899.生ハムとビール、最高だ!

「ようこそおいでくださった。私は、この里の長をしておりますメイショウと申します」


 そう言って出迎えてくれたのは、『コボルト』のカジッド氏族の族長さんだった。

 ブルールさんのおじいさんでもあった。


 お互いに挨拶を済ませると、俺たちは族長さんの家に招かれた。


 この集落にある家は、どの家も結構大きく同じような作りになっている。

 地上二階建て地下一階建てになっていて、地下の部分は石組みで地上部分は木造という構造だ。

 屋根は三角屋根で、茅葺きのようになっている。

 家全体の色合いは、オレンジとか黄色とか明るい系統の家が多い。

 どの家も入り口は大きく開放されていて、みんな自由に入ってくるようだ。


 お客さんをもてなしたり、食事をする場所が一階になっているらしい。


 大きなテーブルが置いてあり、そこに通された。


 族長はここで奥さんと二人で暮らしているらしく、奥さんがすぐにお茶を出してくれた。


 冷たいお茶で、なんと麦茶だった。

 しかも砂糖が入った甘いやつだ。

 懐かしい味だ。

 昔おばあちゃんが作ってくれた甘い麦茶の味だ。


「この麦茶は、こちらで作っているのですか?」


 俺は思わず尋ねていた。


「ええ、そうです。里で作っております。みんな日常的に飲むのですよ。砂糖を入れないで飲むこともありますが、甘くして飲むのが格別に美味しいのですよ」


 族長さんはそう言って、麦茶を一気に飲み干した。


「いつ飲んでも、この甘い麦茶が最高なのです!」


 早速『ドワーフ』のミネちゃんがそんな声を上げた。


「そうかい、ミネちゃんも好きかい。ミネちゃん、いつもの食べるかい?」


 族長さんが、ミネちゃんに噛みちぎるようなジェスチャーをしながら言った。


「待ってましたなのです! 両方食べたいのです!」


 ミネちゃんはそう返事をして、ワクワクした表情になった。


 ミネちゃんの返事を予期していたかのように、族長の奥さんがすぐに大きなお盆を持って現れた。

 どんなお茶うけが出てくるのかと思ったら、どでかい骨付きの乾燥肉と薄いハムのようなものだった。


 『コボルト』族は、お茶うけは肉なんだろうか……?

 ミネちゃんのために出してくれただけかな……。


「これは『コボルト』族で代々作られている『骨付き干し肉』と『やわらか干し肉』というものです。『コボルト』の名物料理ともいえるもので、おやつがわりによく食べているんですよ」


 族長がそう言って、俺たちにも勧めてくれた。


 『骨付き干し肉』は、大きな肉を独自の塩ダレに漬け込んで、骨ごと乾燥させてあるようだ。

 乾燥して縮んでいるはずなのに、肉の部分だけでも手のひらより大きいサイズだ。

 大きな骨がついているので、骨をつかんで齧り付いて食べるようだ。


「『骨付き干し肉』さんは、防御力が凄いのです。噛みちぎるのは、結構大変なのです。でもミネは負けないのです! 噛めば噛むほど味が染み出て、美味しさのあまり顎の疲れを忘れて噛み続けてしまうのです! 食べることが修行になるのです!」


 ミネちゃんはそう言って、豪快に『骨付き干し肉』に齧り付いた。

 見てるだけで、硬いのが伝わってくる。


 俺たちも、まずはその『骨付き干し肉』をいただくことにした。

 齧ってみる……


 うーん、硬い……。

 これは普通の人が噛みちぎるのは、かなり大変なのではないだろうか。

 もちろん俺は噛みちぎれるけどね。


 噛んでいると味が滲み出てきて、確かに美味しい。

 硬いので、しばらく口の中で噛んでいられるから、ガム的な感じにもなるかもしれない。

 口が寂しいときには、いいかもしれない。


 次にミネちゃんは、薄くスライスしてある干し肉を手でつまみ上げ、豪快に口に放り込んだ。


「『柔らか干し肉』さんは、口に入れるととろけてしまうのです! 疲れた顎をいたわる優しいお肉さんなのです!」


 そう言ったミネちゃんの顔も、とろけている。


 この『柔らか干し肉』は、見た目は、俺の知っている生ハムなんだよね。

 予想通りの味なら……生ハムに出会えたってことになる。

 生ハム、好きなんだよね。


 俺も口に放り込んだ。


 うん、これはまさしく生ハムだ!

