1211.新たな、使い人。

「みんな、カエル魔物たちを倒してしまおう。ニアは倒れている冒険者の回復を頼む、リリイとチャッピーは、魔物の殲滅を任せてもいいかい?」


 俺は、大量のカエル魔物の超音波攻撃にやられている冒険者たちを助けるため、仲間に指示を出した。


「オッケー、任せといて!」

「わかったのだ!」

「任せてなの〜」


 俺は、うずくまっている女の子に駆け寄った。


「大丈夫ですか? もう心配いりませんよ」


「あ、あなたは……グリムさん。た、助かりました」


 超音波攻撃と物理攻撃で、この子のローブがボロボロになっている。


 全身に打撲もあるようだ。


 俺はすぐに、回復薬をかけてあげた。


 ローブの下には、いい軽鎧を身に付けていたようで、大怪我には至っていない。


 軽鎧だが、胸からボディーにかけてはしっかりと頑丈そうなパーツで保護されている。

 だが、ミニスカ仕様になっているようで、足にはダメージを受けていたのだ。

 もう回復薬で治っているけどね。



 すごい数のカエル魔物がいたが、リリイとチャッピーがあっという間に殲滅しまった。


 カエル魔物のレベルは20弱だったので、単体としては強くないのだ。


 だが数が多ければ脅威だし、今回みたいに超音波攻撃されたらかなり厳しい相手だ。


 それにしても、こんなに集団で襲いかかってくることがあるんだろうか……?


 『連鎖暴走スタンピード』とまではいかないが、その一歩手前と言ってもいい気がする。



 倒れていた五人の若手冒険者は、何とか命を取り留めたようだ。


「ねぇねぇあなたさぁ、この人たちに治療してあげたでしょ? 何とか命を取り留められたのも、最初の治療があったからよ。ギリギリ間に合ったって感じ。この前、『ドクロベルクラン』の幹部が『魔物人まものびと』になって、大勢怪我人が出た時も治療してくれてたわよね?」


 ニアがそう言って、微笑んだ。


「たまたま近くにいたので……できることをしただけです」


「私たちのクランへの誘いも断ったし、こうやって一人で迷宮に入っていることからしても、訳ありなのはわかるけどさぁ……どう話してみない?」


「命を救っていただいたことには、感謝していますが……私とは関わらないほうがいいと思います……」


 彼女は少し逡巡した後に、そう答えた。


「えーっと確か……ギルドの受付で、名前を教えてもらったよね……アクアリアさんだったかなぁ……?」


 俺は、あえて確認した。


 実は今『波動鑑定』させてもらったので、うろ覚えだった名前も確認はしているんだけどね。


「はいそうです。アクアリアと申します」


「アクアリアさん、たまたま私たちが通りかからなければ、かなり危険だったと思うんですけど……やはりしばらくは、一人で迷宮に入るんですか?」


「……はい」


「最初に会った時も、ニアが誘いましたけど、我々のクランに入りませんか?」


「あ、あのう……ありがたいお誘いなんですが……私は一人で活動したいんです……」


「深い事情は分かりませんが……それは周りの人を巻き込まないためですよね? あなたが特別なスキルを持っているからですよね?」


 俺のその問いかけに、彼女は驚きつ、咄嗟に一歩後ろに下がった。


「申し訳ない。緊急事態だったので、あなたの状態を確かめるために『鑑定』をさせてもらったのです」


 本当は『波動鑑定』をしたんだけど、『通常スキル』の『鑑定』をしたことにした。


 俺は、さっき彼女を『波動鑑定』して、特別なスキルを持っていることを知ったのだ。


 しかも、俺たちに関連の深いスキルだった。


「『水使い』……あなたは『水使い』という『使い人』スキルを持っていますよね?」


 そう、なんと『使い人』スキルを持っていたのだ。


「は、はい……『使い人』スキルをご存知なのですか?」


「『使い人』スキルは、非常に危険です。強力なスキルなので、犯罪組織に狙われていたスキルなんです。実は私は、『使い人』スキルを持っている人たちを、保護しているんです」


「え、『使い人』スキルを持った人たちを保護……?」


「そうです。あなたは『十二人の使い人』という英雄譚をご存知ですか?」


「はい、知っています」


「私の下には、その十二人のうちの七人がいます。またそれ以外の『使い人』も二人います」


「え、そんなに……ですか?」


「はい。あなたの存在が、どの程度知れ渡っているか分かりませんが、危険にさらされる可能性があります。そう考えると、一人で行動しているのは危険です。無理強いするつもりはありませんが、よかったら私たちの仲間になってくれませんか?」


 俺は、改めて勧誘した。

 彼女を、ほっておくわけにはいかないんだよね。

 頼れる仲間がいるなら、無理に俺たちの仲間にする必要はないが、一人というのはほんとに危険だと思う。


「私は……一人でいなければいけない事情があるんです……」


「その事情って何よ? 言ってみて? 一人で抱え込んでないでさぁ、人に助けてもらったっていいじゃない?」


 ニアがじれったいという感じで、そう言った。


「私は……『アポロニア公国』に追われているんです。……正確には、追われる可能性があると言ったほうが、いいかもしれませんが……」


「追われる可能性がある……?」


 俺は、呟くように尋ねてしまった。

 ……どういうことだろう?


「はい、実は……『アポロニア公国』のある組織にいたんですが……クビになって追放されたんです。そして、ただ追放されただけでなく、監視がついていたのです。その監視を振り切って、この国まで来て、冒険者になったんです」


「国から監視がつけられていた……?」


「ただ……私が追放されたのは、私の能力が取るに足らないものだからなので……そのまま、放って置いてもらえるかもしれませんが。それでも可能性としては、追手を放たれる危険があるんです。国家の機密を知っていますから……」


「国家の機密……?」


「はい。ただ特別なものではなく、いずれ誰もが知るようなことですけどね……」


「なるほど。そんな事情があったんですね。だから、関わる人たちに迷惑が及ばないように、一人だったわけですね」


「ふーん、そんな事情があったのね。一人でいるわけは、それだけ?」


 ニアは何かを感じ取っているのか、そんな質問をした。


「後は……ちょっと人間不信というか、人が信じられなくなって……一人でのんびり生きたいと思ったんです」


「やっぱね。そっち系の理由もあるわけね。どうせさぁ、ここまで話したんだからさぁ、何があったのか言っちゃったら? 機密とかも別に平気よ。私たち悪用しないから。これでも一応妖精女神って言われてるし、グリムなんて救国の英雄だから」


「それは知っていますが……私と関われば、ニア様やグリムさんも『アポロニア公国』に狙われるかもしれません」


「別にいいわよ。そん時はそん時よ」


 そう言って、ニアが俺に視線を流した。


「そうです。仮にそういう状況になっても、なんとかしますから、言ってみてください」


 無理強いするつもりはないが、俺たちを心配して話さないのなら、そんな心配は無用だ。


 むしろ事情を知っておいた方が、助けになることもできるだろうし、何か対策を考えることもできるだろう。


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