881.シャボン玉銃と、投げ輪のような武器。

 猿のパーティー『モンキーマジック』の残るメンバー、『マントヒヒ』のヒーヒーと『ワオキツネザル』のワオンと『赤リスザル』のリザルは、一緒に行動している。


 彼らも、ホバーで移動する魔法道具に乗っているのだ。


 幌の無い荷馬車形状のパーツに、三段のひな壇が乗っているもので、『ひな壇ホバー』という名前になっている。

 ホバリングで移動するが、馬車としても使えるように、一応車輪も付いている。


 パーティー戦をやる場合に、後衛になる『魔法使い』ポジションのヒーヒーと、『ヒーラー』ポジションのリザルがひな壇の一番高いところに位置し、攻撃したり回復したりできるようになっている。

 この場合、運転するのは『斥候』ポジションのワオンだ。


 ちなみに、ヒーヒーはマントをつけている。

 これもニアさんの思いつきの“マントをつけたマントヒヒ”を実現するための装備だ。


 そんな半分お遊びな装備なのに、『オリハルコン』のマントなのだ。


 『ドワーフ』のミネちゃんの得意な武装で、魔法の風呂敷『魔法風呂敷 マルチブルクロス』をマント仕様にしたものだ。


高貴なる騎士団ノブレスナイツ』に作ってくれた『極上級プライム』のアイテムである『魔法マント 高貴なるマントノブレスマント』と同じ仕様のものなのである。


 独自の改良点としては、首のところにマントをつけたままの状態で、長めのマントの左右の端をつかんで魔力を流すと、マントの真ん中に縦に切り込みが入り、両手のほうに引き寄せることができる。

 そして、そのまま丸くなり棍棒のような状態になって二本の打撃武器として使えるという仕様になっている。

 首にマントをつけたまま、背中が破れて両側に展開するので、いちいちマントを外す必要はなく便利なわけだが……そもそも『魔法使い』ポジションなのに、なぜマントを接近戦仕様にしたのか、いまいちよくわからない。

 多分……ニアさんの思いつきだろう。


 おそらくだが……“敵をマントで、ヒーヒー言わせるマントヒヒ”とかいうノリで、打撃武器にしてしまったのではないだろうか……?


 マントの色が黒なので、普通の状態ではちゃんと『魔法使い』っぽく見えるのにね……。


 独自の仕様に変えたことによって、『名称』も『魔法マント ツインメイスマント』としたようだ。

 両端を持って魔力を流したときに、縦に二つに割れてメイス状になるという以外の性能は、『魔法風呂敷 マルチブルクロス』や『魔法マント 高貴なるマントノブレスマント』と同じである。

