907.戦力の底上げは、魔物退治で。

 コバルト直轄領の領政官となった第一王女のクリスティアさんは、領内で魔物に襲われて命を落とす者が出ないように、各市町の近郊にある魔物の領域や小悪魔の領域を速かに掃討したいという意向だ。


 だが領内の兵士がほとんど使えない状況であり、可能な限り速やかに掃討するために、俺たちの力を借りたいということなのである。


 最初に危険度が高い場所を一気に掃討してしまって、その後は領の体制を整えて、領軍と衛兵隊で定期的に掃討作戦を実施するつもりとのことだ。


 正しい判断だろう。

 人々の危険は、すぐにでも取り払ったほうがいいからね。


 ここに集まってる俺たちが出れば、あっという間に殲滅ができてしまう。


 だが……どうせならレベル上げに使うのが、一番いいんだよね。

 魔物を倒すことが、レベルを上げる一番効率の良い方法だからね。


 普通は、そんな機会は中々ない。

 特に命の危険を最小限にして、実戦訓練をする機会は貴重なのだ。

 都合よく自分と同程度の敵を選んで戦う事など、ほぼ不可能だからね。


 だが計画的なレベル上げ訓練として実施すれば、レベルの高い監督者が、万が一、高レベルな魔物が現れたときに守ってくれる。

 命の危険を最小限にしながら、実戦を行えるのだ。


 俺は不謹慎かとも思ったが、そんな話をした。

 つまりレベル50くらいの『セイリュウ騎士団』とかが行って瞬殺で倒してしまうよりも、現在レベル10台から30台の者が掃討作戦を実行した方が、経験も積めるしレベルも上がるのである。


 『魔の時代』という激動の時代に突入していることを考えれば、少しでも戦力の底上げをした方がいい。

 その観点からも、まだレベルが高くない兵士などの実戦訓練の場にした方が良いという意見を言わせてもらった。

 すぐに取り掛かりさえすれば、何も瞬殺で殲滅しなくてもいいと思うんだよね。


 みんな俺の意見に賛同してくれ、人々が襲われないようにすぐに取り組むなら、実戦訓練の機会にしても問題ないだろうと言ってくれた。


 だが、誰を派遣するかという話題になり、みんなそれぞれに思いを巡らしているようだったので、俺の方から更に提案させてもらった。


 それは、ピグシード辺境伯領、ヘルシング伯爵領、セイバーン公爵領から、それぞれ遠征チームを派遣してもらうというものである。

 コバルト領内をいくつかのエリアに分けて、担当してもらうかたちが良いだろう。


 まだレベルが低いが将来有望な人材を選抜してもらい、強化合宿のイメージで遠征してもらえばいいと思うんだよね。

 そして俺も、仲間たちから選抜チームを作って、参加したいと表明した。


 みんな了承してくれて、それぞれに人選するということになった。



 ピグシード辺境伯領は、美人女侍のサナさんを始めとした武術大会でスカウトしたメンバーを中心に、今後創設する女性騎士団のメンバー候補を集めるそうだ。

 その中には、俺がこの世界で最初に出会った人族の美人……元『マグネの街』の美人衛兵で、現在は近衛隊長になっているクレアさんも入るとのことだ。


 ヘルシング伯爵領では、現在育てている騎士団候補生たちを編成するようだ。


 セイバーン公爵領では、『特命チーム』を中心に編成するらしい。

 ゼニータさんもルセーヌさんも、ルセーヌさんの家族の元怪盗のみんなも、そんなにレベルが高いわけじゃないからね。

 『特命チーム』は今後の職務の危険度を考えると、できれば『セイリュウ騎士団』くらいにレベルを上げておきたいところだ。

 もちろん、見習いの犬耳の少年バロンくんと、ゼニータさんの弟のトッツァンくんのレベルアップは必須だ。


 ユーフェミア公爵は、これにプラスして今回セイバーン城で爆破を阻止して大活躍したあのナルシスト貴族のシャイン=マスカット氏と、その家臣団である『マスカッツ』のみんなも加えるつもりのようだ。


 確かにシャインは『固有スキル』も持っているし、レベルが上がったらめっちゃ強くなるかもしれないんだよね。

 化けるかもしれない……。

 ただ本人にはそんな意欲は全くないようだから、こういう機会を与えて、半強制的にレベルを上げてもらうのはいいかもしれない。


 レベルが上がった方が、シャインの安全性も高くなるし、あいつが守るべき屋敷の子供たちを守る力もつくわけだからね。


 まぁ性格的に戦いに向いているとは思えないから、無理はさせたくないけどね。


 それに強くなりたいと希望した『マスカッツ』のみんなには、クワの付喪神のクワちゃんが師匠となってついているし、レベルを上げる機会は実はあるのだが……まぁいいだろう。


 ビャクライン公爵領からは参加しないことになっているのだが、シスコン三兄弟がどうしてもレベル上げをしたいとビャクライン公爵に懇願したらしく、一つだけ小さなエリアを担当してもらうことになった。


 ビャクライン公爵が監督して、実戦で鍛えるようだ。


 四歳の妹にレベルを越されているから、兄としては、なんとしても頑張りたいという気持ちのなのだろう。


 いつものように、何かを食べてレベルを上げるという発想ではなく、ちゃんと頑張ってレベルを上げるということだから、応援してあげることにしよう。

 あの子たちのサイズに合う鎧でも差し入れしようかなぁ……。


 俺の仲間たち、特に『絆』メンバーはすでに高レベルなので、今回の作戦に参加する必要はない。

 『絆』メンバーでない仲間たちというか……『フェアリー商会』のメンバーや、その他関連する人たちを選抜するつもりだ。


 まず『フェアリー商会』の幹部メンバーで、レベル30を超えてない者については、参加してもらうつもりだ。

 ちょうど良い機会なので最低限レベル30、できればレベル35を目標にがんばってもらおうと思っている。

 同様に準幹部メンバーや、部門的にレベルが上がっていた方が安全と考えられるスタッフや素質があると考えられる人材を、サーヤが選抜してくれることになった。


 今回『龍馬たつま』のオリョウが仲間にした『竜馬りゅうま』三十体と、『軍馬』五十頭、第二、第三騎馬隊の騎馬になっていた『馬車馬』百頭についても、オリョウと『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウは、本格的な戦闘軍団にしようと思っているらしいので、参加させることも考えた。

 だが彼らは大森林にいるので、わざわざコバルト領まで来てレベル上げをしなくても、大森林や他の場所ですれば良いから、今回は見合わせた。


 もともと着せられていた騎馬としての武装も、『ドワーフ』のミネちゃんが改良してくれる予定なので、より強力なものになりそうだ。



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