1212.勇者パーティーから、追放!?

「実は……『アポロニア公国』では、勇者召喚を成功させて、異世界から勇者を呼び寄せたんです。

 私は辺境で暮らしていたのですが、ある日突然『水使い』スキルが発現し、それを知られてしまって……従者として勇者パーティーに加えられたんです……」


 訳ありのソロ冒険者アクアリアさんが、意を決して打ち明けてくれた。


 びっくり情報満載だ!

 彼女は、『アポロニア公国』の出身らしい。

 そして噂通り、『アポロニア公国』では勇者召喚を成功させていた。

 その勇者のパーティーに、彼女が入っていたというのだ。


「勇者パーティーのメンバーだったんですか?」


「そうです。でもクビになっちゃいました……」


「クビですか……?」


「はい。勇者パーティーは、力をつけるために迷宮に潜ったり、魔物の領域で戦ったりしていたのですが、私は『水使い』と言っても、回復系の魔法しか使えず……レベルの上がりも遅かったので、クビになっちゃったんです……」


「え、それだけの理由で?」


「はい。私としては、一生懸命頑張っていたつもりなんですが……。気心が知れていると思っていたパーティーメンバーからも、手のひら返しで冷たくされて……人を信じるのが怖くなっちゃったんです」


「なるほどね。そりゃそうなるわよね。でもねアクアリアちゃん、そんな人ばっかりじゃないから。

 騙されたと思って、しばらく私たちのとこに来てみなさいよ。

 いやになったら、いつでも辞めていいからさ。

 あなたが勇気を持って、この国に来たこと、そして私たちと出会ったことが、意味のあることだって、後になったらきっとわかるわよ」


 ニアが、明るく軽い感じで言った。

 あえて軽い感じで言ってくれてるんだよね。

 この人、こういう時は、いつもこうなんだよね。


「アクアリアさん、無理強いはしたくないですが、ニアが言う通り、試しにクランに入ってみませんか? 

 体験入会という感じで、数日でもいいですよ。まずは冒険者として。

 その後、他の『使い人』の子たちみたいに、正式に私たちの仲間になるかどうか、判断してもらえばいいと思います」


「あー、それからねぇ……一つ言っておくけど、私たちの本当の目的は、この国に巣食っている悪魔を倒すことだから。

 私たちの仲間になることで、逆にあなたが危険に巻き込まれることも、あり得るのよ……」


 ニアがそう言って、俺に視線を向けた。


「確かにそうです。これははじめに言っておくべきことでした。むしろ、我々と関わることで、危険に巻き込まれる可能性もあります」


 俺は、そう付け足した。


 俺たちと関わるデメリットも、伝えといてあげないといけないね。

 ニアのナイスフォローだ。


 ただ俺たちと関わる関わらないにかかわらず、特殊なスキルが発現している以上、彼女の人生にはある程度の危険はつきまとうと思うんだよね。


 それを考えたら、やはり俺の仲間になってもらって『共有スキル』が使えたり、大勢の仲間たちと共にいたほうが安全だと思うんだけどね。


「やはり……この国は悪魔の影響下にあるんですね。『アポロニア公国』でも同様の情報を掴んでいて、この国を攻め滅ぼそうとしているんですよ……」


 え、攻め滅ぼす……?

 俺は、彼女の言葉に違和感を感じた。


 勇者を召喚して、悪魔を倒そうとしているのはわかるが、国を責め滅ぼそうとしているのか?


「悪魔を倒すだけでなく……国を責め滅ぼそうとしているんですか?」


「はい。もちろん悪魔も倒すつもりでいるようですが、半ばそれを口実にして、国を征服しようと思っているみたいです。

 あの国は正義と邪悪が混在している国なんです……」


「それは……本当なんですか?」


 なんて国だ……信じられない。


「はい。もともと勇者召喚に踏み切ったのも、魔王が現れるという予言があったからのようなんですが、未だ魔王の存在は確認されていません。

 ただ情報を集める中で、『アルテミナ公国』が悪魔の影響下にあることを掴んだみたいなんです。それで、標的が『アルテミナ公国』になったというわけです」


「勇者は、それに利用されているのですか?」


「いえ、むしろ勇者が主導しています……」


「え、勇者が征服を主導しているのですか?」


「はい。『アルテミナ公国』が悪魔の影響下にあるなら、国ごと滅ぼしてしまえばいいと言ったのは、勇者なんです。

 公王を始め重臣たちもそれに乗って、国を挙げて戦争の準備をしています」


 なんてことだ……。


「その勇者という人は、間違いなく勇者なんですか?」


「『勇者召喚』を試行錯誤の末、やっと成し遂げたことは間違いないようです。

 王族の系統には、極稀に特殊な召喚スキルを持って生まれる者がいるそうで、今の世代には三人いたみたいです。

 二人は召喚に失敗し、命を落としたということです。最後の一人で、ようやく成功したみたいです」


「じゃあ間違いなく、異世界から来た勇者なんですか?」


「確かに彼は、勇者なのだと思います。『称号』に『勇者』とあるようですし、レベルが最初から40あったそうですから」


 なるほど……『称号』に『勇者』と入っているならば、一応の勇者であることは、間違いないようだ。


 ただ『職業』欄に『勇者』と入っていない以上、『真の勇者』の状態には至っていないということだろう。


「違う世界から来たというのも、間違いないんでしょうか?」


「そうみたいです。最初はひどく混乱していたらしいんですが、すぐに勇者として振る舞うようになったみたいです。

 ただ……私には、とても勇者とは思えない人柄なんです……」


「と言うと……?」


「傲慢だし……人の気持ちなんて考えない、自分中心の人だと思います。

 戦いでも周りの犠牲なんて気にしませんし、民間人の犠牲も気にしませんから。だから国を滅ぼすなんて考えられるんですよ」


 アクアリアさんは、唇をかみしめた。


 勇者に対して、相当腹に据えかねているみたいだ。


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