924.きな臭い、東小国群。
突如始まってしまった“大水遊び大会”は、大いに盛り上がったが、一段落ついたところで一旦終わりにした。
歯止めが効かず、ずっと遊んでしまいそうだからね。
そのぐらい楽しかったのだ。
マリンスポーツを満喫した気分だ。
俺は島の皆さんに、『波動収納』から取り出して、様々な『フルーツジュース』を振る舞った。
炭酸で割った『フルーツサイダー』もだ。
ジュースを飲みながらの雑談で、俺の次の目的地が『アルテミナ公国』だということを知ったアルビダさんが、東小国群の情報を教えてくれた。
アルビダさんは、『ペルセポネ王国』の上級貴族シレーヌ侯爵家の令嬢だけあって、東小国群の情勢についてもある程度知っていた。
コバルト侯爵領で反乱を起こした次期領主だったボンクランドが手にしていた情報の通り、東小国郡はきな臭い情勢になっているそうだ。
戦争が起きる可能性が高いらしい。
その中心になっているのは、『アポロニア公国』とのことだ。
『アポロニア公国』は東小国群の中でも、『アルテミナ公国』と並んで豊かで力のある国なのだそうだ。
両国とも、迷宮を有していて、他の小国群の国にはない強固な財政基盤を有しているらしい。
迷宮を管理する『冒険者ギルド』は、両国ともに国とは独立した機関にはなっているが、魔物から取れる『魔芯核』は、ほとんど国に収められるのだそうだ。
『魔芯核』の買い上げは、国の事業と言えるものらしい。
『冒険者ギルド』が、冒険者から買い上げるが、決められた割合を国に収めることになっているのだそうだ。
実際は、『冒険者ギルド』の取り分として認められている量以外の『魔芯核』については、手数料だけもらって、国に納める取り決めになっているらしい。
魔物の素材については、国からの規制がないので、『冒険者ギルド』で買い上げた分は、自由に処分していいらしい。
ただ人気の素材などは、『冒険者ギルド』よりも高値をつける商会に売られてしまう事もあるそうだ。
両国ともに、迷宮が稼働していて冒険者が活動している限り、安定的に『魔芯核』が手に入り、国家収入にも困らないという構造になっているようだ。
この世界での『魔芯核』の価値は、俺のイメージでは原油とレアメタルを合わせたような貴重な素材だ。
それが潤沢に取れる迷宮を持っているというだけで、その国は潤うのだろう。
両国とも、周辺国に『魔芯核』を販売しているらしい。
『魔芯核』は魔物を倒せば採取できるとは言いつつも、安定的に大量に確保することは大変なので、それを輸出している両国は、必然的に東小国群の中で影響力が強くなっているのだろう。
元々そんな状況である中で、最近『アルテミナ公国』がかなり荒んでいて、周辺国にも強硬姿勢をとっているらしい。
東小国群を統一する為の準備をしているという情報が流れていて、小国群全体が緊張状態に陥っているとのことだ。
この情報を一早くつかんでいた『アポロニア公国』は対応に乗り出し、外交ルートで交渉しようとしたらしい。
だが、話にならず戦争をする体制を整えているということのようだ。
そんな情報から判断すると、このきな臭い動きの中心は『アルテミナ公国』と言えるだろう。
まぁアルビダさんが持っている情報は、『ペルセポネ王国』の中で行き渡っている情報で、『アポロニア公国』からの情報らしいので、客観的で正確な情報かはわからないけどね。
『アポロニア公国』に協力しているのが、戦時には戦争商人として本領を発揮する『ヘルメス通商連合国』と、隣国で関係が深い『ペルセポネ王国』らしい。
そして『アルテミナ公国』の影響下にあって、味方するだろうと思われているのが『ヘスティア王国』ということだ。
『ヘスティア王国』は、『アルテミナ公国』と『アポロニア公国』の間に挟まれる位置にあるので、戦場になる可能性が高いらしい。
『アルテミナ公国』の西側にある『デメテル王国』は、『アルテミナ公国』に従わないと孤立してしまうので、従わざるを得ない状況のようだ。
よって、『アルテミナ公国』に味方すると思われているようである。
『アポロニア公国・ペルセポネ王国・ヘルメス通商連合国』vs『アルテミナ公国・ヘスティア王国・デメテル王国』という構図になっているらしい。
東小国群にはもう一つ、『アレス王国』という国があるのだそうだ。
『アレス王国』は、『アポロニア公国』と『ヘスティア王国』に接しているらしい。
『アポロニア公国』の北側に位置し、『ヘスティア王国』の東側に位置しているという位置関係のようだ。
この国は、東小国群の中で面積が一番小さいく、力があるというわけではないが、中立を貫くのではないかと言われているそうだ。
アルビダさんの話では、中立を貫くというよりは、国力に乏しく戦争になど参加していられないというのが本音ではないかとのことだ。
近いうちに『ヘスティア王国』と『アポロニア公国』の境界で、戦争が起きるかもしれないという切迫した状況のようだ。
「アルビダさんは、東小国群の情報を入手するルートのようなものをお持ちですか?」
アルビダさんは、侯爵令嬢とは言いつつも、箱入り娘ではなく国際情勢にも強いようなので、期待を込めて尋ねてみた。
もし情報が入るルートがあるなら、できるだけ情報を集めておきたいんだよね。
「以前は得ようと思えば、情報は入手できたのですが……今は出奔してきた身ですので……難しい状況です。私や仲間たちが『ペルセポネ王国』に入るのも厳しい状況ですし……。お役に立ちたいのですが、すぐには難しいと思います」
アルビダさんが、申し訳なさそうに答えた。
「いえ、いいんですよ。もし情報が入るならと思っただけなので……」
「あの……やはり東小国群の情報を必要とされていらっしゃるのですか?」
「ええ、できれば戦争は起きてほしくないですから……」
「そうですか。であれば……何とかしてみます。『フェアリー商会』さんに入れてもらったばかりでなんですが……もしかまわなければ、『ペルセポネ王国』近海や『ヘルメス通商連合国』近海に出向こうと思います。その過程で海賊狩りを行いつつ、商船と交流して、情報を仕入れてみます。あと……『アポロニア公国』の貴族で、何人か知り合いがいますので……連絡が付けられるかやってみます」
アルビダさんは、そんな申し出をしてくれた。
「ありがとうございます。でも無理はしないでください。特に『ペルセポネ王国』では、追われている身になっている可能性がありますから。海での活動はともかく、国に入っての活動は無理しない方がいいと思います」
「わかっています。充分気をつけて行いますので」
アルビダさんは、そう言って頭を下げた。
俺たちの力になりたいと思ってくれているのだろうが、危険がないように充分注意してもらいたい。
そして、さらっと海賊狩りもすると言っていたが……普通に考えたら、かなり危険だと思うんだけど。
アルビダさんは、すぐにでも出発する勢いだが……少し心配なので、保険として後でチーム付喪神かジョージたちに合流してもらおう。
この海には、俺の仲間になった『浄魔』たちもたくさんいるので、密かに護衛させてもいいかもしれない。
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