880.ドリルで戦う、マンドリル。

 猿のパーティー『モンキーマジック』と特別騎馬隊の騎馬を失った兵士たちとの戦闘が始まった。


 特別騎馬隊の兵士たちは、土煙を上げながら自分たちに接近する者を敵と認識して、剣を抜いた。


 そして、現れた猿たちを見て、衝撃を受けている。


 何人かの兵士が、「魔物が現れたぞ!」と叫んだ。


 通常生物の猿なのだが、彼らには魔物に見えたようだ。


 まぁこの辺にはいない珍しい猿が三種類入っているし、まさか猿が襲ってくるとは思わないから、魔物が来たと思うのは妥当かもしれない。

 この辺にない珍しい猿とは、『マンドリル』『マントヒヒ』『ワオキツネザル』である。


『モンキーマジック』のメンバーは、『マンドリル』のドリルン、『マントヒヒ』のヒーヒー、『ワオキツネザル』のワオンと、ニアさんのパシリとなっている白い日本猿のような『白島猿しろしまざる』のミザ、イワザ、キカザたちと、『赤リスザル』から選抜されたリザルだ。

 リザルは、人懐っこく活発なメスの猿なのだが、ニアのことが大好きらしい。

 そんなこともあり、ニアの目に止まって選抜されてしまったようだ。

 可哀想な子なのだ。

 だが本人は、リザルという名前をもらって喜んでいたらしい。

 そして『モンキーマジック』の中で、一番張り切っているようだ。

 一番やる気なので、一番小さいのにリーダーに指名されていた。

 ニア曰く、見込みがあるらしい。

 てか……何の見込みがあるのだろう……?

 戦闘ってこと?

 まぁいいけどさ。


 『モンキーマジック』メンバーの猿たちは、皆レベル30になっている。

 通常生物の猿が、戦うパーティーになるためには最低レベル30は必要だろうと考え、ニアさんさんがパワーレベリングしたのだ。

 適度な強さの魔物を倒させて、一気にレベルを上げてしまっていた。

 元々は、通常生物の猿たちなので、みんなレベル10未満だった。


 パワーレベリングで一気にレベルを上げちゃうのは、色々ともったいないので、俺はなるべくやらせないようにしているのだが、ニアはあまり気にしていないのだ。

 まぁ安全を考えれば、レベル20とか30までは一気に上げてしまって、その後じっくり鍛えるというのが確実ではあるんだけどね。

 ニアは、猿たちの安全を最優先に考えたのだろう。


 相対している兵士たちは、エリート兵士なのでみんなレベル30以上あり、レベル40近い者もいるようだ。

 レベルだけ見れば、猿たちが不利な感じだ。

 だが、強力な武装があるし、たぶん大丈夫だろう。

 もちろん危なくなったら、すぐ助けに入る予定だ。


 『マンドリル』のドリルンは、両手に半開きの傘のような円錐形の武器を持っている。

 『パイルドリル』という名前の武器で、『ドワーフ』のミネちゃんが作った『魔法武器マジックウェポン』である。

 『魔法武器マジックウェポン』と言っても、特別な必殺技が発動するとか……そこまですごい武器ではない。

 魔力を通すと、ドリルのように回転するというだけだ。

 ただ一応『階級』は、『極上級プライム』になっているので、かなり良い武器であることは間違いないが。

 しかも、超希少な魔法金属である『ミスリル銀』を使っているのだ。

 『ミスリル銀』の武器を使う猿って……。

 さすがニアが組織したチームだけあって、武器まで滅茶苦茶なのだ。


 しかもこの武器は、ニアの思いつきである“ドリルを使って戦うマンドリル”というネタを実現するためだけに作られたようなものだ。

 まぁ面白いからいいけどさ。

 そしてパーティー戦をする場合、武器の性質上、ドリルンが適正にかかわらず強制的に『アタッカー』役になることになっている。

 まぁ見た限り、ドリルンは力強いし、『アタッカー』に向いているようだけどね。


 この世界でドリルというものは、一般的でないみたいだが、ニアは過去の英雄譚などからドリルという回転する武器の存在を知っていたとのことだ。


 ミネちゃんは、ニアからの要望である“回転して敵を穿つ武器”を実現するために、素材自体を強固なものにする必要があると考え、希少な『ミスリル銀』で作ってくれたらしい。


