1098.呪いの、怖さ。

「ところで、お母さんが体が弱いっていうのは、回復薬とかじゃ治らないの?」


 俺は、地図売りのチャラ男氏ことイグジーくんに、思わず尋ねてしまった。


 話を聞いて、気になっていたんだよね。


「ああ、母ちゃんは……ちょっと訳ありで」


「話したくないなら話さなくていいけど、『癒しの女神』とも呼ばれるニアもいるし、何か力になれたらと思ったんだけど……」


「そうよ! もし私で力になれるなら、力を貸すわ!」


「ニア様は……見かけによらず、優しいんですね」


 イグジーくんは、チャラい笑みを浮かべた。


「え、ちょっと! 見かけによらずって、どういうことよ!?」


「あはは、冗談、冗談ですよ! ニア様は可愛いですよ! キミ、カワウィィィネェェェ!」


 なんだろう……話したくないのかな。

 わざと、チャラけてるのかなぁ?

 まぁいつもチャラけてるけどさぁ。


「まったく、もう!」


 ニアがほっぺを膨らませた。


「……ありがたいけど、多分無理だよ。回復薬とかでは治らないんだ。……まぁ、もう言っちゃうけどさぁ……呪われちゃってるんだ」


「え、呪い?」


 俺もそうだが、ニアも驚いたらしく真顔に戻っている。


「何かのアイテムに触ったせいで、呪われちゃったみたいなんだ。それが特別な呪いらしくって、教会に行っても解呪できないんだよ。もちろん魔法薬でもダメだし……」


「それって、どんな呪いなの?」


「弱体化の呪いの一種みたいで、足腰が弱くなっちゃうんだ。だから長い時間立ってられないんだよ。でも逆に言えば、それだけ。命が縮むとか、そういうことじゃないんだ。それがせめてもの救いだよ」


 そんな呪いが……。


 何とかしてあげたいが。


 そういえば、今まで呪いを解く方法とか、アイテムとか、スキルとか、あまり考えたことがなかった。


 元『癒しの勇者』で、吸血鬼の始祖でもあるヒナさんが『絆』メンバーになってくれたおかげで、『呪い耐性』は『共有スキル』にセットできている。

 だが、それを治療できるようなスキルは持っていない。


 呪いというのは、かなり厄介だ。


 強力な呪いは、解呪するのが難しいのかもしれない。


 呪われたアイテムだった『闇の石杖』の呪いも、『光柱の巫女』の神聖魔法スキルでは消すことができなかった。

 付喪神化させたことによって、消すことができたのだ。


『癒しの勇者』だったヒナさんも、自分にかけられた魔王の呪いは、強力すぎたようで解呪できなかったようだし。


「呪いか……それは厄介ね」


 ニアが神妙な表情で、腕を組んだ。


「呪いの原因になっているアイテムは、わかってるの?」


 何ができるかわからないが、原因アイテムがわかれば、対策も考えられるかもしれない。


 俺はそう考えて尋ねたのだが、イグジーくんは表情を曇らせた。


「それがよくわからないんだよ。いつの間にか呪いにかかっていたからね」


 そうなのか……原因アイテムがわからないんじゃ、そっち方向からの対策は立てられないってことだな。


 何とかしてあげたいが、迂闊なことは言えない。


「呪いを解く方法とかは、俺も詳しくないんだけど、知り合いに訊いてみるよ。もし何かいい情報があったら、すぐに教えるよ」


「ありがとう。……なんで出会ったばかりの俺なんかのために、そこまで考えてくれるのさ?」


 イグジー君は、真顔だ。


「そんなの当たり前でしょう! 呪いにかかって困っている人がいるんだから、救えるものなら救いたいって思うのは、当然よ!」


 ニアが言い放った。


「君とこうして話してるのも、何かの縁だし、事情を知った以上ほっとけないよ」


「へぇー……やっぱりグリムさんて、変わってるね。なんかこのクランって面白そうだね」


 気のせいかもしれないが、イグジーくんが目を潤ませたように見えた。


「イグジーくん、これからも、ずっと地図売りを続けるの?」


「とりあえず続けるしかないっしょ。冒険者の数が減ってきて、大変なんすけどね……」


 俺が話題を変えたからか、すぐにチャラい感じに戻った。


「もしよかったらだけど、うちのクランで地図を作る仕事をしないかい? クランのメンバーが使う特別な地図を作りたいんだ。より詳しい情報を盛り込んだ地図を」


 イグジーくんのお母さんの話に同情してしまったからか、思わずそんな提案をしてしまった。


 でも実際、地図作りを担当してくれるなら、願ったり叶ったりなんだよね。

 そういう人材が欲しいと思っていたから。


 普通なら、怪しいチャラい人に頼んだりはしない。

 だが、お母さんの話で……おじさんの心は緩んでしまったのだ。


「……ありがたいけどさぁ……さっきも言ったけど、命の危険がある迷宮に入る気はないよ。万が一のことがあったら、母ちゃんの面倒を見れないからさ」


「地図を作るために迷宮に入るときは、専用のパーティーを作って、危険がないようにするよ。それに、とりあえず序盤の地図が作れればいいから、余程のことがない限り、大丈夫だと思うけど……」


「なるほどね……」


「一つのフロアの地図を作るのに、魔物傾向を見るためには、日を変えて五回ぐらいは入ったほうがいいよね。

 うーん……一フロア十万ゴルでどうかな? 

 序盤の危険が少ないフロアを十カ所作ると、百万ゴルになる。

 それを東西南北四つのエリアと初心者用の『セイチョウ迷宮』の序盤十フロア分を作れば、五百万ゴルになるけど……」


「わぉ、そんな金額になっちゃうの! 本当にもらえるの?」


「もちろん」


「やっちゃおっかなぁ……」


 お金の力は偉大だ。


 お金で釣るような感じで申し訳ないが、そのかわり命を落とすことがないように、しっかりチームを組もうと思う。


「迷宮に入る日程は相談して決めればいいし、今やっている地図売りの合間で構わないよ」


「ほんとに! とりあえず、やっちゃいますわ! いい地図作るから、期待してちょ! 地図、カワウィィィネェェェ!」


 最後に、よりチャライ発言をしたことが、少し残念だ。


 まぁいいだろう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る