1180.突然の、昇格。
「本当にすまなかった。クレセント伯爵に、顔向けができない……。せめて、今後君の後ろ盾にならせてくれないか?」
ムーンリバー伯爵がそう言って、ツリッシュちゃんの手を握った。
「ありがたいお言葉ですが……私は、大丈夫です。
このクランで強い冒険者になって、弱い人を守れるようになりたい。
今の私の願いは、それだけですから」
ツリッシュちゃんのその言葉からは、純粋で強い決意が滲み出ていた。
「なるほど……やはりあの方の孫娘だ。大将軍の魂は、君の中に生きているようだ。
わかった、これ以上は何も言うまい。このクランにいるなら、安心だ。
ただ君に渡すものがある。
一度屋敷のほうに、来てもらいたいのだ」
伯爵の申し出に、ツリッシュちゃんは、少し困った顔で俺を見つめた。
「伯爵、渡すものとは……?」
俺が代わりに尋ねると……
「実は……クレセント家に代々伝わっている伝家の宝刀とも言うべき剣を預かっている。
大将軍が、最後まで使っていたものだ。
あれは……ツリッシュちゃんが持つべきものだ。
渡せる可能性を信じて、今まで大事に持っていたのだ。ぜひ受け取ってほしい」
「なるほど、そういうことなんですね。分りました。この後、私がツリッシュちゃんをお連れします」
「ありがとう。それから……今更だが、この子を頼む」
伯爵は、改めて俺に頭を下げてくれた。
「ええ、もちろんです。ツリッシュちゃんは、もう私の家族ですから」
俺はそう言いながら、ツリッシュちゃんの肩に手を置いた。
ツリッシュちゃんは、突然の出来事にかなり驚いたようだが、落ち着いている。
そして目には、うっすらと涙を浮かべている。
まぁ結果オーライだったね。
これで本人が望めば、大将軍だったおじいさんの人となりとかも、伯爵から聞くこともできるだろうし。
そして……さっきからツリッシュちゃんの横で、ルージュちゃんが号泣している。
「ツリッシュお姉さまが……そんな境遇だったなんて……」
ルージュちゃんが、むせび泣いているので、リリイとチャッピーが心配そうに手を握っている。
当然他の子供たちも、集まってきて聞いていた。
みんな驚いていて、何人かの子が泣いている。
この子たちは、ある意味ツリッシュちゃんに驚かされっぱなしなんだよね。
最初は、男の子だと思っていたのが女の子だったし、今度は貴族の令嬢だったわけだからね。
だがそんなことがあっても、子供たちの彼女に対する信頼は何も変わらないようだ。
だいぶ早めの昼食が終わり、子供たちはラウンジを後にした。
ラウンジには、俺たちだけが残ったわけだが、ギルド長から話があると言われ、そのままお茶をすることにした。
「話というのはじゃなぁ……お主の冒険者ランクについてじゃ」
はて……冒険者ランク……?
「冒険者ランクですか?」
「そうじゃ、お主の冒険者ランクを、今のFランクからCランクにしようと思っておるのじゃ」
「え、Cランクですか!?」
「そうじゃ、Bランクにもできんことはないが……まぁ焦ることもあるまい」
いやいや、そういうことじゃなくて……。
FからいきなりCランクって、そんなのありなの!?
「ギルド長、私はまだ一度しか迷宮に入ってませんし、クエストも常時依頼されているものを二つやっただけです。評価に値するような実績は、ないと思うのですが……」
「実績がない? 何を言っておるのじゃ? 実績がありすぎるから困っておるのではないか!」
「え、実績がありすぎる……?」
「確かに普通は、迷宮に入って魔物を狩って、その討伐実績や、クエストをこなした数、達成実績を考慮して、ランクを決める。
ギルドの資料にポイントが累積され、規定に達すればランクを上げるということになっておる。
だがそれは、普通の話じゃ……」
「普通じゃない話もあるのですか?」
「お主の場合は……この迷宮都市の危機を救い、大量の魔物を討伐した。
迷宮での『
キング魔物に至っては……イノシシ魔物のキング二体、バッファロー魔物のキング、鶏魔物のキング、ワニ魔物のキング、迷宮内でのカエル魔物のキング、昨夜の襲撃ではネズミ魔物のキング、兎魔物のキング、熊魔物のキング……を倒しておる。
総数九体ものキングを倒しておるのじゃぞ。
そして冒険者の恥とも言える悪徳クランを退治してしまった。
これを実績と言わずして、何と言うのじゃ?」
ギルド長が何故か、呆れたような顔で俺を見ている。
「はぁ……」
そんなこと言われてもねぇ……。
「だからお主は、Cランクなのじゃ!
この分だと……Bランクも近いじゃろ。
わかりやすく言えば……『エリアマスター』を討伐すれば、Bランク確定じゃのう。
久々のAランクにもなれるかもしれんのう。
いやお主なら……伝説Sランクもありじゃな。今後が楽しみじゃ、ハッハッハ」
ギルド長はそう言って、豪快に笑った。
なんか……すごく楽しそうなんですけど。
よくわからないが、迷宮の外でことも実績としてカウントするなら、確かにすごい数の魔物を倒したから、基準を満たすのかも知れない。
なんとなく……着実にランクを上げていく楽しみが、消えたような気もするが。
まぁそもそも、ランクというものに執着していなかったから、どうでもいいと言えば、どうでもいいんだけどね。
「分りました。ありがとうございます」
断ることもできないので、ありがたく昇格させてもらうことにした。
「ちなみに言っておくとじゃなぁ……正式な昇格を今日にするか、明日にするかは、ともかくとして……冒険者登録から数日でのCランク昇格は……『冒険者ギルド』の公式な記録が残っている中では、史上最短じゃ。また大きな注目を浴びることになってしもたのう。ハハハハハハ」
ギルド長はそう言って、また大笑いしている。
あなたが決めたんでしょうよ!
なんか無責任な感じなんですけど……。
ギルド長は、すぐに手続きをしてCランク冒険者の冒険者証を渡すと言ってくれた。
と言うことで……俺はCランクのパーティーになってしまった。
しかもパーティー名は、まだ仮の名前の『シンオベロン(仮)』のままなんですけど……。
正式なパーティー名が、まだ思いついてないんですけど……トホホ。
Cランクの冒険者パーティーは、現在八組あるということだったので、九組目となったようだ。
そしてギルド長が、Cランクになった特典を説明してくれた。
一流と言えるCランク以上冒険者になると、ギルド会館三階の特別室を自由に使うことができるそうだ。
高級ラウンジのようになっているらしい。
特別室は、高級感のある部屋で、ゆっくりお茶ができるとのことだ。
上位の冒険者同士で、情報交換をしたりする場になっているらしい。
冒険者の間では、一種のステータスにもなっているとのことだ。
それから、特別な依頼があった場合に、優先して回してもらえたりするそうだ。
また『冒険者ギルド』から迷宮調査の依頼等を、発注する場合もあるとのことだ。
ギルド長は、特典と言っても大したものではないと笑っていたが、実力主義の冒険者にとっては、特別室を使えるとか、そういうことが名誉という意味で大きいのだろう。
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