1164.黒幕は、黒の賢者?

 ニアの話によれば、『ツリーハウス屋敷』での聞き取りと現場の検分が終わった後、『ドクロベルグラン』の本部となっている屋敷に、衛兵隊と『冒険者ギルド』で、共同の立ち入り調査に入ったらしい。


 そして、そこにニアも同行したというのだ。


 『冒険者ギルド』からは、ギルド長と副ギルド長のハートリエルさん、綺麗可愛い受付嬢のリホリンちゃん、綺麗セクシーな受付嬢のナナヨさんが同行したらしい。


 衛兵隊の指揮をとっていたのは、引き続き独立部隊隊長のムーニーさんだったそうだ。


 ニアは、悪徳クランを倒した功労者という立場で、同行しないかと誘われて、行ってきたらしい。


 ニアは面白そうだという思いだけでなく、何か仕掛けがあって、調査する人が危険にさらされる可能性もあると考え、同行を決めたとのことだ。


 すごく良い判断だと思うが……それをめっちゃドヤ顔で俺に言っているところが、やはり残念感が出てしまっている……。


 ちなみに俺がいないことについては、突然現れた魔物のキングに関して、何者かが関与していると考え、痕跡を追って行ったということにしてくれたようだ。


 だから俺がいないことについては、特に不審がられなかったとのことだ。


 ムーニーさんとギルド長の計らいで、『ドクロベルグラン』本部にあった現金を全て、俺たちの戦利品にしてくれたそうだ。


 これは、俺が搾取されている冒険者を救うために立て替えた大金が、入っていることを考慮してくれてのことらしい。


 ムーニーさんにも、その事情を説明してくれて賛同してもらったのだそうだ。


 もっとも、ムーニーさんは、初めから俺の戦利品とする事を考えてくれていたそうなのだ。


 たまたま魔法カバンに入れて、トヤッキーたちが持っていたとしたら、倒した俺が戦利品としてもらうことになるから、それと同様に考えれば良いと言ってくれたそうだ。


 それどころかムーニーさんは、『ドクロベルクラン』の本拠地の屋敷を、俺に与えるように進言してくれるとまで言ってくれたそうなのだ。


 一旦、市の管理物件になるが、襲撃事件鎮圧の対価、褒賞として与えられる可能性があると言ってくれていたらしい。


 このような場合で、特に功績は大きいと判断された場合には、あり得る措置なのだそうだ。


 今回の襲撃事件を、周辺被害をほぼ出さずに鎮圧したことは、大きな功績と言える。

 そう評価されるだろうとのことだ。


 別に俺は屋敷が欲しいわけじゃないから、無理に与えてもらわなくてもいいんだけど。


 『ドクロベルクラン』の屋敷は、『上級エリア』すなわち一等地にある。

 しかもすごい広さだから、市が没収して競売にかければ、かなりの収入になると思うんだけど。


 なぜみんな俺に土地を持たせたがるのだろう……?

 不動産屋でもやれと言うのだろうか?


 まぁこの世界でも、確かなものは金貨とか、宝石とか、土地ということなんだろうけどね。


 一旦土地を没収してしまって、その代金を褒賞として与えるというのは、多分やりづらいのだろう。

 屋敷をそのまま褒賞にする方が、いろいろと通りやすいんだろうね。


 まぁそういう感じで、何か与えようと思ってもらえるのは、ありがたいことだけどね。


 ちなみに、屋敷にあった現金は、三千四百万ゴルだった。

 俺が、借金返済のために立て替えた金額は、九百万ゴルなので二千万五百万ゴル儲かってしまった。


 ただこれは、搾取されていた冒険者たちに分けてあげようと思う。

 これまで苦労したから、せめてその対価として、渡してあげようと思っているのだ。


 五つのパーティ合わせて、二十二人となるから、一人に百万ずつ渡してあげようと思っている。

 残りの三百万ゴルは、クランの運営資金に充てればいいだろう。


 本来、背負う必要がなかった借金はなくなり、逆に苦労した補償という感じで、お金がもらえるとなれば、みんな喜んでくれるだろう。



 屋敷の中には、研究設備と思われるものが、いろいろあったそうだ。

 今後、衛兵隊で本格的に調査をする予定とのことだ。


 ただ、あのゴーレムを操っていた“魔法道具の腕”を作るような、高度な設備はなかったようだ。


 トヤッキーとボンズラーも、検分に立ち会わせそうだが、二人が言うには、『黒の賢者』と名乗る者が定期的に現れて、特殊な魔法道具をくれたり、生産用の道具をくれたり、様々な知恵を貸してくれたのだそうだ。


 どうも黒幕は……その『黒の賢者』という奴らしい。


 どう考えても、冒険者の集まりであるクランが開発できるような代物ではないからね。


 『黒の賢者』は、悪魔もしくは悪魔と関連する人物ではないだろうか。


 そして驚くことに、今回の襲撃の前にも現れて、強くなれる道具だと言って、魔法道具を置いていったらしい。


 今回の襲撃自体は、俺たちにやり込められた腹いせに、ポロンジョが計画したみたいだが、見計らったようなタイミングで現れたらしいのだ。


 渡された魔法道具というのは、足輪……アンクレットになっていて、ピンチになったら発動させるようにと、ポロンジョに発動スイッチが渡されていたとのことだ。


 そしてそれを発動したら、奴らは『魔物人まものびと』に変わったというわけだ。


 ポロンジョたちは、『魔物人まものびと』という存在も知らなければ、それに変わってしまうということも、知らなかったのだそうだ。


 それから、キング魔物三体も、『黒の賢者』に渡された装置で呼び出されたとのことだ。

 トヤッキーによれば、筒状の装置だったらしい。


 これも中身が、キング魔物だとは知らなかったそうだ。


 トヤッキーは、今にして思えば、筒の中に魔物が入っていたと言うよりは、転移させるためのマーカーのようなものが入っていたのではないかと、言っていたらしい。


 『正義の爪痕』の生き残りがいて、新たにそんな装置を開発した可能性もあるが、それほどのことができる人物が存在していたとの記録は無かったはずだ。

 可能性は薄いのではないだろうか。


 やはり悪魔が、何らかの形で絡んでいると考えたほうがいいだろう。


 『黒の賢者』は神出鬼没で、突然現れては消えると言っていたそうなので、転移系のスキルか魔法道具を使っているのだろう。


 そんな行動を考えると……なんとなく上級悪魔の関与ではないかと思えるが……。


 まさか……『セイチョウ迷宮』に現れた『人形の悪魔』か!?


 ゴーレム関係の魔法道具を渡していることから考えると、関連があるようにも見える。


 もしかして……俺が動けないように、『ツリーハウスクラン』の襲撃中に、『セイチョウ迷宮』を狙ったのか?


 それゆえに、仮面で現れた俺を、別人と思ってくれたのだろうか……?


 今考えても結論が出ることではないが、その可能性を前提に警戒することにしよう。

 そして、さらに情報を集めよう。

 もしかしたら、他にも『黒の賢者』が現れているかもしれないからね。


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