871.十二年ぶりの、再会。

「なによ! いくら十二年ぶりだからって、私の声忘れたわけ!? あー見かけは、ちゃんと十二年分歳とっているから。まぁ覆面でわからないと思うけどさぁ。それにしても、あんた全然変わらないわね。さすが妖精族ね」


 突然助っ人として現れた全身黒ずくめの覆面女は、ブルールの驚きの声にそう答えた。


「やっぱオカリナね! どうしてここにいるの?」


 ブルールは、突然現れた覆面女を旧知のオカリナだと確信した。


「まぁいろいろあってさ。あなたの里を探そうと思って情報を集めてたの。そしたら城で轟音がして、来てみたらあなたがいたからびっくりよ。しかも兵士と対峙してるし。あなたと貴族の会話を聞いて、拐われた仲間を探しに来たって知ったわけ。ブルールなら助けに入らなくても大丈夫と思って、あなたが注意を惹き付けている間に、私と仲間たちで城の中を探したわけよ。仲間が城の構造を把握してたから、地下牢に行ってみたら一発だったわ。超短時間で見つけちゃった! すごいでしょ!?」


 緊迫した状況であるにもかかわらず、オカリナはどこか楽しそうに答えた。


「まったく、あなたって、相変わらず滅茶苦茶なのね。十二年振りの再会に、こんな登場するなんてね……」


「私だってびっくりよ! まさかここにあなたがいるなんて、思わないじゃない。しかも騒動に巻き込まれてるし」


 戦いの最中なのだが、二人は楽しそうに話していた。

 しかもそれは、襲ってくる兵士を倒しながらの会話であった。

 兵士への対処のために、お互い視線こそ合わせないものの、十二年の歳月が一瞬で縮まる楽しい時間ですらあったのだ。


「それにしても……オカリナまた強くなったの? 何か触るだけで、相手が動けなくなってるけど……すごいわね」


 ブルールは、久々に見るオカリナの動きに、感心していた。


「そうなんだよ。最近手に入れたスキルが、これまた使えるのよ!」


 オカリナは覆面の下でほくそ笑み、動きを加速し、数人まとめて麻痺させた。


「なるほど。スキルを使ってるわけね……。傷つけずに拘束するにはいいわね。後でゆっくり教えて」


「オッケー!」


 二人の気持ちは、完全に十二年前の攻略者パーティーだった頃に戻っていた。


 オカリナが使っているスキルは、グリムの『絆』メンバーになることによって手に入れた『共有スキル』である。

 グリムたちがよく使う『状態異常付与』スキルで『麻痺』を付与したのだ。

 このスキルは、対人戦で相手を無力化する場合に非常に便利なスキルなのである。



 二人の軽やかな会話が一段落ついた頃、すべての兵士たちが無力化されていた。


 残るは、次期領主のボンクランドのみとなった。


「ワ、ワシに手を出したら、お前の仲間の命はないぞ!」


 ボンクランドは、声を張り上げ虚勢を張った。


「残念でした。もう助けてあるから。あなたに切り札は無いのよ」


 オカリナが、からかうような口調で言い放った。


「な、なに……おのれ……」


 せっかく捕らえた『コボルト』を奪還されたことを知り、人質という切り札を失ったボンクランドは、体制を立て直すため一旦逃げることを選択した。

 そして、一目散に走り出した。


「土魔法——地面壁グラウンドウォール!」


 ブルールは、狙いすましたようにボンクランドの逃げる軌道上に土の壁を出現させた。


「わぁ!」


 ——ゴズンッ


 ボンクランドは、突然現れた壁に激突し、顔面を強打した。

 そして、鼻の骨を折り大量の血を流しながら、気絶した。


「これでおしまいね」


 ブルールは、「ふう」とため息をついて、地面に腰を下ろした。


「そうね。ありがとう。助かったわ」


 オカリナもブルールの隣に腰を下ろした。


「礼を言うのはこっちよ。仲間を助けてくれてありがとう。てか、いい加減顔見せてよ」


「あーそうね、忘れてたわ」


 オカリナはそう言って、覆面をとった。


「わお、相変わらず綺麗な顔してるけど……しっかり十二年分歳とったわね」


「ちょっと! 大人っぽくなったって言いなさいよー」


「まぁそういうことにしてあげるわ。ふふふふふふ」


「なによもう! あはははは」


 騒動の中、ほんの一瞬であるが、親友の同士の楽しい時間が流れた。






 ◇






 俺と分身である『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーは、『飛行』スキルを使ってニアとともに飛び立ち、『領都コバルト』の外壁を越えた。


 中の様子を上空から確認すると、なぜか兵士同士が戦っている。


 外から感じた騒々しい雰囲気は、これが原因だったようだ。

 おそらくだが……反乱を起こした側の兵士と、それをよしとしない兵士が争っているのだろう。


「ナビー、悪いけど、この兵士たちの無力化を頼んでもいいかい?」


「かしこまりました。最短で無力化しておきます。お任せを」


 兵士たちをこのまま争わせおくと、死者が増えるばかりなので、ナビーに無力化を頼んだ。

 ナビーなら、すぐに無力化してくれるだろう。

 それなりの数の兵士がいるので、本当は頭数が欲しいところだが、今からメンバーを呼んでくるよりは、ナビーが高速で動き回って無力化したほうが早いと思う。

 まぁそこら辺の判断は、ナビーに任せるんだけどね。


 俺とニアは、領城に急いだ。


 領城に着くと……なんてことだ……。

 やはり遅かったようだ。

 多くの死体がある。

 子供の死体もあるのか……?

 許せない……。


 城の別館のような建物が半壊し大きく崩れていて、多くの人が下敷きで亡くなったようだ。

 そしてその周りには、斬り殺されたような貴族や子供たちの遺体がある。


 その周囲には、多くの兵士の死体が転がっている。


 いや……死体ではないのか……?

 動けなくなっているだけか……?


 その真ん中には、二人の女性が腰を下ろしている。

 一人は全身黒ずくめで怪しい感じだが……あれ……オカリナさん!?


 俺とニアは、急いで降り立った。


 やはりオカリナさんだ!


「グリムさん、ニア様」


 オカリナさんが驚いて立ち上がった。


「オカリナさん、どうしてここに?」


「グリムさんこそ、どうしてここに……?」


「ここで反乱が起きているという情報があり、飛んできたんですよ」


「……やはり反乱だったんですね。首謀者の男と兵士は、すべて無力化しておきました」


 オカリナさんは、軽い感じでそう答えてくれた。


 なんと、反乱を鎮圧してくれたのは、オカリナさんだったらしい。


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