1200.フリークエスト、発生!?

 上空から『スライムの砦』がないか検知していたところ、『エンペラースライム』のリンちゃんが、突然何かを感じたらしく、急降下した。


 その時に、空間のゆらぎのようなものを感じたので、結界らしきものを突破して、降り立ったようだ。


 俺も、すぐにその地点を目指し急降下する。


 ……特に抵抗もなく、さっと地面に降りれた。


 ……ここは……!?


 どうやら、『スライムの砦』と言われている場所のようだ。

 実際にあったのだ!


 まぁ砦というよりは……まるでストーンサークルだな。

 巨大な石の柱がいくつも立っている。


 そして気づけば、すごい数の『スライム』に取り囲まれている。


 その『スライム』たちは、何故かみんな銀色だ。


 『波動鑑定』をすると……『アイアンスライム』と表示される。

 特殊クラスのようだ。


 それなのに……なぜか全ての『スライム』がレベル1だ。


 もしかしてこの数……百八体なのか!?


 レベル1の『スライム』を、百八体集めることが特殊なクラスチェンジをする条件の一つになっていたけど……それにより進化したのが、この『アイアンスライム』なのかもしれない。


「やぁみんな、突然お邪魔してごめんね」


 俺は話しかけてみたが、この子たちは『絆』メンバーではないので、当然言葉が返ってこない。


 でも三回バウンドしている。

 なんとなく喜んでくれているようだ。


 そして、リンちゃんが話しかけてくれている。


 リンちゃんなら、『絆』メンバーでなくても『スライム』同士だから話が通じるはずだ。


 すると一体の『スライム』が、リンちゃんに石版を渡した。


「あるじ、これ読んでって言ってる」


 リンちゃんが、そう教えてくれた。


 俺は早速、石坂を手にして読んでみる。



 ————————————————————


 ようこそ『スライムの神殿 月の院』へ



 ここに訪れることができたあなたは、『スライム』に慕われているマスターなのですね。


 ある条件を満たし、この神殿の力を利用すれば、特殊な『スライム』に進化させることができます。


 ただし、あなたは試練を受けなければなりません。


 『ゲッコウ迷宮』中層に行って、特殊な『スライム』を探してください。

 その『スライム』を見つけ出すことができ、かつ認められれば、あなたの『スライムマスター』としての道が開けるでしょう。

 女性ならば『スライム聖女』、男性ならば『スライム聖者』の『称号』を得られるでしょう。


 あなたが、『スライム』の無限の可能性を引き出してくれることに、期待しています。


 どうぞ試練を乗り越え、素晴らしき未来を手にしてください。



 ————————————————————



 ……そんなことが書いてあった。


 なんか……ゲームなんかのイベントクエストが発生した感じだ。

 そんな状態だよね……?


 まぁイベントクエストというよりは、フリークエストって感じかもしれないけど。


 こんなの見てしまったら……迷宮中層に行って、特殊な『スライム』を探すしかないじゃないか!


 しかし、迷宮の中層に行くなんて……『限界突破ステータス』の俺だからあまり嫌な感じはしないが、普通の人なら結構しんどいと思うんですけど……。

 試練と言うだけはある。


 それにしても、このメッセージを残した人は誰なんだろう……?


 『スライム聖女』なのかなぁ……?

 それとも……もっと上の存在なのかな? 神様的な?


 まぁ考えてもわからないから、今深掘りするのはやめよう。


「あるじ、ともだち、期待してるって言ってる。ずっと待ってたって言ってる」


 リンちゃんがそう言って、三回バウンドしている。

 リンちゃんもテンションが上がっている。

 嬉しいようだ。


「そうか……。この子たちは、ここから出られないのかなあ?」


「出られないって、ここを守るように言われてるって。この神殿の主が新たに決まれば、その人に従うって言ってる」


 そういうことね……この地を守るように言われているのだろう。


「リンちゃん、ここは結界が張ってあるのかな? 魔法的なものなのか、魔法道具なのか、訊いてくれない?」


「うん、わかった」


 リンちゃんはそう言うと、ここの『スライム』たちに尋ねてくれた。


「あるじ、特別な装置が設置してあるって。ともだちも、よくわからないって言ってるけど。魔力は時々流してるんだって。幻惑の結界で、誰も入って来れないようになってるって言ってる。スライムの気配を強く探れるものしか、入れないみたい」


 そういうことか……。


「リンちゃんが気配に気づいてくれたから、入れたんだね。ありがとう、リンちゃん」


「あるじのため、リン、頑張った!」


 リンちゃんが、三回バウンドした。

 すごく嬉しそうだ。

 リンちゃんは……本当にかわいい。


「次に来る時は、どうすればいいのかな?」


 リンちゃんが、また尋ねてくれた。


 それによると、迷宮の中層で特殊なスライムを発見することができ、認められれば、その者に導かれて来れるということのようだ。


 そして、それに期限のようなものはないらしい。

 だから焦ってやる必要もないみたいだ。


 “期限切れで失敗”みたいなことには、ならないようで良かった。


 ただ……気になっちゃうから、早く見つけたいけどね。


 そう思って、ふと真剣に考えたんだけど……迷宮中層で特殊なスライムを見つけるって……めっちゃ難しくない?


 すごい広いし、そもそも『冒険者ギルド』の歴史の中でも、中層に挑めた冒険者なんて、数が少なかったわけだからね。

 記録なんてあまり残ってないよね。

 当然地図みたいなものも、ないだろうし……。


 ダメ元で、地図売りのイグジーくんに、家宝で伝わっていないか訊いてみよう。


 これは、腹を据えて取り組まないといけないかもしれない。

 というか……“迷宮攻略を楽しんで、運良く特殊なスライムを見つけられたらいいや”くらいの感じに気持ちを切り替えないと、ダメかもしれない。


 中層に挑んで、結構クセのある魔物が出てきたら、まだ取得してない耐性スキルとかを取得できる可能性もあるしね。

 楽しみながらやったほうが、良さそうだ。


 本当は、上層を攻略してから中層に挑みたかったんだけど、上層をすっ飛ばして、いきなり中層に行くか……。


 前に聞いた話では、上層の『エリアマスター』を倒さなくても、中層へ行けるルートはあるらしいんだよね。

 だから、そこは問題ないんだけどね。


 でもなんとなく……中層に行くなら、上層の『エリアマスター』一体くらいは、倒してから行きたいな。

 それが“冒険者の矜持”みたいな気がしてきた……。


 よし、頑張るぞ!


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