1228.始まっていた、サブマスター戦。

 翌々日の朝、俺は再び『ゲッコウ迷宮』に入った。


 『エリアマスター』に挑む『強き一撃クラン』の戦いを観戦するためだ。


 ギルド長の読み通り、迷宮入りしてから四日後となる明日の朝、『西エリア』のサブマスターと対決する予定らしい。


 この辺の情報は、『冒険者ギルド』から教えてもらっている。


 入った初日からこの四日間で、やはり何度か魔物の大量発生に遭遇したそうだ。


 死者は出ていないが負傷者が多く出て、魔法薬のストックが少なくなっているとの事だ。


 その辺の救援物資も届けようと思っている。


 『強き一撃クラン』の人たちが、四日かけて進んだ行程を一日で追いつくのは、普通なら無理がある話だが、俺ならできると思っているのか、ギルド長や受付嬢のリホリンちゃんも特に言及しなかった。


 『強き一撃クラン』の動きをフォローしているギルドスタッフが作った最短ルート表をもらうことができたので、その通りにフロアを進んで行こうと思う。



 ……実際にルートに沿って、各フロアを進んでいくと……前半のフロアでは、かなりの冒険者たちがいた。


 ただ中盤のフロアに入ってからは、冒険者の数は減っている。


 この辺から強い魔物が出るから、かなりの実力がある冒険者でないと危険な領域なのだ。


 ……途中襲ってくる魔物を適宜倒し、『西エリア』の後半に入ったところのフロアの一つを、転移先として登録した。


 このままフロアを進んでいけば、『強き一撃クラン』の人たちと合流できそうだが、今日のところは、一旦引き上げて、明朝また、転移でやって来ようと思う。


 今日合流してもいいのだが、そうすると一緒に迷宮内で野営をすることになる。


 ゆっくり眠りたいので、野営は避けたのだ。


 明日の朝に、追いついたことにすれば良いだろう。





 ◇





 翌朝、俺は転移の魔法道具を使い、『西フロア』の後半の転移ポイントなっているフロアにやって来た。


 今から奥に進んで、合流しようと思う。

 表向きは迷宮で野営して、朝何とか追いついたというかたちにする予定だ。


 連れて来ているのは、いつものようにニア、リリイ、チャッピーだ。



 ルート表に沿っていくつかのフロアを進んでいくと、前方のフロアから激しい音が聞こえてくる。


 どうやら、もう戦闘が始まっているみたいだ。


 急いでフロアの中に入ると……奥の方で……巨大な魔物との戦いが繰り広げられていた。


 どうやら、サブマスターと戦っているらしい。


 蛇の魔物かと思ったら……ミミズの魔物だった。

 しかもサブマスターだけあって、ミミズ魔物のキングだった。


 レベルが55もある。

 そして何よりでかい!

 全長三十メートルはあるだろう。横幅も三メートルくらいある。


 丸い巨大な口には、牙がぐるっと一周生えている。


 人間サイズなら、丸呑みにされてしまう感じだ。


 対決している『強き一撃クラン』通称『一撃クラン』は、Bランクパーティー『金獅子の咆哮』の六人を中核に、四つのCランクパーティー四組合わせて三十三人の構成だ。


 見た感じ……苦戦しているようだ。


 ミミズ魔物の動きが激しくて……近づくことができないでいる。

 下手に近づいた者は、なぎ倒されてしまっている。


 ミミズを捕まえて地面に置くと、ぴょんぴょん跳ねるように体をくねらせて暴れ回るが、それと同じ動きをしている。

 あんな巨体で暴れ回られたら……対処できないのも無理はない。


 『一撃クラン』の正式メンバーではないが、付いて来ているパーティーがいくつかあって、俺が渡した『竹筒水鉄砲』を使って回復薬をかけて支援している。

 有効活用してくれているようで、良かった。


「土魔法——ゴーレム創造!」


 『金獅子の咆哮』の『魔法使い』ポジションの女性が、巨大なクマ型のゴーレムを作った。


 かなり巨大なゴーレムだ。

 これほど大きなゴーレムを作れるとは……かなりの使い手だろう。


 そしてそのゴーレムは、ミミズ魔物に覆い被さる感じで暴れまわる動きを制限した。


「今だ!」 


 リーダーのレオニールさんの掛け声とともに、『アタッカー』たちが、斬りつける!


 各パーティーの『アタッカー』たちの一斉攻撃だ!


 レオニールさんの持っている剣は、黄金色に輝くロングソードだ。


 魔力を注ぐと、黄金色に輝くようだ。


 『波動鑑定』させてもらったら、『魔剣 ソーラーソード』となっていて、『極上級プライム』階級の『魔法の武器マジックウェポン』だった。


 魔力を流すと光り輝き、高熱を発するらしい。


 実際、威力は絶大だった。


 直径三メートルあるミミズ魔物を、一太刀で両断した。

 焼き切った感じで、切断面から湯気が出ている。


 前三分の一のところで、切り落としたのだ。


 体の後半の部分も、他の『アタッカー』たちが斬りつけ、切断していた。


 三等分に、切断した状態だ。


 だがなんとなく……悪手な気がする。


 このミミズ魔物のキングは、『分裂再生』という『種族固有スキル』を持っている。


 俺の元の世界の知識では、ミミズは半分にした場合、頭がついてる方が再生し、それ以外は再生しないのが一般的だった。

 だが、特別な種類のミミズがいて、体を五等分にしても全て頭と尻尾が付いて五匹のミミズになる種類がいた。

 なんとなく、それと同じような能力な気がするが……。


 ……そんな俺の予感は……どうやら当たってしまったようだ。


 三つに分かれた部分が再生し、サイズは小さくなったが三体のミミズ魔物になってしまった。


 いや、どうやら三体に分かれたのではないらしい。

 ……お互いの体がクロスして、繋がっている。


 三分割されて再生したミミズ魔物が、お互いクロスするように一体化している。

 頭が三つと尻尾が三つの形状になっている。

 まぁミミズに尻尾も何もないとは思うが。


 それはともかく、食いついてくる攻撃と尻尾でのなぎ払う攻撃が、三倍できる状態になってしまったということだ。


 だが、さすがトップランカー……動じることなく『アタッカー』たちが一旦距離を取ると、同時に『ロングアタッカー』と『魔法使い』ポジションの人たちが、遠距離攻撃を仕掛けている。


 それにしても……この魔物は厄介だ。

 切断してしまったら、また増えるということだからね。


 頭を潰しても……残った体から再生しちゃうだろうし、どう倒すべきか……?


 こんな場合は……『魔芯核』を潰すのが良さそうだが……どこにあるのか、外からではわからない。


「これは厄介そうね……どこを切っても、再生しそうだし……」


 ニアも、同じようなことを考えていたらしく、そんな感想を漏らした。


「全部燃やし尽くしちゃえばいいのだ!」

「細く切った後に、燃したらいいかもなの〜」


 リリイとチャッピーが、そんなアイデアを披露した。

 普通なら……めちゃくちゃなアイデアなのだが……この子たちにとっては、実現可能なまともなアイディアだ。


 ただ普通の冒険者パーティーは、なかなかできないと思う。


 この巨体を燃やし尽くすのは簡単なことじゃないし、細切れにすること自体も大変だ。

 再生スピードの方が早ければ、より厳しい状況になっちゃうからね。


 やはり……俺たち以外の冒険者が倒す方法としては……『魔芯核』を潰すのがいいんじゃないだろうか。


 待てよ……『魔芯核』って……三つの体がクロスしているところにあるんじゃないかなぁ……?


 試してみる価値はあるかも!


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