 俺は、すでにこの武器の機能を見ているが、本当にドリルのように回転するのだ。


 ただドリルの回転は強力なので、魔物などと戦うときには有効だと思うが、対人戦では威力が強すぎて使いにくいと思うんだよね。

 ドリルを回転させて相手の武器を弾くような使い方はできるかもしれないが、体に当てたら、大穴を開けて殺してしまう可能性がある。


 『マンドリル』のドリルンは、二本の『パイルドリル』を剣のように使って戦っている。

 威力が出過ぎない様に、ドリルは回転させないで戦っている。


 『状態異常付与』スキルは、基本的には相手の体に触れるか、触れられる程近い状態でないと発動できない。


 だが剣で斬りかかってくる兵士と打ち合いながら、『状態異常付与』スキルを使うのは、実際はなかなか難しいのだろう。

 ドリルンは、普通に打ち合ってしまっている。

 距離的には、打ち合いをしながら『状態異常付与』スキルを使って『眠り』や『麻痺』を付与できると思うが、打ち合いに気をとられているから、並行してスキルを使うのが難しいようだ。


 悪い奴らのアジトにこっそり忍び込んで、相手に気づかれないうちに『状態異常付与』スキルを使うのは簡単なのだが、襲ってきてる相手と戦いながら使うのは、慣れないと難しいかもしれない。

 そういう意味では、いい経験になっているだろう。


 ドリルンは、少しコツを掴んできたようだ。

 剣撃をドリルで受けながら、猿特有の跳ねるような動きで、兵士の足を蹴っている。

 ドロップキックような感じだ。

 その時に、『状態異常付与』スキルを発動したようだ。

 すでに、三人の兵士が麻痺して倒れている。


 白猿のパシリトリオ、ミザ、イワザ、キカザたちは、それぞれ三輪車のような魔法道具に乗って戦っている。

 全体のフォルムや座席とハンドルの形が三輪車に似ているが、車輪があるわけではない。

 ミネちゃん得意のホバー機能で、浮遊して移動しているのだ。

 そして前の部分には、透明な大きなシールドが付いている。

 シールドの部分は、巨大クラゲ魔物の外皮を使って、俺が作ったものだ。

 実は、俺とミネちゃんの合作なのだ。

『シールドバギー』という名前にした。

 これも、『魔法武器マジックウェポン』で、『階級』は『極上級プライム』になっていた。


 魔力を流すと、ホバーで浮いて、ハンドル操作で移動できる。

 ホバーと推進力の装置は、ミネちゃんが作ったもので、『浮遊戦艦 ミニトマト改』の装置を簡易にして小型化したものである。

 それ故、パワーとスピードはそれほどないが、戦闘の中で攻撃を躱す為に移動するには充分なのである。

 俺的には、バイクくらいのスピードが出ていると思うので、充分だと思う。

 というか……自分用に欲しい。

 ただ長距離の移動は想定していないようなので、バイクのような使い方は、現時点では難しいようだ。


 そして本来の使い方である盾で攻撃を受ける場合には、ホバー状態では弾かれてしまうので、着地して地面にアンカーを打ち込んで固定するのである。

 固定と解除が簡単にできる特別なアンカーを搭載しているのだ。


 この三匹は、パーティー戦の場合、『タンク』として壁役をやるというニアの構想だったので、専用のシールドを作ろうと思って考えていたのだが、シールド自体を乗り物にしてしまったのだ。

 パーティー戦の場合は、三匹が前面に立って三つの盾が並ぶという形になるのである。


 今はパーティー戦ではなく、対人戦で無力化するための戦いなので、三匹はそれぞれ自由に動き回っている。

 ……三輪車で暴走する猿の暴走族のようにも見える。

 というか……暴走族と言うよりも……かなり悪質な暴走運転ドライバーだ。

 何しろあいつら……兵士たちを轢きまくっているからね……完全な交通事故状態だ。


 兵士たちは、シールドバギーに轢かれて、ぐったりして動かなくなっている。

 ある意味……無力化できているけど……何か違う気がする。

 いや、確実に違う!

 そういうことじゃないんだよ!


 死者は出てないけど……結構な怪我をしている兵士がいると思うが……。

 一応、猿たちは倒れて転がっている兵士に『シールドバギー』で近づいて、『状態異常付与』スキルで『麻痺』を付与しているが……そういうことじゃないと思うんだよね。


 そういう状態にする前に……轢かないようにスレスレを通って、その時に『状態異常付与』で麻痺させるとか……それが正解だと思うんだけど。

 轢き倒してから近づいて麻痺させても……トホホ。


 ニアはどう評価しているのかと思って、様子を覗いたら、悪い笑みで頷いていた。

 なにそれ!?

 それでいいわけ?

 ……そこは、やり方が違うって注意しようよ!



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