988.キングボア、再び。
俺は、メーダマンさんとともに一旦ギルド長室を出て、事業の引継ぎに関する打ち合わせを行った。
メーダマンさんは、「できるだけがんばります」と言いつつも、事業が広がればそれだけ目が行き届きにくくなるので、大変かもしれないという本音もこぼしていた。
そして自分に遠慮せずに、『フェアリー商会』と同様に人を投入したり、テコ入れしてほしいと頼まれた。
その方が安心できると言われたので、俺は快く了承した。
まぁそうは言っても、実際はメーダマンさんに任せるつもりだし、充分経営できると思う。
商売が立ち行かなくなって、たたもうかどうか悩んでいた状態が、一気に二倍以上の規模になるのだから、不安になる気持ちはわかるけどね。
それから仕入れのルートについては、『ヨカイ商会』と商材が被っているので、普通に考えれば引き継ぐ必要は無いのだが……この政情不安のご時世なので、関係を続けられるならそのほうがいいだろうとアドバイスしてくれた。
ギルド長室に戻り、改めて事業を全面的に引き継ぐという返事をした。
そして資産だけの購入ではなく、事業の引継ぎでなので、その価値もプラスして合計六千万ゴルで購入すると提示した。
ギルド長と奥さんは、値下げ交渉どころかまさかの値上がりにかなり驚いていた。
そして喜んでくれていた。
使用人についても、人間性に問題がなければ引き継ぐと返事をしたら、奥さんが涙を流して喜んでくれた。
そして、帳簿担当者になっている子が優秀だから、育てたら良い人材になると教えてくれた。
次の仕事が決まっているのは、配送や仕入れを担当していたスタッフで、客商売に長けているお店のスタッフはみんな残ってくれるだろうとの事だった。
俺が奴隷から救った人のうち行商団の護衛をしていた六人を、配送のスタッフとして雇用するつもりだとメーダマンさんが言っていたので、ちょうど良かったかもしれない。
そんな感じで話がまとまって、後は実際の物件を確認して問題がなければ、代金を払うという段取りにした。
そして、実際に物件を見に行こうとしていたところに、慌ただしくギルドスタッフが飛び込んできた。
「なんじゃ! 来客中じゃぞ!」
「ギ、ギルド長、大変です! 大変なんです!」
男性のギルドスタッフが、息も絶え絶えだ。
「なんだ!? 何が大変なんだ?」
「そ、それが……」
「早く言わんか!」
「そ、それがキングが……キングボアが出たんです!」
「昨日シンオベロン卿たちが倒したキングボアのことじゃろ?」
「違いますよ! また出たんです! 今情報が入りました。南門を出た街道の近くで、またキングボアが出たそうなんです!」
「なんじゃと! どういうことだ!? 詳しく説明しろ!」
「それが……ギルド長に指示されたとおり、キングボアが出たという情報を、昨夜からギルドでも掲示して案内していたんですが……元冒険者が作っている自警団が街道沿いを見に行ってくれたみたいなんです。そして猪の魔物が現れて戦っていたら、奥からどデカいのが現れたらしいんです。ちょうど巡回に出てきた衛兵隊が助けに入ってくれたみたいですが、みんな大怪我で戻って来たそうです。衛兵隊にも怪我人が多数出たみたいです」
「なんと……。そ、それで、魔物はどうなったのじゃ!?」
「はい、門を閉じたので侵入はされていないとのことです。今現在も魔物たちと交戦中です。衛兵隊には、強力な魔法を使える兵士はいないですから、苦戦してるみたいです。冒険者に応援要請を出した方が良いのではないでしょうか?」
「そうじゃな、万が一にでも外壁が破壊され、街の中に侵入されたら大変だ。大至急、冒険者に救援要請を出せ!」
「はい、わかりました。広域拡声伝達装置を使います!」
「シンオベロン卿、悪いが、お主も手伝ってくれるか?」
「はい、もちろんです! すぐに南門に向かいます!」
「ああ、頼む。ワシはいろいろ段取りをしてから行く」
首肯して、俺はギルド長室を出た。
それにしても……あのどデカいキングボアがまた出たのか。
あんなのに出られたら、普通の兵士はかなわない。
俺が倒した奴は、レベル49だった。
冒険者だって、トップランカーじゃなきゃ危険だ。
(ニア、今屋敷かい?)
俺はニアに念話を繋いだ。
(今は馬車の中。『フェファニーレストラン』で朝食を食べようってことになって、アイスティルちゃんとブルールちゃんと出かけてるのよ。もちろんリリイとチャッピーも一緒よ。何かあった?)
(南門の外の街道で、またキングボアが出たらしいんだ。かなりの大騒ぎになっている。俺は今からそっちに救援に行くけど、予定通り朝食を食べていいよ)
(わー残念。でもまぁ……そうしようかしら。今から戻っても、着く頃にはグリムに倒されてるものね。わぁ!)
(ん、どうした?)
(ごめん、馬車が急に止まったもんだから。ちょっと待って……え! ……どうやら私たちも優雅に朝食はとれないみたい……)
(どうした!?)
(空いっぱいに……大きな鶏が飛んでるんだけど……。鶏の魔物ね……。凄い数……ってのんきに見てる場合じゃないか。魔物の襲撃よ!)
(そっちでも魔物が現れたのか!? しかも空から侵入して来てるのか!?)
(そうよ。これ……絶対やばいやつだわ。この中区にも衛兵はいるだろうけど、こんな数が空から攻めてきたら、一般人に被害が出ちゃう。戦うわよ、グリム。できるだけおとなしくしていなきゃいけないのはわかるけど、人の命がかかってるから、いいわよね?)
(もちろん。仲間たちの応援を呼ぼうか?)
(いや私たちで何とかするわ。目立っちゃうのは、やむを得ないけど、突然無双する軍団が現れたら、悪目立ちするから、私たちだけで倒すわ。数が多いだけだから)
(わかった。何かあったら、すぐ念話して! 駆けつけるから)
(オッケー、こっちは任せといて!)
「ギルド長、大変です。どうやら中区に空から鳥型の魔物が侵入してきているようです」
俺は、すぐにギルド長室に引き返し、情報を伝えた。
「なんじゃと! 中区? それは本当か? 一体どうやって、そんな情報……いや、今はそんな事はどうでもいい」
「私の仲間たちがちょうど中区にいるので、これから迎撃にあたるみたいです。ただ、数が多いようなので中区にも冒険者の応援を回したほうがいいかもしれません」
「あいわかった。ワシの方で手配する」
よし、まずは南門のキングボアを倒してしまおう。
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