849.コウリュウド王国の、迷宮に挑む者。

 ユーフェミア公爵は、俺たちのために、迷宮攻略者のランクというものについて説明してくれた。


『コウリュウド王国』の王家直轄領にある迷宮都市『メリュウド市』には、国の機関として『攻略者ギルド』があり、迷宮に挑む攻略者の管理をしているとのことだ。


 迷宮攻略に挑む者は、『攻略者ギルド』に登録しなければならない決まりになっているらしい。


『攻略者ギルド』では、攻略者を実績に応じてランク付けしているとのことだ。


 迷宮内で倒した魔物の『魔芯核』は、原則として『攻略者ギルド』で売却する決まりになっていて、その販売実績が評価の大きな要素になっているそうだ。


 あとは迷宮の到達深度や倒した魔物などを総合的に判断して、ランク付けを行うのだそうだ。


 ただ、ランクはあくまで名誉的なもので、ランクが高いからといって、ただちに何かを与えられるということは無いらしい。

『攻略者ギルド』での取り扱いが、丁重になったり多少の優遇措置があるという程度のようだ。


 それでもほとんどの攻略者は、一つでもランクを上げようと努力しているとのことだ。

 命をかけた実力主義の世界なので、ランクが高い者が尊敬を集めるらしい。

 それゆえ、高みを目指すのは当然のことのようだ。

 また、ランクが高ければ攻略者を引退した後に、貴族の私兵に高額で採用されたりなど、第二の人生も開けるらしい。


 『攻略者ギルド』で付けられているランクは、上から『ゴールド』『シルバー』『ブロンズ』『アイアンハイ』『アイアンミドル』『アイアンイージー』となっているとのことだ。


 初心者や攻略者登録したばかりの者は、実力やレベルに関係なく皆『アイアンイージー』からスタートするらしい。


 その後、実績に応じて『アイアンミドル』『アイアンハイ』と上がっていくそうだ。

『アイアンハイ』になると、一流の攻略者と認識されるらしい。


 オカリナさんは、『アイアンハイ』ランクだったそうなので、一流の攻略者だったということだ。


『アイアンイージー』『アイアンミドル』『アイアンハイ』の三つのランクをまとめて、『アイアンランク』と言い、ほとんどの攻略者は、これに属するらしい。

 一般に『アイアンの攻略者』と称されるそうだ。


 そして一握りの優秀な攻略者が、『アイアンランク』を超えて、『上位ランク』と呼ばれる『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』のランクになるらしい。

『ブロンズの攻略者』とか『シルバーの攻略者』と称されるそうだ。


 実際は『上位ランク』になれる攻略者は、ほんの一握りで、しかもほとんどの攻略者は『ブロンズ』止まりらしい。

『シルバーの攻略者』は、数十年に一度が出るかどうかというレベルとのことだ。

『ゴールドの攻略者』に至っては、過去に英雄的な攻略者が何人か認定されただけで、事実上は取得不可能なランクと言われているらしい。

 千二百年の『コウリュウド王国』の歴史の中で、『ゴールドの攻略者』は八組のみで、現代では『ゴールドの攻略者』はいないそうだ。

 話を聞く限り、百年に一組も出ないという難しさのようだ。


 現代の攻略者事情としては、『シルバーの攻略者』が事実上のトップ攻略者ということで、国民的ヒーローでもあるそうだ。


 つい最近まで『シルバーの攻略者』のパーティーが一組いたようだが、引退してしまい、現役の『シルバーの攻略者』は、一人もいない状態になってしまったらしい。


 現役の『ブロンズの攻略者』パーティーは三組いて、『シルバー』昇格を目指して、しのぎを削っているという状況なのだそうだ。


 聞いた話を、自分なりにまとめると……『ブロンズの攻略者』は、一流の攻略者中で事実上のトップランカーと言って良い存在のようだ。

『シルバーの攻略者』になると、完全なトップで超一流の攻略者と言える。

『ゴールドの攻略者』は、伝説の攻略者とでもいったところだろう。


 こんな感じのまとめを披露しつつ、もう少しだけ訊いたところ、『アイアンミドル』のランクになると、なんとか食べていけるレベルで、『アイアンハイ』のランクでは普通に働くよりは、裕福な暮らしができるレベルに稼げるらしい。


