1027.クランの、証。

「ねぇねぇ、『ツリーハウスクラン』のメンバーだってことを示す何かを作ったほうがいいんじゃない? 

 子供たちが出かけることだってあるし、身分証代わりになるものを作ったほうがいいわよ! “クランの証”みたいな感じでさ! 

 そのうち『ツリーハウスクラン』が有名になるはずだから、悪い奴らも手出ししにくくなると思うのよね」


 ニアが、突然そんな提案をした。


 まったくの思いつきだろうが、確かに一理ある。

 今まで俺が関わってきた孤児院や養護院の子供たちにも、俺が後ろ盾であることを示す証札を持たせている。

 確かに、それと同じ事はしたほうがいい。


 そして冒険者についても、このクランのメンバーだと明示する何かを装備した方がいいだろう。


 そういう“何か”があることで、『舎弟ズ』たちのように自負心も持つだろうし。


 ちなみに、『舎弟ズ』に標準装備されているのは、自衛用の竹光と純白のローブだ。


 自衛用の竹光は、俺が作った『魔竹の竹光 脇小太刀』だ。

 純白のローブは、『アラクネーロード』のケニーが作ってくれたすごい装備なのだが……『舎弟ズ』が着ると特攻服にしか見えない少し残念な感じの装備になっている。

 まぁこれは、背中に入っている『夜露死苦』のせいだが。トホホ。


 クランの装備としても、思い浮かぶのはやはり、ローブとかマントだが……できれば、クランの全メンバーがいつも身に付けられるものがいい。


「やっぱローブとかマントっていいよね! ある程度防御力のあるものを作れば、子供たちも冒険者も危険が減るし。防御力のある薄手のローブを作ったらどう?」


 やはりニアも、同じことを考えたらしい。

 ローブやマントだと、メンバーによっては身に付けにくい可能性もあるが……まずはその線で検討してみるか!


 俺は『精密画』スキルを使って、デザインを起こしてみた。

 『精密画』スキルは、頭の中でイメージしたものを写真をプリントするように描き出せるので、すごく役立つんだよね。


 …………………………。

 …………できた!


 イメージカラーは、『ツリーハウスクラン』だから、木のイメージでダークグリーンにした。


 膝くらいの丈で、フード付きのローブにした。

 両腰のあたりにポケットをつけて、その内側にも隠しポケットをつけた。

 両胸の内側にあたる部分にも、内ポケットをつけた。

 ダークグリーン一色だが、裏地を赤にしている。


 有名な魔法少年の映画の魔法学校の制服みたいで、かっこいい!

 前を開けて着ることもできるし、閉じることもできる。

 また上だけを止めて、マントとして装着することもできる。

 この場合は、袖の部分を内側に折り返すことで、違和感のない見た目になる。


 うん、いい感じだ!


 ニアも、「いいじゃない! 私も着たいくらいだわ。てか、私サイズも作ってよね」と言って、気に入ってくれた。


 これをもとに、実際に作ってみよう!


 俺は、『アラクネロード』のケニーに、念話を入れて来てもらった。

 ケニーに作ってもらうのだ。


 ツリーハウス屋敷の敷地中央の奥に作った俺と仲間たちの家に、ケニーを案内した。

 この家には、工作室も作ってあるのだ。


 ケニーは裁縫が好きだから、俺の依頼が嬉しいようだ。

 口では「あるじ殿のために、全力を尽くします」と冷静を装っているが……両手の人差し指が、超高速でツンツンされているから、喜んでいるのがすぐわかる。

 相変わらず可愛い奴め。


 ケニーの『種族固有スキル』の『糸織錬金』で作ってもらうわけだが、それは公開したくないから工作室で作ってもらうことにした。

 なんとなく……気分は、『つるのおんがえし』的な感じだ。

 てか、全然違うか。

 内緒で織ってるというだけの共通点だな。

 そんな事はどうでもいいが。


 ちなみに子供たちや他のメンバーは、自分たちの寝床の整備や、屋敷の整備をしてくれている。

 大人メンバーの部屋はもちろん個室だが、子供たちの部屋は、基本二人部屋にした。



 ケニーが、早速、試作品を作ってくれた。

 聖麻ホーリーヘンプの糸とケニーの作り出す糸を混ぜて作ってもらった。


 聖麻ホーリーヘンプの糸は、霊域にいる『ドライアド』のフラニーがよく使うものだ。

 麻の強化版のような特殊な植物で、人族の間では、ほとんど出回っていない。

 『アメイジングシルキー』のサーヤの話では、全く出回らないわけではないらしいが、かなり希少で高い素材とのことだ。


 今ふと思ったが……この素材で洋服を作って、貴族など上流階級に高付加価値商品として販売しても面白いかもしれない。


 『フェアリー商会』のアパレルブランド『フェアクオ』では、上流階級に向けたブランドも作りだしているが、この聖麻ホーリーヘンプを使うことは思い浮かばなかった。

 霊域にはたくさんあるから、検討してもいいかもしれない。


 というか……どこかで聖麻ホーリーヘンプの栽培をしてもいいなぁ。

 今後随時復興していくピグシード辺境伯領のいずれかの市町で、名産品にしてもいいかもしれない。

 ただ栽培条件というか……生育適性とかがあるだろうから、そこは要検討だけどね。

 いかんいかん、思考が脱線してしまった。


 この聖麻ホーリーヘンプは、かなり高機能な植物なのだ。


 その糸で作った衣類は、汗をよく吸い、乾きも早い、おまけに消臭・抗菌効果まである。

 また、ある程度の温度調節機能もあるので、一年中温暖なこの地域でも身に付けていられる。

 使えば使うほど、体にも馴染んでくる感覚がある。

 そして、丈夫で長持ちする。

 また、精神耐性の特殊効果を持っており、精神魔法や精神攻撃に耐性を発揮する。

 ストレス軽減効果もあり、精神を健康に保つ効果もあるのだ。

 精神疾患の者に身に付けさせると、症状を緩和させる効果も出すらしい。

 機能性といい特殊効果といい、非常に強力な素材なのだ。


 以前フラニーに、服や下着を作ってもらったが、今でも愛用しているし、はっきりって下着は、この素材以外のものは身に付ける気にならないほど着心地も良いのだ。


 そんな特別な素材を、思い切って解禁してしまった。


 この高機能の系をケニーが作り出す糸と合わせて、編み込んだので、防御力まで備えた高機能のローブになった。

 ケニーの糸は、強靭だからね。

 もちろん強度の調整はできるので、今回はある程度の物理的な衝撃に耐えられる程度に抑えてもらった。

 あまりにすごい装備を、多くの子供たちが身に付けているというのも微妙だからね。


 とは言っても、ケニーの作る糸だから、それなりの強度に抑えてたとしても、防具として通用するほどの防御力だ。

 普通の冒険者が身に付ける軽鎧なんかよりは、はるかに高い防御力になっている。



 『名称』は、『ツリーハウスローブ』にした。

 そして『階級』がなんと……『上級ハイ』になっていた。


 もちろん魔法の装備ではない。

 防御力が高いというだけだ。


 ケニーの糸を織り込んでいるというだけで、『上級ハイ』になってしまったようだ。

 もちろん聖麻ホーリーヘンプという珍しい素材を使っているのもあるだろうけどね。


 よく考えてみると防御力もあって、消臭・抗菌効果があったり、温度調節機能があったり、精神耐性があったりという高機能だから、『上級ハイ』になっても不思議ではないよね。

 というか、もっと高い『階級』でも、全然不思議ではない。




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