1186.新しい、技コマンド。

 『怠惰』スキルの化身として俺の脳内に現れたタイディは、強制休眠によって、俺がパワーアップしスキル内コマンドが発生していることを教えてくれた。


 早速確認したいところだが……その前にタイディに訊いておきたいことがある。


 (君と同じように、俺の他の『固有スキル』も、自意識を持って脳内活動できるのかな?)


 (可能性はもちろんあるわよ。大体の『固有スキル』は、その人の願望の表れなんだから、意識を持つってこともあり得るわけよ。

 まぁあんたが限界突破してるチートだってことが大きいけどね。

 普通は、なかなか起きないだろうけど、あんたの場合は、今後もあり得るわね)


 (ちなみに……そうなった場合、脳内が働きすぎとかにはならないわけ? 今でもナビーが、独自行動してるけど……大丈夫なのかな?)


 (それは、ケースバイケースね。

 ナビーの存在のおかげで、助かってる部分もあるからね。

 要はメリハリよ! 

 脳内で独立意識を持ったスキルが、一斉に活動する必要がある場合もあるし、逆にそうじゃない時は、活動させないとか、好きにさせることが大事なわけよ。

 だから私は、好きに引きこもらせておいてほしいわけ)


 (なるほど。多分だけど……睡眠をちゃんと取っていれば、脳内スキルの活動も、ある程度は収まっているよね?)


 (まぁそうね。寝てるとだいぶ違うわ。脳内活動してないってわけじゃないけどね)


 (なんとなくわかってきた。

 ……この『怠惰』スキルを積極的に活用する方法とかあるのかな?)


 (あるけど……一番は、やっぱり休養とって見えない能力を上げることよ。事象の好転も期待できるし。

 もっと積極的な使い方としては……何年何十年という単位で、自分で設定して休眠状態に入ることができるわ。

 つまりこのスキルを使って、自主的にコールドスリープができるわけよ。これってチートよ! 特別な装置なしで、長い期間休眠できちゃうわけだから。

 でも多分その機能を使うことは、ないでしょ)


 (なるほど……そんなこともできるんだね)


 (私は引きこもって、あんたの健康管理をしつつ、全体の様子を見てるからさ。

 どうしても自分のことで知りたい状況になったら呼んでもいいけどね。ナビーも大体のことはわかってるけど、私の方が引きこもっている分、細かくわかる可能性があるから。

 あーでも、だからって、気軽には呼ばないでよね)


 (なんか……言われれば言われるほど、話すタイミングが難しいんですけど……。

 どうしてもって時だけってことね)


 (そういうことよ。もう私は引きこもるからさぁ、さっさと自分の『固有スキル』の状態を確認して! 結構すごいパワーアップしてるから。そこんとこよろしく!)


 (わかった。ありがとう)



 じゃあどこから確認するか……まずはナビーだな。


 (ナビー、大丈夫?)


 (マスター、大丈夫です。もちろん今のタイディちゃんとの話も、全部把握しています。私もマスター自身ですから。今後、タイディちゃんと密かに連携できそうです)


 (おう、それはよかった。俺が話しかけるよりも、ナビーとやりとりしてもらった方が、いいかもね)


 (それはいつもの丸投げですか?)


 (そんな、丸投げなんて人聞きが悪い……オホホホホ)


 (適当に誤魔化そうとしても無駄です)


 ……相変わらず厳しいお方。

 まぁ今日はセクハラはやめておこう……。


 (その発想自体が、既にセクハラです!)


 やばい、心の声が筒抜けだから……速攻でセクハラを断罪されてしまった。

 話が進まなくなる……。


 (自業自得です。まぁ今日のところは勘弁しましょう。

 私のスキル本体である『自問自答』スキルのレベルが1つ上がって6になりました。

 これに伴って、新しいコマンドが発生しています!)


 おお、新コマンドきたぁぁ!

 タイディちゃんが言っていたのは、このことか!


 早速確認しよう! 


 『オペレーター』という技コマンドが、増えている。


 『オペレーター』というと……一般的には、何かを操作したりする担当者ということだと思うが……。


 詳細表示は……


 ――スキル内コマンド「オペレーター」――擬似人格としてオペレーションする機能。


 これしか表示されない。


 『ナビゲーター』コマンドのナビーみたいに……話ができたりするのだろうか……?


 コマンドを起動してみる。


 (はじめまして、先輩! 私が今後、脳内の様々な処理を担当することになります。一生懸命がんばりますので、よろしくお願いします)


 突然、音声とともに脳内に女性の映像が写し出される。


 黒の就活スーツを着ている女の子だ。

 可愛い明るい感じの子だ。

 黒髪が肩まで伸びていて、マイク付きヘッドホンのようなものをはめている。


 『オペレーター』コマンドが起動して、現れたのだろう。


 それにしても、先輩って……?


 (それはですねぇ……可愛くて明るい後輩女子社員が欲しいという先輩の心の願望が現れた結果です!)


 おっと、やはり俺の心の声がこの子にも筒抜けのようだ。


 そして……俺の願望の表れってか?


 その容姿もってことだとね?


 ナビーは、美人秘書風で、今度は後輩女子社員風……やばいな俺の心……。


 確かに……明るくて素直で一生懸命な後輩社員がいたらいいなぁ……みたいな願望はあったかもしれないけどさ。

 後輩社員に信頼され慕われる存在になりたい……みたいな願望もあったかもしれないけどさ。


 なんか今とっても……恥ずかしい気分だわ……トホホ。


 気を取り直して……


 (改めて、これからよろしくね)


 (はい先輩、よろしくお願いします。私一生懸命がんばります!)


 なんか……さっきのタイディちゃんの毒舌風なキャラと真反対なので……新鮮というか……心が洗われる思いだ。


 そう思った途端……タイディちゃんには筒抜けだったようで、俺の脳内に「チッ」という舌打ちが響いた。


 (タイディちゃん、ごめんなさい)


 俺は真摯な気持ちで謝罪した。


 でも……ガン無視だった……トホホ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る