857.的確な、ニアさん。
ビャクライン公爵家長女で、見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんは、『怪盗イルジメ』ことオカリナさんが、前世での大親友だった梨那さんであることがわかり、本当に嬉しそうだ。
二人の女子トークの盛り上がりをみれば、いかに仲良しだったか想像がつく。
今後なるべく一緒にいたいということで、ハナシルリちゃんは、オカリナさんを自分の家庭教師にするという案を考えたようだ。
それを両親に認めてもらって、毎日一緒にいれる時間を作るという構想なのだが、その際ポイントとなるのは、転移の魔法道具である。
オカリナさんは王都に住んでいるので、転移の魔法道具があってこその作戦なのだ。
そんなこともあり、先程ハナシルリちゃんから転移の魔法道具の貸し出しをおねだりされていたので、俺は早速、予備の中からオカリナさんに貸し出すことにした。
「ありがとうございます。転移の魔法道具を手にする日が来るなんて……。ほんとに嬉しいです。実は……機能が限定された転移の魔法道具は持っているんですが、自由に転移できる魔法道具があったらいいなと思っていたんですよね……」
オカリナさんが、大喜びでそんなことを言った。
「機能が限定された転移の魔法道具っていうのは、どういうものなんですか?」
少し気になったので、尋ねてみた。
「『
「そんな魔法道具があるんですか? 知りませんでした。どこで手に入れたんですか?」
「攻略者をしているときに、一緒にパーティーを組んでいた『コボルト』の子が持っていたもので、パーティーを解散するときにくれたんですよね。とても貴重なものだと思います」
「そうでしょうね。特に迷宮攻略なんかでは、役立ちますよね。危険を回避することができますもんね。帰還できるのは、一人だけですか? 何人か連れていけるんですか?」
「基本は一人用みたいなんですが、手を繋いだり、抱きしめたりすれば、一緒に帰還できました」
「なるほど、それはすごいですね。周りの人も脱出させられるのは大きいですね」
俺がみんなに貸し出している『ドワーフ』族が作っている転移の魔法道具に比べれば性能は劣るが、普通で考えたら貴重で素晴らしい魔法道具だと思う。
緊急脱出ができるんだから、誰もが喉から手が出るほど欲しがるだろう。
「これが子機の腕輪です」
オカリナさんはそう言って、左腕を出した。
青っぽい色の腕輪が、手首より少し上の位置についている。
アクセサリーにしか見えないので、誰も魔法道具とは思わないだろう。
これならいつでも、付けておける感じだ。
「お洒落なデザインで、いいですね。いつでも付けておけますね」
「そうなんです。邪魔にならないから、助かるんですよ。親機は家に置いてあるので、今度お見せしますね」
「ありがとうございます」
「ねぇねぇ、ところでさぁ、実際どういうスケジュールで毎日会うか決めちゃおうよ! 実際問題、毎日外出して大丈夫なわけ?」
ハナシルリちゃんが、俺との話が終わるのを待ちきれないという感じで、オカリナさんに話しかけた。
すごいニコニコ顔だ。
「うん。基本的には問題ないわ。お店は成人してる子たちを中心に、子供たちが手伝ってくれてるの。私がいなくても回っちゃうわ。小さな子の面倒も、年嵩の子たちが見てくれるから、日中はたぶん大丈夫ね」
「じゃぁさぁ、基本的に午後に来てもらって、夕方まで先生をやってもらうことにしようよ。その後は、もし行ける時は一緒に秘密基地の訓練にも行って……夕飯は一緒に取れなさそうだから、そこで解散ということでもいいと思う」
「そうね……そうしようかしら。でもビャクライン家は大丈夫なのかしら? 元怪盗を先生にするなんて……」
「それは大丈夫よ。父上は言いなりだし、母上は……私が真剣に頼めば、何かあると思って聞き入れてくれるわ。それに、梨那はみんな大好き『怪盗イルジメ』だし、王家の血まで引いているってことがわかったから、むしろ喜ぶんじゃないかしら。『怪盗イルジメ』大好きな国王陛下やうちの父上まで、一緒に勉強したいって参加しそうで怖いけどね。むしろそっちの対策の方が必要だと思うわ」
「だったらいいけど。あと、確かにせっかく会えるのに二人きりの時間が作れないと辛いから、他の人に干渉されないように一工夫必要ね」
