1144.降って来た、キングたち。

 俺は、ニアからの報告を受け、戦場となっている隣の倉庫に駆けつけることにした。

 報告は、ゴーレムを操っている冒険者たちが、突如として『魔物人まものびと』に変わったという驚くべきものだった。


 ——バゴォォォォンッ

 ——グギャァァァッ

 ——ギイィィィィッ


 なに!


 『魔物人まものびと』の確認のために、ニアたちのほうに行きかけたところで、ここで拘束していた冒険者六人が、『魔物人まものびと』に変わってしまった!


『養育館』の方に現れた、弱いゴーレムを操っていた冒険者たちだ。


 体が巨大化して、拘束していた縄はちぎれ、腕になっていた魔法道具も外れている。


 そして、新しい腕が生えている。


 そしてこの姿は……完全に『魔物人まものびと』だ。


 両肩に蛇の頭が乗っていて、人部分の額に蛇の顔が浮き出ているから、蛇の『魔物人』だ。


 『波動鑑定』でも、『種族』が『魔物人まものびと』に変わっていた。


 こうなってはしょうがない、倒すしかない。


 俺は、切れ味抜群の『魔剣 ネイリング』を取り出した。


 肩の部分から伸びて攻撃してくる蛇頭を切り落としながら近づき、心臓を突き刺す。

 そしてそのまま頭に向けて切り上げる。


 『魔物人まものびと』 は、心臓と頭を同時に潰さないと倒せないのだ。


 俺は六体を瞬殺し、すぐにニアたちがいる倉庫に向かう。



 大きな倉庫の中で戦っていたが、すでに倉庫のかなりの部分が破壊されている。


 ここには、『魔物人まものびと』が十二体もいる。


 皆蛇の『魔物人まものびと』だ。


 『魔物人まものびと』は、人の意識を保ったままの状態でいられるので、ゴーレムの発動も継続している。


 ゴーレムの再生機能の要である胸の装置に気づいたので、半分以上のゴーレムは倒しているが、まだ十数体稼働している。


 『ツリーハウス屋敷』の門の所でも、まだ十体ほど残っていた。


 そっちは、引き続き『美火美びびび』のメンバーと、俺のボタニカルゴーレムが応戦中だ。


 おそらくこの十二人で、六十体くらい操っていたのではないだろうか。


「リリイとチャッピーは、ゴーレムを頼む!」


「了解なのだ!」

「任せてなの〜」


「ニアは『魔物人まものびと』を頼む。俺は、ポロンジョたちを捕まえる!」


「オッケー。あいつらこの隙に、外に出てるわよ」


「ああ、わかってる。すぐに追いつくから、大丈夫だよ」


 奴らがここから出て、『ツリーハウス屋敷』のほうに移動したのは、わかっている。


 俺は、『飛行』スキルを使い、空から奴らの前に急降下する。


「どこに行くつもりだ!?」


「うわぁ、お、おのれグリム! ふん、お前は今日で終わりだぁぁぁ!」


「そうかなぁ……? 夜襲をかけたはいいが、迎撃され追い詰められてるのは、お前の方だと思うけど?」


「バカを言ってんじゃないよ!」


「そうだ、そうだ! ポロンジョ様が、追い詰められるものか!」


「そうでヤンス! わいがぺっちゃんこにしてやるでヤンス!」


「お前たち、やぁっておしまい!」


「あいあいさー!」

「へいへいさー!」


 トヤッキーとボンズラーは、そう言うと魔法カバンから武器を取り出した。

 しかも一瞬で装着した。


 トヤッキーは、両手にバズーカのようなものを持っている。

 バックパックのようなものを背負って、そこから管が伸びてバズーカらしきものと繋がっている。


 ボンズラーは、両腕に巨大なグローブのようなものをはめた。


 遠距離攻撃と近距離攻撃を組み合わせるようだ。



「あの世へおさらばだ! 魔力大量チャージ済みの魔砲で消し炭になれぇぇ!」


 ん、魔砲なのか!?


 まずいなぁ……避けるのは簡単だが、避けると被害が出てしまう。


「私たちの家を汚す奴は、許さないよぉー! みんなやるよぉー!」


「「「ブヒッ!」」」


 ——ドズンッ

「うげっ」

 ——ボオォォォン


 魔砲の発射直前だったトヤッキーに、魔法の貯金箱の付喪神のセントンちゃん、体当たりした!


 トヤッキーは、身体を後ろにそらし、魔砲は夜空に向かって、発射された。


 二筋の赤い光弾が夜空を照らす。


 魔力エネルギーが収束されていて、かなり威力があるようだ。


 セントンちゃんの素早い突撃のおかげで、周辺被害を出さずに済んだ。


 そして、ボンズラーには、ドウトン、ギントン、キントンたちが突撃し、ボコボコにしている。


 セントンちゃんも、引き続きトヤッキーに連続の体当たりをしているので、ボコボコ状態だ。


 この二幹部は、セントンちゃんたちに蹂躙されている。


「こいつらは任せてぇー! 頑張っちゃうわよぉー!」


 セントンちゃんが俺を見て、てへぺろ顔をした。


 豚の貯金箱でも、付喪神化すると……てへぺろ顔ができるらしい。

 てか、舌のあるわけね。しかもかなり長いのが。


「ふん、まだよ、これで、お前のクランは終わりだよぉぉぉ!」


 ポロンジョが負け惜しみとも取れる発言をした。

 ん、一瞬だが背中から何か飛び出たような気がする……。


 ——ドズンッ


 ——ドズンッ


 ——ドズンッ


 魔物!?


 突然、三カ所に魔物が現れた!

 空から落ちて来た!


 転移で現れたのか?


 門の前には、二メートルを超す兎の魔物が、仁王立ちしている!


 『養育館』の方には、一メートル以上……大人の背丈ぐらいのネズミの魔物がいる。

 やはり、目を赤く光らせて、仁王立ちしている。


 これには、今までほとんど悲鳴をあげていなかった子供たちが、悲鳴をあげている。


 ニアたちのいる倉庫のほうには、四メートル以上のクマの魔物がいる。

 建物の一部を、完全に押し潰している。


 『波動鑑定』をかける——


 ……なんと、三体ともキングだ!

 上位種のキング魔物なのだ!


 しかも、レベルはどれも55だ。


 どうも、ポロンジョが呼び出したようだ。

 先ほど背中から何か発射されたような気がしたが、それによるものだろう。


 前に『正義の爪痕』が使っていた『プリズンキューブ』のような、魔物を閉じ込めておける魔法道具を使ったのかもしれない。


 門のところの、兎魔物のキングは、『美火美びびび』のメンバーと『ボタニカルゴーレム』で持ちこたえてもらおう。


 まずは『養育館』に現れたネズミ魔物のキングを片付ける。

 万が一、子供たちに被害が出ると、嫌だからね。


 ——ピカッ、ゴロゴロ、バアァァァァンッ


 雷!?


 突然、ネズミ魔物のキングに雷が落ちた。

 ネズミのキングは、感電した感じで、直立したまま固まっている。


 『雷使い』のラムルちゃんが、技を使ったのか……?



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