 しかも高級なやつ!

 確かに、口の中でとろける感じで美味い!


 (グリムさん、これって完全に生ハムよね! 私、生ハム大好きだから、超気に入っちゃいました!)


 突然オカリナさんが、俺に念話を入れてきた。


 彼女は『後天的覚醒転生者』だから、当然生ハムの存在を知っているわけだし、俺と同じように生ハムが好きだったらしい。

 すごいニヤけ顔になっている。


 ニアさんも生ハムが気に入ったようで、生ハムを無言で口に入れまくっている。

 ニアが食べるにはかなり大きなサイズの生ハムなのだが、手でちぎりながら口に放り込んでいる。

 ほっぺを膨らまして、パクパクしているのだ。

 そして生ハムの油で顔中べとべとになっている……残念。


 リリイは柔らかい生ハムが気に入ったようで、チャッピーは歯ごたえのある『骨付き干し肉』が気に入ったようだ。

 チャッピーは、格闘する感じで齧り付いている。

 サーヤも生ハムが気に入ったようで、ペロリと平らげていた。


「おかわりがいくらでもありますから、遠慮せず食べてください」


 族長さんの奥さんはそう言って、消費が速い生ハムこと『柔らか干し肉』を大盛りで補充してくれた。


「大人の方は、よかったらこれもどうぞ」


 そう言って族長さんが持ってきてくれたのは、青い金属製の大きなグラスだった。


 そこに入っているのは……どう見てもビールなんですけど!


「これは……」


 俺が言葉を漏らすと、族長さんが笑顔になった。


「『コボルトビール』といいましてね、我々が好んで飲むお酒です。冷やしてありますので、美味しいですよ」


 族長さんはそう言って、グビッとのどを鳴らして飲みほした。


 いやーいい飲みっぷりだ。

 そしてめっちゃ美味しそう!

 俺とオカリナさんは視線が合って、同時にニヤけてしまった。

 オカリナさんも、どうやらビールが好きなようだ。


 俺とオカリナさんは、お互いに我慢しきれない感じで、ビールを口に注いだ。


 うん! これは美味い! いやぁー切れ味が抜群! 俺の好きなラガービールだ! しかもキレが強くて美味い!


 そう思いながらオカリナさんを見たら、なんと……一気してますけど……。


「ぷはぁぁぁ、美味しい! このビール最高!」


 オカリナさんは、鼻の下にたっぷりと泡をつけて、豪快に言った。


 幸せそうでいいんだけど、完全にオヤジギャルみたいな感じなんですけど……。

 ハナシルリちゃんと一緒に、前世ではオヤジギャルだったんだろうね……スルーしてあげよう……優しさスルー発動!


 いやーでもほんとに美味い!

 これは最高だ。

 俺とオカリナさんは、すぐにビールのおかわりをしてしまった。

 生ハムを肴にビールが飲めるなんて最高だ!


 大人メンバーであるサーヤも、ビールをおかわりしていた。

 やはり気に入ったらしい。


 ちなみにミネちゃんやリリイとチャッピーは子供なので、ビールは飲ませていない。

 ニアさんは、一応大人なんだけど、飲むとフラフラになって変な飛行をしてしまうので、今日は控えたようだ。

 さすがに初めて訪れる妖精族の里で、変な姿は見せられないと自重したらしい。

 ニアさんが自重するなんて本当に珍しいが……。


「人族の街のエールとは全然違うだろう!? この味を知ったら、悪いけど人族のエールは飲めないね」


 ブルールさんもそんなことを言いながら、上機嫌でビールをがぶ飲みしている。

 そして、超硬い『骨付き干し肉』を余裕で噛みちぎっている。


 『コボルト』族は、鼻が良いだけでなく噛む力も強いようだ。




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