 そして『ブロンズの攻略者』になれば、規模の大きなの商会の会頭と同程度かそれ以上の裕福な暮らしができるようだ。

『ブロンズの攻略者』と認定されるには様々な条件があるらしいが、認定されれば国から『名誉騎士爵』の爵位が与えられ、貴族の身分を取得できるらしい。


 ちなみに攻略者登録は、一人でもできるしパーティーで登録することもできるそうだ。

 ただ、一人で迷宮に挑むような命知らずはほとんどいないので、通常はパーティーを組んで登録するらしい。


 ランクもパーティーのメンバーに、一律に付与されるとのことだ。

 ただパーティーメンバーが多いと、それだけランクを上げるために必要な『魔芯核』の数も増えるらしく、人数が多ければ昇格に有利というわけではないらしい。


 少し興味があったので、オカリナさんはどうだったのか聞いてみたら、パーティーを組んでいたとのことだった。


 『火縄魔釣ひなまつり』という女性だけのパーティーを組んでいたそうだ。

 みんな事情があって、効率よくレベルアップするために迷宮都市にやって来ていた人たちで、はじめから二年限定のチームだったらしい。

 偶然知り合って、仲良くなったのだそうだ。


「ねぇねぇ、その時のパーティーメンバーってどんな人だったの? 今何やってるわけ?」


 ニアが辛抱たまらず、オカリナさんに質問を投げかけた。

 興味津々といった感じだ……。


「今にして思うと……すごく変わったパーティーでした。人族は私だけだったんです。もっとも目立ちたくなかったので、みんな人族に偽装してましたけどね。妖精族の『コボルト』とか……珍しい半人半妖の『ハーフエルフ』とか『鬼人族』とか……。みんなそれぞれに事情を抱えていたんで、里に戻ったり、旅に出たりという感じです。『コボルト』の子は……コバルト侯爵領にある『コボルト』の里出身と言っていました。近いですから、今度尋ねてみようと思ってるんですけどね……」


 オカリナさんは、懐かしそうに答えた。


 なんかメンバー構成がすごい……。

 妖精族の『コボルト』は、もちろん会ったことがない。

『ハーフエルフ』という言葉も聞き捨てならない……。

『エルフ』にもあったことはないが、『ハーフエルフ』か……。

 この世界には、『ハーフエルフ』がいるということだ……なんかすごい!

 もしかして『ダークエルフ』もいるのかなあ……。

 そして……エロフ……ダメだ、そんな想像しちゃいかん! 落ち着け、俺。オホン。


『鬼人族』という種族は、いわゆる鬼的な存在なのだろうか?


 この元メンバーの人たち……会ってみたい種族ばかりだ!


 オカリナさんの話では、攻略者を引退して解散した後は、会っていないとのことだ。

 居場所が分かるのも、『コボルト』のメンバーだけらしい。


 ただ近々コバルト侯爵領内にあるという『コボルト』の里を訪ねたいと言っていたから、できればその時に同行させてもらいたいものだ。

 まぁその前に、オカリナさんと仲良くならないとね。



 色んな話を聞いていたら、俺も迷宮都市に行ってみたくなった。


 そしてもう一人、目をキラキラさせて聞いている人が……ニアさんだ。


 ニアは、もともと迷宮都市に行こうとしていたのだ。

 妖精族の里を飛び出して、渡り鳥の背中に乗って迷宮都市を目指していたときに、アクシデントで大森林に落ちて、俺と出会ったんだよね。

 ニアが目指していた迷宮都市が、『コウリュウド王国』の迷宮都市だったらしい。


 だが改めて考えると……羽妖精一人で、迷宮を攻略するつもりだったんだろうか……?

 まぁニアさんのことだから、きっと何も考えずに……というか深く考えることなく、飛び出したんだろうけどね。



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