1117.闇の掃除人として、お掃除。
『商業ギルド』のビジネリアさんとの話を終えた俺は、出かけることにした。
行こうと思っていたところがあるのだ。
ニアが、猿の生息地に行くときに、一緒にいかなかったのも、この予定があったからだ。
それは……迷惑な隣人『ハコモノ商会』の会頭氏に制裁を加えることだ。
これは、散々文句を言われて頭にきた俺が、私的な制裁を加えるというわけではない。
と断言しておきたいところだが……実のところは、私的な制裁でもある。
頭に来てたからね。
だがあんな奴を野放しにしたら、他に泣きを見る人が出ちゃうのも確かだ。
それに、実は昨夜『闇の掃除人』として出動してしまったのだ。
またもや、睡眠時間が短くなってしまった……トホホ。
俺は、『ハコモノ商会』の事務所、倉庫、会頭の屋敷に潜入した。
大体の場所は、ビジネリアさんから聞いていたのである。
そして資料を漁り、今日、ある集団と会う約束があることを突き止めた。
場所は、北門を出た街道を進んだ場所だ。
目印の岩があり、そこで落ち合うとことになっていた。
そしてその落ち合う相手とは……盗賊団だ。
なんと、盗賊団と関係していたのである。
伝票があって、特注の小型馬車を二台納めることになっていたのだ。
確認のために倉庫に潜入したところ、その特注の小型馬車というのは、なんとあのアホ貴族のボコイが乗っていたローマ時代の戦車のような馬車だった。
あれを、盗賊に納めているようだ。
旅人の馬車を、あの戦車で襲うのだろう。
あれなら、小さくてスピードが出るから、すぐに追いつけるはずだ。
そして、走りながら槍で攻撃を加えることもできるだろう。
旅人の馬車に襲いかかる盗賊には、ぴったりの仕様とも言える。
あの会頭は、当然販売先が盗賊だと知っているわけで、下手したら一味と言っていい関係かもしれない。
そしてあのアホ貴族とも、繋がっていることは確かだ。
伝書鳩として連れてきている『絆』メンバーの鳩に、奴を監視させていたのだ。
そして念話で、奴が盗賊団と落ち合っているとの報告が入ったのである。
俺は、人目を避けて『闇の掃除人』仕様に着替える。
フクロウをモチーフとした仮面と、『隠れ蓑のローブ』と『ハイジャンプベルト』を装着した。
『隠れ蓑のローブ』で、姿と気配が消せる。
『飛行』スキルを手に入れた今となっては、『ハイジャンプベルト』は必要ないが、目撃されたときのために一応装着する。
スキルの力ではなく、魔法道具の力で飛んでいると思わせるためである。
このベルトは、両脇に装着された拳銃のようなパーツから風を噴射し、舞い上がることができ、それの応用で空を飛ぶことができるのだ。
俺は姿を消し、『浮遊』スキルで舞い上がる。
そして、『
盗賊団は、十人しかいないようだ。
これで全員とは思えない。
アジトに残っているのだろう。
まぁとりあえず、ここにいる奴らを取り押さえよう。
俺は姿を消したまま近づき、『状態異常付与』スキルで『麻痺』を付与する。
眠らせなかったのは、あえて俺の姿を晒すためだ。
こいつらを衛兵に突き出すが、何が起きたのかをわからせておくためなのだ。
『ハコモノ商会』の会頭は、部下を二人連れて来ている。
盗賊団十人と合わせると、合計十三人になるが、まとめて麻痺させ、縄でぐるぐる巻きにした。
盗賊たち十人は、荷運び用の馬車二台で来ていたので、それに乗せる。
『ハコモノ商会』の三人は、商品を運んできた馬車に乗せた。
商品として積んである戦車のような馬車は、悪事の証拠にもなるので、そのままにしておく。
盗賊たちが持っている武器は、没収した。
そして俺は、『ハコモノ商会』の会頭が持っていた魔法カバンを奪った。
案の定、俺が払った土地の代金が入っていた。
相場の四倍近い値段で、七千五百万ゴルだ。
入っていたのは、それだけではない。
元々こいつが持っていた四千五百万ゴルも入っていた。
合計すると、一億二千万ゴルだ。
これは、盗賊を捕まえた戦利品として、俺がもらうことにする。
こいつに払った土地の代金を、実質取り返したわけだ。
というか……それ以上だけどね。
そして、ざまぁみろだ!
昨日、『商業ギルド』でビジネリアさんに、こいつの評判を聞いたときに、叩けば埃が出るだろうと思っていた。
あえて先に土地の売買を済ませて、正式にあの土地を俺が手に入れてから、こいつを叩いて埃を出したわけだ。
そして戦利品として、回収させてもらったのである。
こいつが、後で『闇の掃除人』に奪われたと言っても、誰も取り合わないだろう。
この世界では、盗賊を捕まえた者は、盗賊が所有していた物を、戦利品として獲得するのが通例なのである。
それを咎める者は、いないのだ。
通例であり、国も認めているのである。
これが『コウリュウド王国』とかなら、盗賊を捕らえた報奨金がさらにもらえるのだが、『アルテミナ公国』はその制度がなくなってしまったとのことだった。
だから、ここでは盗賊たちを捕まえても、『コウリュウド王国』の時みたいに、稼げるわけではない。
ただ今回のように、戦利品として没収できる財産が多くあるときは別だけどね。
実質取り返しただけとは言え、かなり稼げたことになるのだ。
『ハコモノ商会』が、盗賊と深く繋がっている証拠資料も昨日確保したので、それも付けて突き出すつもりだ。
普通なら、こいつの商会は取り潰しになるだろうから、もう悪事は働けないだろう。
こいつ自身が、人を殺しているかわからないが、盗賊たちは確実に人の命を奪っているだろうから、深い繋がりがあると判断されれば、場合によっては処刑されるかもしれない。
少なくとも、犯罪奴隷には落ちるだろう。
こいつは、もう再起不能だ。
ご近所トラブルというか……子供たちを保護した俺のクランに文句を言ったことで、この結果を招いたわけだが……自業自得だ。
こいつが、蒔いた種なのだ。
今回のことがなくても、いずれ同じような運命になっていただろう。
それに『闇の掃除人』は、掃除人だけに、人の迷惑になってるゴミみたいな奴は、綺麗に掃除するのである。
俺は、馬車三台を牽引する馬たち二頭ずつ、合計六頭を仲間にした。
そして、念話で指示して、北門まで行くように伝えた。
御者もいないのに馬車が三台来たら、門番たちも驚くだろうが、それで中を見てくれれば『闇の掃除人』が盗賊を退治したことがわかる。
いつものように、メッセージを添えてあるからね。
そして俺は、この盗賊たちのアジトも潰すことにした。
十人ってことは、考えられないから、絶対にアジトに残っていると思ったのだ。
だから、アジトの場所も聞き出した。
今回はいつものように、やさしい物理力は使っていない。
『状態異常付与』の『催眠』を使って、催眠状態にして自白させたのだ。
スムーズに聞き出せて良かったのだが……なんとなく俺的には、ちょっとストレスが残った。
どうも今まで、悪い奴を優しい物理力で懲らしめつつ尋問していて、それがストレス解消にもなっていたようだ。
俺の中にある処罰感情を、少しでも晴らしてくれていたみたいなんだよね。
今までの足の小指を踏んづけるとかの優しい物理力の行使は、意外と意味があったのかもしれない。
しみじみ思ってしまった。
まぁそんなことは、どうでもいいけどさ。
よし、次は、盗賊のアジトを潰しに行こう!
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