1182.受け継がれた、名剣。

 夕方になって、中区にあるムーンリバー伯爵邸にやって来た。


 約束通り、ツリッシュちゃんを連れて来たのだ。


 ツリッシュちゃんの家門であるクレセント伯爵家……まぁ今は存在しないわけだが。

 そのクレセント家に、代々伝わってきた伝家の宝刀を受け取るためだ。


 応接室に通されると、伯爵が待っていた。


 手には黄金色に輝く一振りの剣が握られている。


「待っていたよ。これが君のおじいさまが使っていた名剣だ。

 その名を『月白ツキシロ』と言う。

 クレセント家は、初代王の頃から仕えていた名門で、言い伝えでは、初代王より与えられたと言われている」


 伯爵はそう言って、剣をツリッシュちゃんに渡した。


「ただの剣ではないのだぞ。光属性を持った剣だ。

 剣を白く美しく輝く月のように光らせることができる。

 人々を照らし導く剣なのだ。

 まさに大将軍にぴったりの剣だろう」


 伯爵はそう付け加えて、ツリッシュちゃんに剣を鞘から抜くように、ジェスチャーで促した。


 この剣は、大剣に属する大きさと言っていいだろう。

 剣の長さは、一般的な剣よりも1.5倍位長い。

 剣幅も、斬馬刀ほどの広幅ではないが、普通の剣の二倍くらいはあると思う。


 ツリッシュちゃんの現在の体格には不釣り合いな剣であるが、見事に鞘から抜くことができた。

 それほど重くないのかもしれない。

 剣自体も薄っすら金色っぽい。


 まさかオリハルコンで出てきてないよね……?


