1191.魔法の車椅子の、プレゼント。
「クランで大々的に事業するのは、ほとんど例がないので、目立っちゃうことを心配しているかもしれませんが、大丈夫です。
不動産賃貸って、そんなに目立たないですから。
グリムさんのクランが賃貸事業をしてることは、ほとんど知られずに済むと思います。
お店があって、お客さんが集まるとかじゃないですから」
『商業ギルド』のやり手受付嬢ビジネリアさんが、俺の不安を見越したように、そんな話をしてくれた。
なるほど、確かに不動産オーナーって……広く一般に知られる事はないもんね。
でもそれって……営業活動や手続きを全部やってくれる不動産屋さんがあるからの話であって、そうでなければ、まぁまぁ目立つんじゃないかな。
下手したら、店舗も構えなきゃいけないかもしれないし。
「あの……手続きをするのに場所を用意したり、担当者をつけなきゃいけないですよね……?」
「それなんですけど……私がお手伝いできると思います!」
「と言いますと……?」
「『商業ギルド』の不動産仲介業務は、商人などが使う不動産物件の取引や、土地や住宅の販売がメインです。
でも、今後は、個人に対する住宅賃貸の斡旋も、力を入れていこうと思っているんです。
ですから、グリムさんは大家さんとして物件を所有してもらうだけで、大丈夫です。
私が借り手をお世話したり、手続きをしますから!」
なるほど! それならいいな。
「それはいいですね! 助かります。
でも……手数料収入などは多く望めないと思うんですが、大丈夫なんですか?」
「はい。新しいギルド長が来たんですけど、話のわかる人なので大丈夫です!
それに私、ギルド長補佐という特別職になったんです」
「おお、すごいですね! おめでとうございます」
「ありがとうございます。これからは、本当に人々の役に立つ『商業ギルド』を目指したいんです」
「素晴らしいと思います。ぜひ頑張ってください」
「はい、その第一弾と言えるものが、これです。
私はもう、半分くらいグリムさんのクランの一員って感じですから。
そういえば聞きましたよ、賛助会員の話。
私もなりますから! とりあえず三口でお願いします」
おっと賛助会員の話まで耳に入っているのか……さすがの情報力だ。
「ありがとうございます」
「そうだ、今度新しいギルド長を紹介しますね。今日は不在ですけど」
「はい、ぜひお願いします」
俺は、『商業ギルド』を後にした。
◇
『ツリーハウスクラン』に戻って来た。
ちょうど地図売りのチャラ男氏ことイグジーくんと、そのお母さんが来ていた。
イグジーくんは、お母さんと暮らしている家があるので、住み込んではいないのだ。
「はじめまして。イグジーの母親のパリーと申します。この度は、この子がお世話になります。本当にありがとうございます」
お母さんが、丁寧に挨拶をしてくれた。
イグジーくんに、脇を支えられている。
お母さんは何かわからない呪いのアイテムに触れてしまって、弱体化の呪いがかかり、足腰が弱っている状態なのだ。
長い時間立っていることが、できないとのことだった。
イグジーくんが若いだけあって、お母さんも若い。
四十代半ばではないだろうか。
だが弱体化の呪いのせいか、全体に元気がない感じだ。
「いえ、こちらこそクランのメンバーになっていただいて、嬉しく思っているんですよ」
「あの……本当にこの子に、地図を描く仕事をさせていただけるんですか?」
「はい。もちろん迷宮で危険な目に遭わないように、強い冒険者と一緒に入ってもらいますから」
「ありがとうございます。その点は心配していません。
どちらかというと、自分の身を守れるくらい武術の修練をしてもらいたいと思ってるんです。
そして地図を作らせてもらえることが、ほんとに嬉しいんです。
死んだこの子の祖父や父親も、喜ぶと思います。何卒よろしくお願いします」
イグジーくんのお母さんは、すごく品がある人だ。
イグジーくんは、母親の前では口数が少ない。
さっきから、ほとんど話していない。
やはりあのチャラ男は、ビジネスチャラ男なのかもしれない。
俺は、密かにお母さんを『波動鑑定』させてもらう。
……やはり『状態』表示に、『呪いによる弱体化』と表示されている。
詳細表示を確認しても、何も表示されない。
ステータス画面からは、呪いの原因はわからない。
俺は、呪いを解呪するスキルを持っていないので、何もしてあげることができない。
俺の知り合いの中で、可能性があるのは……『光柱の巫女』たちだが……できるかどうかは不明だ。
今は付喪神となった『闇の石杖』の闇さんは、呪われたアイテムだったわけだが、『光柱の巫女』のスキルをもってしても、すぐに呪いを解くことはできなかったんだよね。
イグジーくんの話でも、教会に行っても解呪できなかったと言っていた。
ただどこかのタイミングで、『光柱の巫女』のテレサさんに来てもらって、試してもらおうとは思っているけどね。
その前に、まずはこれをプレゼントしよう。
俺は、魔法カバン経由で『波動収納』から、『ドワーフ』のミネちゃんに作ってもらったホバー式車いすを出した。
木製の椅子の下に、丸い板がついた形状になっていて、浮遊できるのだ。
椅子の下には、収納用の引き出しも付いている。
背もたれの後ろのスペースには、袋等が下げられるようにもなっている。
肘掛けのところにも、簡単な収納が付いている。
とってもユーティリティな椅子なのだ。
密かに、俺も欲しいと思ってるんだよね。
まぁ『波動複写』でコピーできるから、すぐにでも使えるんだけどさ。
「もしよかったら、これを使ってください」
「グリムさん、これは、なにかなー?」
興味を持ったのか……お母さんより先にイグジーくんが尋ねてきた。
「これは、お母さんに座ってもらう動く椅子だよ」
「え、動く椅子!?」
「そう、座ったままで移動できる特別な魔法道具だよ。今使ってみるね」
俺はそう言って、自分で座って魔力を流した。
すると、ほんの小さな音とともに、二十センチから三十センチほど浮かび上がった。
肘掛けのところにレバーがあって、それを前後左右することであらゆる方向に進むことができる。
もう一つ高さ調整のレバーもあって、浮遊する高さもある程度調整できるのだ。
「すごいやぁぁぁ、なにこの魔法道具!」
イグジーくんが驚いている。
「お母さん、よかったら座って試してみてください」
俺はそう言って、お母さんに座ってもらった。
そして操作する方法を教えた。
「あら、これはすごいわ! 座ったまま自由に動ける。重い荷物を運ぶ時にも便利ですね」
お母さんが、感動してくれている。
確かに荷物を運ぶ時にも、便利だよね。
乗ってること自体が面白いし、ある程度の荷物を運ぶこともできるから、販売したら売れそうな気がする。
ただ『階級』が『
誰もが買えるようなものには、できそうにない。
それに、無理に普及する必要もないだろう。
なんとなく……異世界情緒がなくなっちゃう気がするんだよね。
ちなみに『名称』は、『魔具 浮遊椅子』となっている。
一般には販売しないけど、俺の仲間たちには、希望者に配ろうと思っている。
俺自身が欲しいからね。
あと……クランの子供たちの遊び道具として、一つぐらいは置いてもいいかもしれない。
魔力を使う練習にもなるしね。
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