1030.スライムサイズの、装備。

 養鶏場の鶏やヤギや馬たち、それから密かに連れて来ている伝書鳩三羽、今回呼び戻した『スライム』たちは、非公式ながらクランのメンバーだ。

 『冒険者ギルド』への届け出の中には入れないが、俺や仲間たちの中では、当然クランメンバーとなる。


 『スライム』たちには、今後迷宮都市の中を自由に動いてもらおうと思っている。


 『スライム』を百八体集めようとしているボコイ=クレーターが、捕まえようとしてくる可能性はあるが、『共有スキル』が使える『スライム』たちにとっては、敵ではないだろう。

 もし対応できないような状況になっても、すぐに念話でSOSが入るから、俺が迅速に対応すればいい。

 仮に、『テイム』スキルを持つ者が現れても、俺の『絆』メンバーをテイムすることはできないしね。


 全く『スライム』を見かけないこの迷宮都市で、『スライム』たちが自由に動けば当然目立つわけだが……ここは開き直って、より目立たせようと思う。


 『スライム』たちも俺のクランのメンバーとわかるように……『スライム』用の『ツリーハウスローブ』も作ってしまったのだ。

 ついノリで作ってしまったという感じでもある。

 まぁ実際に作ったのは、『アラクネロード』のケニーだけどね。


 『スライム』が纏えるサイズのローブなので、すごいミニサイズになった。特に丈が、超短いのだ。

 『スライム』は、ビーチボールくらいのサイズだからね。


 ボール形状の下のほうに、紐を結べばいいと思っている。

 標準的な使い方は、ローブではなくマントとして使うかたちになるだろう。

 『スライム』には、手足がないからね。

 まぁ変形させて、手を出すことはできるけど。

 もちろん体全体も、変形させることはできる。

 基本の形がボールっぽいというだけで、楕円形とかいろんな形に変化できるのだ。

 ボール型ではなくて、ひょうたん型みたいにすることもできる。

 そんな状態でマントを装着すると…… 有名アニメの子供たちに暗殺をさせようとする教室の先生のみたいな風貌になりそうだ……ムフフ。

 もっとも、マントとしてではなくローブとして着用した方がそれっぽく見えるだろうけどね。

 まぁそんなことは、どうでもいいが。


 この『スライム』たちは、迷宮都市の影の守り手となる『スライム軍団』として、幅広く活躍してくれるだろう。


 軍団と言えば……今までは、関わった領の各市町に各軍団を作ってきたが、迷宮都市はどうしようか?


 そもそも迷宮都市の中に、ほとんど野生の生物がいないんだよね。


 メーダマンさんに、そんな疑問を投げかけてみたら……あっさり答えてくれた。 


 それによると……駆け出しの冒険者や、貧しい人たちが狩って食べてしまうかららしい。


 食べ尽くしたからというわけではなく、野生の生物たちが寄り付かなくなったということのようだ。


 『スライム』たちがいないのと、似たような理由だった。

 『スライム』たちがいないのも、変な都市伝説のせいですぐ捕獲されてしまう状態が昔にあって、その後寄り付かなくなったということだったからね。


 そういう事情なら、各軍団を組織するのは、ちょっと微妙な感じだ。

 全くいないわけではないと思うので、何体かを仲間にすることはできると思う。

 俺の仲間になれば『共有スキル』が使えるので、狙われても倒されることはないだろう。

 だが他の市町では目立たないはずの野良の生き物たちが、この迷宮都市では、存在しているだけで目立つことになる。


 人々が見つけても気に止めない野良の生物たちだから、密かな守り手や情報収集係として機能していたのだが、目立ってしまうと、あまり機能しないかも。


 まぁ全くいないよりは、いいかもしれないが、現時点では、無理に軍団を組織する必要は無いだろう。


 当面は『スライム軍団』だけにしよう。


 もちろん『スライム』たちも目立つわけだが、そこは割り切って逆に目立ちまくってもらう。

 『スライム』の素晴らしさを、再認識してもらうためにもね。


 それに、中区で魔物から人々を守ったり救助した『スライム』の存在は認知が広がっているし、普通の人が悪意を向けたり捕まえようとすることもないと思う。


 俺は、すべての『スライム』たちに専用サイズの『ツリーハウスローブ』を渡した。

 そして、自由に装着して良いと話した。


 すると……ほとんどの『スライム』たちは……俺の思惑とは違う装着方法に落ち着いていた。

 それは、いつものボール形状のまま、ローブの一番上のボタンだけを止めて、上に乗せるという装着方法だ。

 まるでベールを装着しているような感じなのだ。

 とっても可愛いはずの『スライム』が……ちょっと微妙な感じになっている。


 やはりボールの形状の方が動きやすいから、この装着方法になったのだろう。

 暗殺を指導する教室の先生のような感じにはならなかった……まぁいいけどさ。


 俺は、せっかく作って配布したが……『スライム』たちに、無理に装着する必要は無いと改めて伝えた。

 なんとなく動きにくそうな感じもするからね……トホホ。


 ちなみに、『ツリーハウスローブ』と『ツリーハウスベルト』は、羽妖精であるニアさん用の小さいサイズも作った。

 作ってあげないと、いろいろ面倒なことになっちゃうからね……トホホ。

 というか、「自分の分も作れ」と言うだけ言って、あの人多分着ないよね……まぁいいけどさ。



 『スライム』たちと対面した子供たちは、最初は警戒していた様子だったが、リリイとチャッピーが楽しそうに戯れるのを見て、すぐに一緒に遊んでいた。


 この迷宮都市では、『スライム』を見ることがないから警戒心を持ったようだが、すぐに安全で可愛い生物と認識してくれたのだ。

 こういう時にリリイとチャッピーがいると、みんなのお手本になるから、話が早くて本当に助かる。


 『スライム』たちも、子供たちと遊べてすごく楽しそうだ。

 みんな、めちゃめちゃバウンドしている。


 今後、『スライム』たちと子供たちが一緒になって、街の掃除をしてもいいかもしれない。

 子供たちが落ち葉やゴミなどを集めて、『スライム』たちが吸収するという感じだ。

 もちろん『スライム』だけでやることはできるし、そのほうが早いだろう。

 だが、子供たちに掃除して綺麗にする喜びや奉仕活動の喜びを知ってもらいたい。

 街が綺麗になれば、みなしごの子供たちに対しても、人々が好意的に見てくれるようになるだろうという期待もある。


 人のためにやったことが、自分に返ってくる……『情けは人のためならず』ということを、体験してもらいたいという気持ちもあるのだ。



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