848.クレープで、参戦決定!

「生クリームはやっぱり最高なのだ! この柔らかいパンみたいなやつも、美味しすぎるのだ!」


「クレープ大好きなの〜。毎日食べたいなの〜」


「美味しすぎるのです! 甘々なのです! クレープちゃんは、薄いのにぐるぐる巻きで攻めてくるのです! 強敵出現なのです! でも食べ尽くすのです! 何種類出されても負けないのです! 絶対に食べ尽くす戦いが、ここにあるのです!」


「この柔らかさ……この食感……生クリームの美味しさ……。まさかグリムさん以外に、こんな素晴らしい食べ物を考え出す人がいたなんて……。でも私のグリムさんは、このクレープの存在を知っていたような感じです……。さすが私の一生の研究対象です。浮気することなくグリムさんを研究し続けます!」


 リリイ、チャッピー、『ドワーフ』のミネちゃん、ゲンバイン公爵家長女のドロシーちゃんが、いつものように感想を述べている。


 みんなすごく気に入ったようだ。

 あっという間に食べてしまって、おかわりの列に並んでいる。


 他の人たちも、みんなとろけ顔になって食べている。


 ビャクライン公爵と国王陛下も、表情が緩みっぱなしだ。

 食べながら、おかわりの列に並んでいる……。

 大人気無いと言いたいところだが、この美味しさじゃしょうがないだろう……大目に見よう。


 かく言う俺も、おかわりの列に並ぼうと思ってるからね。

 久しぶりに食べるグレープの味は、たまらなく美味い!


 実はクレープ、大好きだったんだよね。


「これは本当に美味しいですわぁ。チャッピーちゃんじゃないけど、私も毎日食べたいわ」


「ほんとだね。これは広めるべきだね。オカリナさん、店を増やす予定はないのかい?」


 王妃殿下とユーフェミア公爵もかなり気に入ったようで、二人でオカリナさんを囲むようにして話している。


「うちは小さな商会ですから、今のところお店を増やす予定はありません」


 オカリナさんは、申し訳なさそうに言った。


「なんだい、やっぱり目立ちたくないのかい? どこかの誰かさんとすごく似てるね……」


 ユーフェミア公爵は苦笑いしながら、俺のほうに視線を向けた。

 はて……どこかの誰かさんとは……もしかして俺のことか……?


「このクレープは、作るのはそんな難しくないんですよ。発想だけの商品と言っていいと思います。ですから、よろしければレシピを差し上げます。何ならグリムさんの『フェアリー商会』さんで、お店を出したらどうでしょう。私は全く構いませんよ」


 オカリナさんはそう言って、意味ありげな笑みを浮かべ、俺の方を見た。


 なんだろう……?


 もしかして……俺がクレープの存在を知っている……つまり転移者か転生者だと思っているのかな……?


「こんなに美味しい甘味は毎日でも食べたいので、レシピをいただけるなら嬉しいです。『フェアリー商会』でやるかどうかは別にして、三日後に領都セイバーンで行われる『美味い屋台決定戦! 屋台一番グランプリ』という食のコンテストに出品してはどうでしょう? 」


 俺は、そんな提案をしてみた。

 もちろんクレープの作り方は、レシピを貰わなくても知っている。

 実は、どこかのタイミングで、クレープもリリースしようと思っていたのだ。

 先を越されたような感じになったが、まぁいいだろう。


 甘味の少ないこの世界では、クレープもたちまち大人気になること間違いなしだ。


 王都だけとはいえ、もうこの異世界にリリースされているんだったら、コンテストに出して大々的に広めちゃったほうがいいと思うんだよね。


「コンテストですか……?」


 オカリナさんは、突然の提案に判断しかねているようだ。


「師匠、面白そうじゃないですか! せっかくだから、やりましょう!」


「運営は、私たちがやりますよ!」


「そうですよ! 人々が喜ぶ顔が見たいし、やりましょうよ!」


 『怪盗ジイゲイン』のダイスくん、『怪盗ゴウエモン』のイシカさん、『怪盗フウジィコ』のミーネルさんが賛同してくれた。


「師匠、目立つのが嫌だったら、『フェアリー商会』さんの屋台として出したらどうですか? それなら『花園商会』の名前も出ないし! 美味しいものや美しい花で人々が笑顔の花を咲かせて、そんな笑顔の花が集まる花園を作るというのが『花園商会』の理念なんだから、やりましょうよ!」


 元『怪盗ラパン』のルセーヌさんが、師匠のオカリナさんの気持ちを思いやって、そんな提案をした。


 そして『花園商会』の理念をさらっと披露していたが……なかなかに素晴らしい!

 そういう意味が込められた花園だったのね。


「……そうね。グリムさん……『フェアリー商会』として出店してもらえるなら、この子たちがやりたいようなのでお願いしようと思いますが、構わないかしら?」


 オカリナさんは少し逡巡した後に、俺の方を向いてそう言った。


「もちろん構いませんよ」


 俺は了承し、新たに『クレープ』屋台の出店が決定した。 


 その後、みんながおかわりを楽しんでいる間に、オカリナさん達に『美味い屋台決定戦! 屋台一番グランプリ』の内容を伝え、簡単な打ち合わせをした。

 当日は、ダイスくんとイシカさんとミーネルさんが屋台を運営することになった。


 ちなみに屋台で出す『クレープ』のメニューは、『ブルーベリー生クリーム』『ミックスベリー生クリーム』『バナナ生クリーム』の三種類になった。

 他にもいろんな種類が考えられるし、チョコレートを入れて『バナナチョコレート生クリーム』もメニューに入れたかったのだが……今回は生クリームの美味しさを前面に出すために、この三種類にしたのだ。

 本当はイチゴがあるとよかったのだが……いわゆるイチゴ……俺が思っているようなイチゴは、まだ見つけられていない。

 イチゴのように大きい野イチゴは見つけているが、今回は見送ったのだ。



「オカリナさんは、ずっと王都で暮らしていたんですか?」


 出店の打ち合わせが一段落したところで、俺は気になっていたことを尋ねてみた。


「いいえ、十七歳までは、王家直轄領の迷宮都市『メリュウド市』に住んでいました」


 迷宮都市に住んでいたのか……もしかして……


「冒険者だったのですか?」


「はい。『コウリュウド王国』では、冒険者を攻略者と呼ぶのですが、十五歳から二年ほど攻略者をしていました」


 オカリナさんが、俺の間違いを訂正してくれた。


 そういえば……『コウリュウド王国』では迷宮に挑むものを『攻略者』と言い、迷宮都市には『攻略者ギルド』があるという話を前に聞いていたっけ。


「なるほど……『怪盗イルジメ』は、元『攻略者』だったか……。それは納得さね。十年もの間、捕まらなかったはずだ。『攻略者』としても結構いいランクだったのかい?」


 ユーフェミア公爵が大きく頷きながら、嬉しそうに尋ねた。


「いえ、それほどではありません。辞めるときには『アイアンハイ』でした」


「なるほど……。目立ちたくなくて、そこで止めたんだろう? 本当はもっと実力があったんだろうね……」


 ユーフェミア公爵は、含み笑いを浮かべた。


 今のところ、ランクについてはよくわからないが……ユーフェミア公爵は本当の実力を隠して、無難なランクで留めていたのだろうと予想しているようだ。


 まぁ今までの話を聞く限り、多分その予想は当たっているよね。


 それにしても……二年間迷宮攻略に挑んでいたとは……おそらく、かなりの実力がある人なのだろう。

 そうでなければ、十年間も捕縛を逃れるなんて、できないよね。



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