1109.クランに搾取された、新人冒険者。

 『ツリーハウスクラン』に入会希望で訪れた人たちの選考は、終わった。


 ただ最後に『アメイジングシルキー』のサーヤから、追加報告があった。


 それはサーヤの判断で、選考の対象から外したという一人の冒険者の話だった。


 なぜ選考の対象から外したのかと言うと、既に他のクランに所属していたからとのことだ。


 Eランクの冒険者パーティーのメンバーで、所属しているクランから抜け出すためにお金を貸してもらえないかとお願いしてきたそうだ。

 そして借りたお金はなんとしてでも返すし、できれば『ツリーハウスクラン』に入れてもらって、その中で返していきたいと訴えたのだそうだ。


 普通に考えるとお金の無心だし、クランの乗り換えの話なので、良い印象を持てる話では無い。


 だが、クランで酷い扱いを受けていて、本当に苦しいと泣いていたそうで、サーヤは話を聞いてあげたのだそうだ。


 その人は、十六歳の女性で、幼なじみの女性と二人でパーティーを組んでいるそうだ。

 『アルテミナ公国』の東隣にある『デメテル王国』の出身とのことだ。


 二人のパーティーなんて、かなり厳しいと思うが……。


 サーヤによれば、二人とも魔法スキルが使えるらしく、それで何とか戦えていると言っていたそうだ。


 魔法の才能に恵まれたので、冒険者になろうと思ったとも話していたらしい。

 その女性は火魔法が使えて、パートナーは土魔法が使えるそうだ。


 Eランクに上がった時に、突然クランに入らないかと声をかけられたらしい。


 魔法スキルが発現する人は、かなり貴重なので、それを知られて声をかけられたのかもしれない。


 その割には、大事にされていないようだけどね。


 優しい言葉で、熱心にクラン入りを誘われたそうだ。


 クランのマスターが女性だったこともあって、信用してしまったらしい。


 だが、いざメンバーになると毎月上納金を要求され、それが払えないと借金とされ、どんどん増えていってしまったのだそうだ。


 借金を返さない限り、クランから抜けられず、搾取される状態が続くと悲観していたそうだ。


 そのクランには、他にも借金漬けにされた若手冒険者がいるらしい。

 逃げ出そうとすれば、つかまって拷問のようなことをされ、下手すると奴隷として売られてしまう危険があるそうだ。


 奴隷として売り飛ばすよりは、冒険者として飼い殺しにしたほうが稼げると判断しているらしく、簡単には売り飛ばさないようだが。


 彼女たちは、上納金を収めるために、迷宮で連戦して、友人は大怪我を負ったそうだ。

 今は、宿屋で休んでいるらしい。


 魔法薬を買うお金もないので、薬草を使って治療していると泣いていたとのことだ。


 上納金が収められず借金となった金額は、百万ゴルと言われているらしい。


 一ヵ月二十万ゴルの上納金を要求され、三ヶ月分未納なので、本当は六十万ゴルのはずだが、利子がついて百万ゴルだと無茶苦茶なことを言われているのだという。


 サーヤはこの話を聞いて、魔法薬と金貨を二枚つまり二万ゴル渡したとのことだ。


 サーヤらしい優しい判断だ。

 もちろんサーヤなら百万ゴルでも貸すことができただろうが、俺の判断を仰ぐ必要があると考えたらしい。


 その女性は、泣きながら感謝していたそうだ。


 そして、できれば自分たちのような被害者が出ないように、何かしたいとも言っていたようだ。


 『冒険者ギルド』には相談に行ったが、クランの内部のことには介入できないと言われたそうだ。


 『冒険者ギルド』のスタンスは、そうなんだよね。

 前にギルド長も言っていた。


 明確な犯罪行為の証拠があれば別だが、そうでない限りは介入できないというスタンスなのだ。


 冒険者パーティーの中で喧嘩があったからといって、いちいちギルドが介入しないのと同じで、クラン内部で多少の揉め事があっても、介入をしないということなのだ。


 明確な犯罪行為があったら介入し、冒険者証を剥奪するとか、できる対策をするんだろうけどね。

 そしてその時点では、『冒険者ギルド』の管轄ではなく、衛兵の管轄になるんだろうけどね。


 サーヤは、その女性冒険者は真実を話していると判断していた。

 酷いクランであることは間違いないだろう。


 そして、そのクランの名前も、もちろん聞き出していた。


 それは……『ドクロベルグラン』だった。


 『ドクロベルクラン』と言えば、迷宮内での『連鎖暴走スタンピード』の時に助けた狼亜人のエクセちゃん、狸亜人のポルセちゃん、熊亜人のプップさんを酷使していた冒険者パーティーが所属しているクランだ。


 エクセちゃん達を見捨てて逃げたパーティーの生き残りが戻って来て、エクセちゃんたちを連れて帰ろうとしたときに、ハートリエルさんが撃退し、逆に拘束してくれた。


 あの時に奴らは、捨て台詞で『ドクロベルクラン』だと言っていた。


 あの時に見捨てて逃げた冒険者パーティーの奴らを許せないと思ったが、同時に、そのクランも許せないと思っていた。


 やはり、どうにかしたほうがいいかもしれないね。


 新人冒険者に甘い言葉をかけて勧誘し、入ったら手のひら返しで、搾取するために囲い込む。

 そして冒険者の命は使い捨てる……やっぱダメだな、そのクラン。


 よし、潰そう!


 冒険者同士の争いは、『冒険者ギルド』が禁じているので、表立ってやっつけちゃうわけにはいかないが、どうにかしよう。


 最悪これも、『闇の掃除人』出動案件だ。


 どう攻めるのが一番いいか……明日にでも、ギルド長と副ギルド長のハートリエルさんに相談してみよう。



 しみじみ思ったが、クランの募集を行ったことによって、この迷宮都市の様々な問題が垣間見えた。


 まぁ問題の一部なんだろうけどね。


 規模の大きい都市ほど、いろんな問題を抱えているものなのだろう。

 特にこの迷宮都市は、人口も多ければ貴族の数も多い、そして冒険者という特殊な存在もいる。

 迷宮が二つもあり、それに伴う様々な利権がある。


 改めて考えると、この街を正しく統治するのは相当大変だろう。


 ムーンリバー伯爵もかなり大変だろうなぁ……。


 迷宮都市に問題があるからといって、太守の伯爵を直ちに攻める気持ちにはなれなかった。


 そして……無理矢理プラス思考で考えるなら、『闇の掃除人』が活躍しがいのある都市だと思えばいいのかもしれない。


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