1010.食を満たし、衣を整える。

「こら少年! 君は、言ってはいけないこと言ったのよ! 子供じゃなかったら、ぶっ飛ばされてるところよ! まったく……見かけで判断しちゃダメよ。君がみなしごでも、汚い身なりでも、他の子供たちを守ろうという立派な心を持っているのと同じ。本質を見なきゃダメよ」


 おお……ニアさんが大人らしく良いことを言って諭している。

 ただニアさんの見た目から……見抜くのはだいぶ難しいと思うけどね……。


「そうなのだ! ニアちゃんはめっちゃ強いのだ!」

「ニアちゃんは、妖精女神と言われてるなの〜。悪い奴をやっつけて、傷ついた人を癒すなの〜」


 リリイとチャッピーが、めっちゃ明るく言った。


「……妖精女神……? 妖精女神ってなんか聞いたことあるなぁ……。確か隣の国で人々を救っているって話だった気が……」


「そうよ。その妖精女神が私なの。だから君のことも助けるのよ」


「え、なんでこの国にいるんだ? 子供だと思って騙そうとしてるのか!?」


「まったく……疑り深いわね。まぁ……だからこそ、こうやって逃げ延びてたんだろうけどね。私たちは、この国に来たばっかりよ。迷宮で修行するためにね。だから信じなさい」


 少年はキョトンとしている。

 話を信じていいのかどうか、判断しかねているようだ。


「信用できなかったら、俺たちがここで寝ている間に、逃げればいいさ。そのかわり、お腹いっぱいにしてから逃げな。お土産もあげるから」


 俺がそう言ったので、少年はさらに困惑した顔になった。


「こ、この人たちは……信用できると思う」

「ぼくもそう思う」

「妖精女神様なら、助けてくれるよ」

「やっと神様が……アルテミス様が助けをよこしてくれたんだよ」


 俺たちの話を草むらで聞いていた子供たちが、一人、二人と出てきた。


「お前たち……」


「ツリッシュ、信じようよ。もしも騙されてもツリッシュのせいじゃない。みんなで決めたことだよ」


 年嵩の女の子が、リーダー少年を説得してくれている。

 リーダー少年は、ツリッシュ君という名前らしい。


 ツリッシュ君は、まだ判断しかねているようだ。


「もう、しょうがないわね。とりあえず信じなくてもいいけど、ご飯だけは食べなさい。みんな、お腹空いてるでしょ、さぁ子供たち集まってきて!」


 ニアがそう言うと、他の隠れていた子供たちもぞろぞろと出てきた。

 ちょうど焼肉のいい匂いも漂い出しているからね。


 遠巻きに見ている子供たちに、リリイとチャッピーに肉串を配ってもらう。


 ……そこかしこで、子供たちが食べだした。

 空腹のせいで、がっつく子が多くてむせている子が続出している。

 もちろん水も一緒に配っているけどね。


「みんな、お肉はいっぱいあるから……無くならないから……何本でも食べていいから……ゆっくり食べなさい!」


 ニアがそう言うと、ほとんどの子供が頷いている。


 だいぶほぐれてきたようだ。


 あとは、この子たちを守ろうとリーダーシップ全開のツリッシュ君だけだが……見守っているだけで、肉串を食べようとしない……。


「少年、君はほんとにこの子たちを守るつもりがあるの? お腹がすいてちゃ、力が出なくて守れないでしょう? 考えてたって始まらないわ、とにかく食べて力をつけなきゃ! それが君の役目だぞ!」


 ニアは再び少年の顔の前で止まって、腰に手を当ててほっぺを膨らませている。

 ちょっと残念感はあるが……かなり良いことを言ってくれている。


 リーダー少年……ツリッシュ君は、少しふてくされたような顔をしつつ、しょうがないという感じで、肉串を食べはじめた。

 やはり彼も空腹だったようで、一口食べたらその後はがっつき状態だ。

 まぁそこはスルーしてあげよう。



 少しして、子供たちの話し声や笑い声が聞こえるようになってきた。

 皆美味しいものを食べて、気持ちも落ち着いてきたようだ。


 子供たちは、三十三人もいた。

 リーダーのツリッシュ君が十三歳で一番年上で、彼を説得してくれていた年嵩の女の子がサブリーダー的な感じのようだ。

 ハウジィーちゃんと言い賢そうな子だ。十二歳とのことだ。

 ツリッシュ君の年齢などは、ハウジィーちゃんが教えてくれた。

 一番小さな子は六歳だった。

 みんなやせ細っているし、着ている服もかなり汚い。

 みんな『下級エリア』の路地裏などで生活していたストリートチルドレンだったとのことだ。


 メーダマンさんの話では、この迷宮都市には孤児院がいくつかあるが、どこも定員が決まっていて、飽和状態なのだそうだ。

 孤児でなくても、貧しい家の子が路上でフラフラしていたりするので、どこまでが家のないストリートチルドレンなのか、街の人達もわかっていないとのことだ。


 やはり孤児をターゲットにした人拐いから逃れる為に、この林に隠れ住んでいたという事情だった。

 ツリッシュ君が孤児たちを集めて、ここまで連れて来たらしい。


 この林で採れる木の実などを食べて、飢えを凌いでいたそうだ。

 柿は熟さないと苦くて食べれないと言っていたから、渋柿のようだ。

 そして完熟した実がついていないのは、この子たちが食べていたからだった。



 お腹を満たした後は、綺麗にしてあげたいところだ。

 本当はお風呂に入れてあげたいが、ここからどこかに連れて行こうとするとまた警戒される可能性がある。

 『波動収納』に風呂桶が入っているので、風呂自体をここに出すこともできるが……着ている服ごと綺麗にしてあげたいので、ここは魔法の巻物を使うことにしよう。


 『闇オークション』で競り落とした生活魔法の巻物だ。


 『泡洗浄バブルウォッシュ』の巻物で汚れを落とし、『流水すすぎランニングウォーター』の巻物で洗い流す。

 最後に『送風乾燥ブラストドライ』の巻物で乾かしてあげれば、着ている服ごと綺麗になるのだ。


 警戒されると困るので、リリイとチャッピーにお手本になってもらって実演した。


 リリイとチャッピーが泡まみれになった時には、みんな驚きの声をあげていたが、最後に乾燥され綺麗になった姿を見て、子供たちは目をキラキラさせていた。


 子供たちは警戒するどころか、ワクワクした表情になってくれた。

 すぐに、何人かずつまとめて綺麗にしてあげた。


 洋服は綺麗になっても、破れているものがほとんどなので、新しい洋服を着せてあげた。


 リリイとチャッピーのサイズの洋服はいっぱいあるし、『フェアリー商会』で運営している衣料品店『フェアクオ』の商品の子供服も取り出した。

 一通り『波動収納』に入れてあるのだ。


 子供たちは綺麗な洋服が着れて、みんな大喜びだった。

 明るく晴れやかな顔で、子供らしい笑みが戻っていた。

 今の状態を見たら、誰も孤児だとは思わないだろう。


 やはり衣食住は、人間の基本だよね。

 あとは……“住”だよね……住むところ……どうするかなぁ……?




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