925.中二病が、欲しがる魔法道具。

 俺はコバルト城に戻り、『フタコブ島』で捕らえた海賊三十二人を引き渡した。


 そして、領政官となっている第一王女のクリスティアさんに、『フタコブ島』での出来事を報告した。

 コバルト領から出奔した人々と、『ペルセポネ王国』から出奔してきたアルビダさんと『八従士』について報告し、『フェアリー商会』の仲間になってもらったことを伝えたのだ。


 クリスティアさんは、最善の判断だっただろうと評価してくれた。

 そしてコバルト領に戻ったり、ピグシード辺境伯領に移民する場合も、協力するので相談してほしいと言ってくれた。


 今後再編成する海兵隊が、万が一、『自由の旗海賊団』に遭遇した場合には、取り締まろうとして衝突することがないように徹底させるとも言ってくれた。

 海賊を狩る海賊・魔物を狩る海賊……海義賊だと説明してくれるとのことだ。


 そして『自由の旗海賊団』の副長をしているカイヘインさんや他の元海兵たちについても、指名手配を取り下げてくれると言ってくれた。



 ほどなくして、『魚使い』のジョージたちとチーム付喪神の混成チームも戻って来た。


 海賊のアジトを、早くも制圧してきたらしい。

 これでコバルト領近海で海賊行為をしている海賊団は、すべて壊滅したことになる。


 アジトには、四十人も残っていたらしい。

 ただその大半は、怪我をしていてまともに戦えない状態だったようだ。


 俺たちが『フタコブ島』に着いた頃、アルビダさんたち『自由の旗海賊団』は海賊退治に行っていて留守にしていたわけだが、その時戦っていた海賊たちが命からがら逃げ出して、アジトに戻っていたということのようだ。


 ジョージたちが乗り込んだときには、みんなぐったりしていたようなので、いつものようにツクゴロウ博士の一人舞台になるまでもなく、制圧してしまったらしい。


 戦利品としては……まず今回も海賊捕縛の褒賞金がもらえるようだ。


 一人当たり三十万ゴル支払われる規定になっているので、合計七十二名分で、二千百六十万ゴルになる。

 これとは別に、海賊の首領には懸賞金として百万ゴル加算されるので、合計すると二千二百六十万ゴルということになる。


 最近感覚が麻痺してきているが……やっぱり凄い金額だ。

 普通に商売しているのが、微妙と思えるぐらい稼げてしまう。

 やっぱり手っ取り早く稼ぐのは、盗賊や海賊を捕まえて褒賞金をもらうことだと思う。


 ただ商売は、お客さんに喜んでもらえるという醍醐味があるから、儲けや効率だけでは判断できないけどね。


 それからアジトには、中型船が三隻と小型船が五隻あったとのことだ。

 先ほど『フタコブ島』で制圧した海賊たちが乗っていたのが中型船が二隻だったので、合計中型船五隻、小型船五隻を没収したかたちだ。


 なんか……『波動収納』にすごい数の船が溜まってきた。

 船を販売するお店をやった方が、いいかもしれない。

 船を販売する巨大なマリンショップ……結構面白いかも。

 汚れて傷んでいる船を改装したり、趣味で魔改造したりしたら楽しそうだ。


 アジトの倉庫には、穀類などを中心に食料とワインの樽が多くストックしてあったとのことだ。

 あと巨大なカボチャが、いくつも置いてあったそうだ。

 直径一メートルくらい、高さも一メートルくらいあるオレンジ色のカボチャらしい。

 気になったので、ジョージに魔法カバンから出してもらったら、ド迫力のカボチャだった。

 俺の元いた世界でも、ハロウィン用の巨大なお化けカボチャというものは存在していたが、食用ではなかった。


 こっちの世界では、普通に食べるらしい。

 薄くスライスして、砂糖を入れた卵につけて焼いて食べるのだそうだ。

 俺の思っているような甘く煮込むカボチャではなく、どうもチップスのような感じで食べるみたいだ。


 この大きなカボチャは、『ドデカボチャ』という種類のようで、皮がめちゃめちゃ固いというのも特徴になっている。

 なまくらな剣法では切断することなどできないようなので、盾として活用することもできるそうだ。

 まぁ強度としては木盾と同じ位だとは思うが。


 超硬くて切断することが容易でない特性を活かして、秋祭りなどで腕自慢の剣士がこのカボチャを両断する『カボチャ割り』というパフォーマンスが人気を博しているとのことだ。

 ビーチで行うスイカ割りのような感じなのだろうか……?


 秋祭の定番イベントで、かつ大盛り上がりのイベントになっているらしい。

 秋祭は、各市町に付随する荘園の村などで行うことが多いようだ。

 今度、是非参加してみたい。

 お祭りって好きなんだよね。


 それから家畜も飼育されていて、かなり珍しい鶏がいたらしい。


 『海鶏うみにわとり』という種類で、泳ぎが大好きな鶏なのだそうだ。

 普通の鶏と同様に、まともに飛ぶことはできないのだが、海に入るとめちゃめちゃ速く泳ぐらしい。

 ペンギンみたいな感じなんだろうか……?