 俺は、密かに『波動鑑定』をさせてもらった。


 『名称』が『魔剣 月白ツキシロ』なっていて、『階級』は『極上級プライム』だ。


 詳細表示を見ようとしても、素材は表示されない。


 ただなんとなくオリハルコンとは、違うもののような気がする。

 『白光』という発動真言コマンドワードで、剣を光らせることができるらしく、戦っている最中に目くらまし攻撃をしたりできるみたいだ。


 そしてその光を発生した状態で攻撃をすると、アンデッドに対しては特効になるらしい。


 それ以上の事は書いていないので、それ以上の特殊な機能は多分ないのだと思う。


 ツリッシュちゃんが手に取って、魔力を流してみている。


 うっすらと剣が光った。


 ツリッシュちゃんが使うには、両手剣として持つしかないだろう。

 しかも彼女の身長と剣の長さを考えれば、腰に差すことはできないから、背負うかたちで持ち歩くしかないと思う。


 まぁいずれ彼女も魔法カバンを持つようになるだろうから、収納することはできると思うけど。


 ただ、大きな剣を背負うというのも、冒険者らしいし、かっこよくていいとは思うけどね。


「それから、これは伝え聞いているだけだが……公王家の伝家の宝刀の一つに、『風清カゼキヨ』という剣があったそうだ。

 『月白ツキシロ』と兄弟剣と言われている。

 『月白ツキシロ』が光属性を帯びた剣であるとすれば、『風清カゼキヨ』は風属性を帯びた剣だったそうだ。

 剣から風を出す機能があり、また剣の力を引き出せれば、傷を癒す回復の剣にもなると言われておる」


 伯爵が、そんなことも教えてくれた。


「その剣は、今も公王家で所有しているのですか?」


 俺は少し気になったので、尋ねてみた。


「いや、何百年も前に紛失したという話だ。その原因や何があったのかなどは、公開されておらんのだ」


 なるほど……失われた名剣というわけか。


 今の話が本当だとすれば、公王家に伝えられる名剣と兄弟剣という事だから、やはりこの剣はすごく価値のある剣ということになる。

 そして、クーデターによって取り潰されたクレセント家が、名門貴族だったことがよくわかる。


「ありがとうございます。クレセント家はもうありませんが、この剣は引き継ぎます。人々のために役立てたいと思います!」


 ツリッシュちゃんが、伯爵に礼をしつつ決意を伝えた。


 この子はほんとに……真面目というか、立派な心持ちの子だ。


「あぁ、ぜひそうしてほしい。これから冒険者としてデビューするのか?」


「はい。そのつもりです。一日も早く冒険者としてデビューして、力をつけたいです!」


「わかった。何かあれば、いつでも力になる。遠慮なく言ってほしい」


「はい、ありがとうございます」


 ツリッシュちゃんは、屈託のない笑顔を伯爵に向けた。


 伯爵もその笑顔を見て、凄く嬉しそうだ。


 あれほど貴族を嫌っていた彼女だが、もうわだかまりはないようだ。


 酷い貴族も相変わらずいるわけだが、今本当に倒すべきは悪魔たちだということが明確になったから、ある意味気持ちの整理がついたのだろう。




 ◇




 夜になって、秘密基地『竜羽基地』にやって来た。


 今朝『ツリーハウスクラン』でリリースした『ハンバーグ』を、いつものメンバーにも振る舞うためだ。


 俺は、早速『ポテトサラダ』と『ポテトチップス』をのせた『ハンバーグプレート』と、『コッペパンハンバーガー』を振る舞った。


「やっぱり何度食べても、美味しいのだ! ミネちゃんたちにも食べさせてあげたかったのだ!」


「そうなの〜。みんなで一緒に食べれて幸せなの〜。チャッピーは毎日食べるなの〜」


「これは凄いのです! 

 もう凄すぎて……弟子入りするしかないのです! 

 ハンバーグ師匠と呼ぶしかないのです! ハンバーーーグ! 

 ハンバーグ師匠は、溢れる肉汁でミネをドロドロにしようとしてくるのです。でも一滴も漏らさず吸い尽くし、食べ尽くすのです! 

 ミネはハンバーグ師匠を超えてみせるのです! ハンバーーーグ!」


「またグリムさんは、こんな芸術のような食べ物を作ってしまったのですね。

 肉をミンチにして、その中に野菜も混ぜ込なんて……。

 それでいて、全体が一つに混ざり合っている。

 新たな命を生み出しています! 

 やはりグリムさんを一生の研究対象として、命を生み出す過程をつぶさに観察しなければなりません!」


 リリイ、チャッピー、『ドワーフ』のミネちゃん、ゲンバイン公爵家長女のドロシーちゃんが、いつものように感想を述べている。


 みんな気に入ってくれたようだ。


 ミネちゃんはなぜか、「ハンバーーーグ!」と絶叫しているし、ドロシーちゃんは、またわけのわからないことを言っている。

 新たな命を生み出しているわけじゃありませんから!

 ハンバーグ師匠は生きていませんから!


「父上、これは凄いです! 口の中で肉汁が溢れ、同時に気力も溢れてきます。きっと食べ続ければ、経験値も溢れ出して、レベルが上がると思います!」


「だったらぼくは、肉汁を出せるように食べ続けます!」


「ぼくは、『ハンバーグ』になる訓練をします!」


 ビャクライン公爵家のシスコン三兄弟が……いつものように、わけのわからない感想を述べた。


 もはやお約束だが……やはり突っ込んでおかざるを得ない。


 いくら『ハンバーグ』を食べても、経験値は溢れ出ませんから!

 レベルも上がるわけありませんから!


 『ハンバーグ』を食べ続けても、自分体から肉汁は出ませんから!

 それは汗ですから!


 訓練しても、『ハンバーグ』にはなれないから!


 本当に、ある意味ぶれない子たちだ。


 そしてビャクライン公爵は、そんな三兄弟に注意することなく、満足そうに頷いている……ダメだこりゃ!



 そんなこんなで、『竜羽基地』で行われたハンバーグ大会も、大盛況のうちに終わった。


 もちろん『ポテトサラダ』と『ポテトチップス』も大好評だった。


 貴族女子のメンバーにも、大受けだったのだ。


 特に『ポテトチップス』は、お茶請けにも良いと言って、早速おねだりをされてしまった。


 今後、『フェアリー商会』で『ポテトチップス』を商品化することにし、『ポテトサラダ』も飲食部門でメニューに加えることにした。


 『ハンバーグ』については、既存の飲食部門でメニューに入れても良かったのだが、一旦保留にした。


 人気商品になるのは確実で、仕込みが大変になるからだ。


 今後ハンバーグ専門店及びハンバーガーショップの開業

 を検討することにした。


 もちろん、俺自身は無理に手を広げるつもりはないのだが、『フェアリー商会』の幹部メンバー……特に見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんが乗り気なので、任せることにした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る