 魔力を流して貯めておくことができるので、魔力が切れたときに、貯めておいた魔力を吸い上げて使うことができる。

 魔力回復薬のような使い方ができるのである。

 そして、オリハルコンの性能で、マントとして使っているときは、背後の防御は鉄壁となる。


 それからヒーヒーは、『魔法使い』ポジションなので、一応、魔法攻撃をするために魔法銃を装備している。

 これはミネちゃんが作ってくれたもので、魔力を流すと突風を発射できる魔法銃なのだ。


 コンパクトで、ピストルのような形状の銃になっている。

 俺の元いた世界にあった、子供が遊びで使うシャボン玉を打ち出す銃のような可愛い感じなのだ。

 銃口も広がっていて、かなりシャボン玉銃に近い感じなのである。


 そして調整機能が付いていて、風圧を絞り威力を高めて射出する『凝縮モード』と、拡散して強風を放出する『拡散』モードがある。

 『凝縮モード』は、銃弾のように相手を穿つことができるし、『拡散モード』は、相手を吹き飛ばすという使い方なのである。


 『魔法銃 突風銃』という名前になっている。

 これも『極上級プライム』のアイテムだ。


 ヒーヒーは、ひな壇の上から兵士たちに向けて、『突風銃』を『拡散モード』で発射した。


 突然、突風にあおられた兵士たちは、地面に転がった。


 ただ……転がっただけで、意識を失っているわけではないので、無力化はできていない。


 だがその状態の兵士たちの首や顔に、針が刺さり次々に麻痺していった。

『ヒーラー』ポジションのリザルと『ひな壇バギー』を操縦している『斥候』ポジションのワオンが、『吹き矢』を吹いたのだ。

『正義の爪痕』から前に没収していた『連射式吹き矢』を使って、麻痺毒の針を打ったのである。

 うまく連携して、無力化できたようだ。


 それにしても……『吹き矢』の精度が高い。

 前にニアが、猿たちは『吹き矢』を使うのがうまいと言っていたが、本当のようだ。


 『ワオキツネザル』のワオン用の武器として、輪投げで使う輪のような形の投擲武器を作ってある。

 チャクラムと言っていい武器で、切れ味が鋭いので今は使わなかったようだ。

 兵士を切り殺してしまいかねないからね。


 これで、ほとんどの特別騎馬隊の兵士は無力化できた。

 だが大物が一人残っていた。

 ヤーバイン将軍である。


 今は『マンドリル』のドリルンが、適度な距離を保ちながら牽制している。

 ヤーバイン将軍は、将軍だけあってレベルが45もあるのだ。


 レベル差が結構あるから、ドリルンが一人で倒すのはかなり大変そうだ……。


 レベル差が大きい相手には、パーティーで臨んだほうがいいだろう。


「ニア、そろそろ皆を集めて、ヤーバイン将軍に対峙させたらどう? ドリルンが結構大変だと思うんだけど」


 一応、ニアに声をかけてみた。


「そうね! もう他の兵士は粗方片付いたから、そうするわ」


 ニアはそう言って、猿たちに念話で指示を送っていた。


 猿たちはすぐに、ドリルンの下に集結した。


 そして白猿の三匹ミザ、イワザ、キカザが盾役として、ヤーバイン将軍の前に並んだ。

『シールドホバー』が、三台横に並んだかたちだ。

 その後に、『ひな壇ホバー』が位置し、『マントヒヒ』のヒーヒーと『ワオキツネザル』のワオンが攻撃態勢を取った。

 ホバーの運転は、『ヒーラー』の『赤リザル』のリザルに変わったようだ。


 『アタッカー』のドリルンは、『シールドホバー』の前に立ち、ヤーバイン将軍を威圧するかのように両手に持った『パイルドリル』の機能を発動させて、ドリルを回転させだした。


 これにはヤーバイン将軍も驚き、一旦バックステップで距離をとった。


 そして、ドリルンたちをじっと見つめている。


「ぬう……『魔法の武器マジックウェポン』を使う魔物がいるとは……。七体束になられては不利だな……」


 ヤーバイン将軍は、そんな呟きを残した後、なんと一目散に逃げ出した。


 ……完全に拍子抜けしてしまった。

 猿たちも……固まっている。


 だが……ある意味、正しい状況判断かもしれない。

 彼は、ドリルンたちを普通の猿ではなく魔物と認識しているわけだし、『魔法の武器マジックウェポン』を使う常識外れな魔物が七体も固まられたら、逃げるという判断が正しいとも言える。


 だが……逃さないけどね。


 俺が指示するまでもなく、ニアが念話で指示を出したようだ。


 指名したのは、『ワオキツネザル』のワオンのようだ。

 さっき使わなかった専用武器を使わせるらしい。


 これも『ドワーフ』のミネちゃんが作ってくれたもので、『ドワーフ銀』で作られたチャクラム型の投擲武器だ。

 『輪王ワオ』という名前にしていて、階級は『上級ハイ』だった。

 『魔法の武器マジックウェポン』ではなく、あくまで通常の投擲武器なのだ。

 投擲武器なので、複数個作ってあるわけだが、タイプの違うものがいくつかあるのだ。

 その中の、切れ味ではなく打撃能力を優先したタイプを使うらしい。

 本当に輪投げで使う輪のような形になっていて、エッジの部分が丸くなっているものだ。

 エッジが太くなっている分、当たったときの打撃力があるのである。


 ワオンは、輪を構えると迷うことなく、軽い感じでシュッと投げた!


 銀色に輝く輪は、逃げるヤーバイン将軍の左膝あたりに直撃した。


 ヤーバイン将軍は、土煙を上げて地面に転がっている。


 ボキッと音がしていたようなので、骨というか膝をやられたんじゃないだろうか……。


 もうこれで動けないだろう。


 なんとなくだが……対処するメンバーや武器を変えれば、怪我をさせずに無力化することもできた気がするが……ニアさんがお仕置きという意味で、あえてヤーバイン将軍に怪我をさせたような気がする。

 まぁ俺もそんな気持ちだから、異議は無いけどね。


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