「まぁそれは私がどうとでもできそうだから、任せといて。ところでさぁ……今育ててる子供たちは、将来どうするの? 上の子たちのように、希望するなら怪盗として育てるわけ?」
「上の子たちも、怪盗にするつもりじゃなかったんだよね。この世界は常に命の危険があるから、自分の身を守れるようにと思って小さな頃から色々と教えてたんだけど、ある程度力をつけると弱い人のために力を尽くしたいって言って、怪盗になっちゃったんだよね。私もそんな気持ちで始めたから、強くは止められなかったのよ。ただ危険な仕事だから、ほんとはやめて欲しかったの。だから今回、ルセーヌが認められて特別な仕事をもらったという話を聞いて、他の子たちもその仕事をやらせてもらえないかと思って、お願いに来たのよ。確かな人の後ろ盾がある形で、人々を助ける仕事をした方が安心だもの。だから今育てている子たちにも、自分の身を守るための英才教育をするけど、その力は怪盗ではなくて、違う形で発揮させてあげたいんだよね。ただそこは、誰と仕事をするかっていうのが重要よね。怪盗になった子たちも、衛兵とかになるという選択肢もあったけど、組織に入ると……組織のトップが腐ってたらしょうがないじゃない。そんなこともあって、自由な怪盗になることを許しちゃったのよね」
「じゃぁさぁ、将来的にグリムの仲間になって、一緒に働くっていうのがいいかもよ。『フェアリー商会』もあるから、普段は楽しく商売をして、夜になったら虐げられている人たちを助けるなんて活動してもいいかもしれないし。まぁ夜の活動は別にしても、『フェアリー商会』なら様々な分野の仕事をやってるから、何かしらやりたい仕事が当てはまるんじゃないかと思うわ。もし騎士になりたい子とかがいるなら、多分グリムが将来私設の騎士団とか作ると思うから、それに入ればいいと思うわ。下手したら国を作る可能性もあるから、文官のような仕事もきっとあるわよ。いずれにしろ、私たちと一緒にやっていけば大丈夫よ!」
ハナシルリちゃんはそんな話をして、ちらっと俺を見た。
というか……また本人を目の前にして、勝手に話を作っている……。
本当にやめてほしい……。
私設の騎士団を作るつもりはないし、国を作るつもりもないんですけど……。
俺がそんな面倒くさいことを、するはずがないじゃないか!
ハナシルリちゃんは、まだ俺の分析が甘いんじゃないだろうか……。
これがニアさんだったら、俺がそんなことを望まないのは十分わかっているはずだ。
そう思ったせいか、ちらっとニアを見てしまった。
ニアは、なぜか悪い笑みを浮かべている。
「グリムはさぁ、面倒くさがりだから騎士団を作ったり、国を作るっていうつもりはないだろうけど、今までの例から言って、人々のためにやむを得ず騎士団を作ったり、国を作ったりってことは、十分あり得るのよね。断れずに、なし崩し的にみたいな展開もあり得るし。この先いろんな展開があり得るけど、いずれにしろ面白いと思うから、一緒にいれば大丈夫よ。子供たちも、私たちも仲間……家族として迎え入れるわ。梨那ちゃんが育ててる家族なんだもん、私たちの家族でもあるわよ。私たちって、人型じゃない仲間も含めて、超絶ビックなファミリーだから!」
ニアはそう言って、親指を突き出した。
てか……なにそれ!
ニアさんは、わかってくれていると思ったのだが……。
いや……わかってはくれているんだよね。
俺が面倒くさいことを望まないというのをね。
そしてそれ以上に、俺の状況を予想している。
確かにニアが言う通り、今までの例からすれば、望まなくてもそういう状況になる可能性はあるんだよね……。
ある意味、俺よりも俺の今後の展開を柔軟に予想できている……。
さすがニアさん。
……いやいや、そんなことに感心しちゃダメだ!
私設騎士団なんて作る気ないから! 国なんてもっと作る気ありませんから!
というか……よく考えてみると……大森林やそれと隣接している霊域は、すでに浄魔たちや霊獣たちの国みたいなもんなんだよね。
そういう意味では、もう国を持っていると言っても良いのかもしれない。
人の国ではないけれどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます