにいる対象に、発射することができる。
一般販売は考えていない特別装備で、見た目もショットガン風になっている。
かなりかっこいいのだ。
魔法薬を注入し、ショットガンのように威力のある水弾として発射するのだ。
……俺たちだけでなく、『一撃クラン』の回復担当も回復魔法をかけたり、回復薬をかけたりしていたので、瞬く間にダメージを負った全員を回復させることができた。
俺たちが回復したことに気づいた人たちは、俺たちを見て軽く頭を下げ、すぐ臨戦態勢に戻っている。
さすが力のある人たちだけあって、崩れた態勢をすぐに立て直した。
まずは距離をとっている後衛陣が、暴れまわるミミズ魔物に攻撃を仕掛けているが、なかなか効果的な一撃を入れれていない。
巨体で的が大きいとはいえ、暴れ回っているから大変なのだ。
下手に切断すると、さらに数が増えてしまうしね。
『魔法使い』ポジションの人が出している大型のクマのゴーレムが何とか動きを制しているが、魔力の消耗が激しいらしく、彼女は回復薬を飲みながら、何とか持たせている感じだ。
そうこうしてるうちに、先ほどレオニールさんが傷つけた接合部分が修復していく。
ただ……最初よりも修復速度がだいぶ遅い。
やはりあそこに『魔芯核』があるのではないだろうか。
そしてさっきのレオニールさんの攻撃で、ある程度傷つけることができたのかもしれない。
「もう一度行くぞ!」
レオニールさんも同じ考えのようで、メンバーに声をかけ再度攻撃を仕掛ける。
だがミミズ魔物は暴れ回っていて、なかなか近づけない。
クマゴーレムがさっきのように、巨体の半分を押さえつけたいところだが……暴れ回っていてうまく取り付けていないのだ。
他の『魔法使い』ポジションの人や『ロングアタッカー』たちが、火魔法や風魔法、矢で攻撃をしているが、ミミズ魔物の外皮は意外に硬く、大ダメージを与えるには至っていない。
今度は前衛陣が総がかりで、三つの頭に対し攻撃をかけている。
その間隙を縫って、レオニールさんが一気にミミズ魔物との距離を詰める。
そして頭の攻撃をかわしながら、胴体に沿って走り抜け、再度接合部分に到達した。
流れるような動きで、金色のロングソードを大上段から、振り降ろした。
「砕け散れぇぇぇぇ」
——ザァァァァンッ
金色のロングソードが、赤みを帯びるほどの熱を発しながら、接合部分を切断した!
すると暴れ回っていたミミズ魔物は、一気に動きを緩め、鈍化した。
まだ若干動いているが、前衛陣が各頭に剣や槍を突き立てて、完全に動きを止めた。
どうやら倒せたようだ。
やはり接合部分に『魔芯核』があったようで、切断した時に破壊されたみたいだ。
これにより倒すことができたのだろう。
無事に倒せて何よりだ。
手こずった感じなのかもしれないが、『サブマスター』相手だから、すんなり勝つ方が稀だろう。
みんな地面に、へたりこんでいる。
レオニールさんなんか大の字になって、寝転がっている。
「皆さん、お疲れ様でした」
俺はそう言って声をかけながら、『スタミナ回復薬』を渡して回った。
一仕事終えた人たちへの栄養ドリンクの差し入れ的な感じだ。
「グリムくん、助かったよ。君のアドバイスがなかったら、もっと手こずっていただろう。よく接合部に『魔芯核』があるとわかったね?」
「切断箇所から再生したしたにもかかわらず、再度結合したので『魔芯核』は一つじゃないかと思ったんですよ。勘が当たって良かったです」
「勘か……さすが『キング殺し』だな、ハッハハハハ」
レオニールさんが豪華に笑うと、周りの人たちも一斉に笑い出した。
俺たちは、『一撃クラン』のみなさんにお礼を言われ、めちゃめちゃ感謝されてしまった。
物資が不足していると聞いていたので、各種の回復薬も渡した。
さらに感謝されてしまった。
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