1099.目覚める、付喪神。
夕方になって、クラン入会希望の冒険者の面接は終わった。
面接官四人体制なのに……かなり時間がかかった。
いったい何名来たのだろう?
俺は、手伝いに来てくれた『冒険者ギルド』スタッフのリホリンちゃんとナナヨさんにお礼を言って、帰ってもらった。
この後、面接官四人と、採否の協議をする。
ただその前に、やっておきたいことがある。
夕方の時間帯なので、秘密基地『竜羽基地』に、国王陛下やユーフェミア公爵たちがいるはずだ。
相変わらず、毎日夕方集まって、訓練をしたり、情報交換しながら食事をしたりしているのだ。
俺は、四日ほど顔を出してないだけで、結構文句を言われているらしい。
だが、文句を言われているから、行くというわけではない。
みんながいるところで、やりたいことがあるのだ。
それは……今日魔法道具店で買ってきたあの豚の置物の調査だ。
ニアの知識により、付喪神である可能性があることがわかったので、みんなに見てもらおうと思っている。
もちろん、第一人者であるツクゴロウ博士や俺の仲間の付喪神たちの知恵も借りたい。
特にクワの付喪神クワちゃんは、定期的に休眠をしているとのことだったので、休眠から起こす方法も知っているかもしれない。
ということで、俺たちは『竜羽基地』に転移で移動した。
◇
「うぎゃゃゃ、あぁぁぁ、おぉぉぉ、びぃぃぃ」
俺が『竜羽基地』の会議室に置いた四つの豚の置物を見て、ツクゴロウ博士が号泣している。
付喪神である可能性があると聞いて、感情が抑えられないようだ。
しかも伝承が中途半端な謎の付喪神の可能性が高いと聞き、感動のあまり号泣状態だ。
まだ確定したわけではないのに……。
いつも思うけど、情緒不安定?
でもまぁ、その気持ちはわかる。
チーム付喪神のメンバーになだめられ、ツクゴロウ博士は何とか泣き止んだ。
そして、この付喪神と思われる豚の置物にまつわる話を教えてくれた。
それは、ニアが説明してくれたことと同じだった。
やはりそれ以上詳しいことは、わからないようだ。
『四匹の子豚』という昔話のあらすじだけが伝承されているとのことだ。
昔話の詳しいストーリーはわからないが、とにかく悪い奴からお金をとって、貧しいものに分け与えるという義賊のような付喪神がいたと伝わっているのだそうだ。
なぜあらすじだけが残っているのかというと、昔からの言い伝えで、『悪いことをして稼いだお金は、豚に食べられる』という諺みたいなものが残っていて、それが四匹の豚の形の付喪神の話だと言うのだ。
まぁそんな前置きはさておき、付喪神なら、ぜひ目覚めてほしい!
「クワちゃん、『四匹の子豚』の付喪神って知ってる?」
俺は、一番古い時代から存在しているクワ付喪神クワちゃんに、尋ねてみた。
「そうじゃのぉ……『四匹の子豚』の付喪神の話は、ワシも聞いたことがある。だが、会った事はないのじゃ。ワシも定期的に休眠を繰り返しておるから、活動時期が合わなかったのかもしれんのう」
「そうか……。前に、休眠に入った付喪神が起きるのって、道具としての存在が危機にさらされたときとか、精霊の働きで起こされたときって言ってたよね?」
「そうなのじゃあ。まぁいろんな要素があるが、ざっくり言えば、その通りなのじゃ」
「この豚の置物が付喪神だとして、どうやって起こすのがいいかな?」
「そうじゃのう……この魔法の貯金箱が破壊される危機にさらされれば、目覚めるかもしれん。だが……できれば避けたいのう。目覚めた途端、敵と認定される可能性が高いからのう。やはり精霊の力で目覚めさせるのが理想じゃのう」
そうか……精霊に力を借りたいんだけど、どうすればいいんだろう?
いつもは、精霊たちの声が急に聞こえて、向こうから力を貸してくれるんだよね。
どうしたものか……。
そう思いながら、なんとなくいつもの精霊を見る目の使い方をしてみた。
目のピントをずらすのだ。
すると……かなりの数の精霊が舞っているのがわかる。
俺はふと、右手を動かし、舞っている精霊たちを豚の置物に導いた。
すると、まるで俺の意図を察知したかのように、舞っていた精霊たちが帯のようになって、豚の置物に集まりだした。
周りをぐるぐる回っている。
——ブルブルブルブル
——ブルブルブルブル
——ブルブルブルブル
——ブルブルブルブル
なんと! 四体の置物が、まるでスマホのマナーモードのように細かく振動した。
だがそれもすぐに終わった。
今度は、四体の置物がうっすら光っている。
これは……付喪神が目覚めたようだ!
……直感でわかる。
「いやぁ、よく寝たぁぁぁ。ほら、みんな早く起きて」
ピンクのブタの置物が、動きながら言葉を発した。
間違いない付喪神だ!
「姉ちゃん、おはようブヒ」
「姉ちゃん、久しぶりブヒ」
「姉ちゃん、僕たち活動するのブヒ?」
茶色、銀色、金色の順番で起きた。
見守っていたみんなから、歓声が上がった!
みんなも、付喪神が休眠から目覚める瞬間に立ち会えて、嬉しいようだ。
ツクゴロウ博士に至っては、また号泣してしまっている。
あまりにもしゃくりあげすぎて……いい感じの感動空間だったのに、結構台無しだ。
ていうか、研究者なんだから、泣いてないで、観察するとか……いろいろやることあると思うんですけど!
四体の子豚の置物というか、魔法の貯金箱の付喪神は、俺たち大勢に囲まれ、面食らっているようだ。
久しぶりに目覚めて、こんなに取り囲まれて、しかも一人は号泣している……わけわかんないよね。
そんな状況の中、ツクゴロウ博士が、号泣しながら目覚めたばかりの付喪神たちに、いつものように抱きつこうとした。
だがこれは、チーム付喪神のメンバーによって阻止された。
鉄壁の防御だった。グッジョブだ!
もうツクゴロウ博士の行動パターンは、完璧に把握しているからね。
ツクゴロウ博士は、チーム付喪神のリーダーに勝手に立候補し、自称しているわけだが、リーダーというよりは……みんなにお守りをされているようにしか思えない。
『魔盾 千手盾』の付喪神フミナさん、『ホムンクルス』のニコちゃん、『闇の石杖』の付喪神の闇さん、『高速飛行艇 アルシャドウ号』の付喪神エメラルディアさん、『リュート』の付喪神リューさん、『壺』の付喪神ツボンちゃん、ツクゴロウ博士の七人がチーム付喪神のメンバーだ。
『家』の付喪神であるナーナは、サブメンバーとなっていて、行動は共にしていない。
『フェアリー商会』とか、いろいろ忙しいからね。
ただ俺的には、チーム付喪神の実質的なリーダーは、ナーナだけどね。
もともと新しく仲間になった付喪神たちの面倒を見てくれていたのは、ナーナなのだ。
チーム付喪神に、新たなメンバーとして、この魔法の貯金箱の付喪神が加わってくれるといいんだけど。
まずは挨拶をしないとね。
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