 全身が青い鶏らしく、海の中に入ると保護色のような感じになり、見つけるのが大変らしい。


 普通の鶏と同じで、ほぼ毎日卵を産んでくれるようだ。


 だが貝類や貝殻が大好物らしく、『海鶏』が産む卵は、めちゃめちゃ固いのだそうだ。

 カルシウムが豊富なのか、凄い強度らしい。


 そんな話を聞いて、めっちゃ興味をそそられた。


 ツクゴロウ博士が詳しく知っていて、面白おかしく教えてくれたのだ。

 かなり珍しい鶏で、捕まえようと思って捕まえられる生き物ではないらしい。


 おそらく、どこかの孤島に生息しているところを、捕まえたのではないかとツクゴロウ博士は推測していた。

 もしくは、どこかで捕まえた『海鶏』たちを、希少な生物として売買するために輸送していた商船を海賊たちが襲って、捕まえたのではないかとのことだ。

 そして海賊たちは、『海鶏』についての知識がなかったために、少し変わった鶏という程度の認識で飼育していたらしい。


 八十六羽もいたそうだ。

 アジトに残してきたらしいので、この後すぐに回収しに行こう!


 ツクゴロウ博士曰く、『卵割りナイフ』という卵を割るための専用のナイフのようなものがないと、綺麗に割ることはできないだろうとのことだ。


 古い文献に記されていたと、思い出しながら説明してくれた。

 なんとなく……缶切りのような感じの小さなナイフみたいだ。

 それと、卵を固定させる為に、両脇から挟み込む装置も必要らしい。

 絵に書いて説明してくれたので、それを参考に後で作ってみよう。

 海賊たちは、鉈を使って割っていたようだ。


 この卵の殻は、貝殻くらいの強度があるので、貝殻細工のように加工品にすることもできるらしい。


 ツクゴロウ博士の記憶では、卵の色はバリエーションが豊富なようだ。

 青が多いが濃淡が様々で、白っぽいものがあったり、紫っぽいものがあったりするらしい。

 この卵の殻で、様々な装飾品が作れるのではないだろうか。

 貝殻細工ならぬ、卵殻細工といったところか……。


 貴重な鶏なので、二十体は『大森林』に連れて行って、二十六体は『霊域』に連れて行こう。

 そこで繁殖してもらって、数を増やしたい。

 海は無いが、湖はあるので大丈夫だろう。

 残り四十体は、『フタコブ島』の人たちに預けて、卵を採れるようにしよう。

『海鶏』たちも、海が目の前だからいつでも自由に泳げていいだろう。


 その他お宝としては、金貨が百枚程度、銀貨が八十枚程度、銅貨が四十枚程度、銭貨が二百枚程度あったようだ。

 いつものことながら海賊のアジトには、あまり大量の金貨は置いていない。

 浪費が激しいのだろう。

 このお金は、『フタコブ島』の人たちにあげようと思う。

 実質半分以上の海賊を制圧していたのは、『自由の旗海賊団』だからね。

 ジョージたちがアジトに乗り込んだときには、ほとんど戦う力は残っていない状態だったのだ。


 それから、面白い魔法道具があったようだ。

 海賊団の首領がつけていた眼帯が、魔法道具だったらしい。


 まぁ魔法道具といっても単純な作りらしいが、『階級』は『上級ハイ』だったとのことだ。

 『閃光の眼帯』という名称で、魔力を通すと眼帯の部分から、フラッシュのような光を発生させられるのだそうだ。

 戦闘の時に、目くらましになるという程度の効果らしい。


 ただモードを変えて、魔力を流しっぱなしにしておくと、懐中電灯のように常に光を発生させることができるようだ。


 ジョージが言っていたが、懐中電灯だと思えば、結構便利な魔法道具だろうということだ。


 そして眼帯と言えば……中二病のオクティーさんが、めっちゃ欲しがっているようだ。

 もともと、意味もなく眼帯をつけているからね。

 まさにオクティーのための魔法道具みたいな感じなので、あげることにした。


 今まではただの飾りの眼帯だったが、今後は機能がある眼帯をつけるから、一応、やっていることにも意味が出る。

 ……いいんじゃないだろうか。

 黒い眼帯なので、見た目は今までとほとんど変わらない。

 光が出ると言っても、あくまで普通の光なので、アンデッドに特攻とかの効果があるわけではない。


 これらの没収した物とともに、アジト自体も俺たちの戦利品として手に入るが、今のところ使い道は無い。


 ただ『自由の旗海賊団』の活動を続けるアルビダさん達のコバルト領での中継基地という使い道はあるかもしれない。



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