844.微妙な名前の、怪盗たち。
以前『コウリュウド王国』を騒がせたという義賊『怪盗イルジメ』は、元『怪盗ラパン』のルセーヌさんの師匠であり、姉のような存在ということだった。
そのイルジメさんがわざわざ訪ねて来て、ルセーヌさんがお世話になっているユーフェミア公爵と国王陛下、王妃殿下に挨拶をした。
イルジメさんは、義賊とは言え、盗人であり法を犯した罪人である。
俺は知らなかったのだが、『怪盗イルジメ』には懸賞金がついているらしい。
重罪人ランクの懸賞金で、三千万ゴルとのことだ。
そんな大罪人である『怪盗イルジメ』は、庶民のヒーローであり、かなり人気があるようだ。
この国の為政者である国王陛下をはじめ、王妃殿下やユーフェミア公爵も、内輪の事とはいえ、ファンだと公言してしまっている。
今回、イルジメさんに会えて、みんなあからさまに大喜びだ。
一般の国民や普通の役人には、絶対に見せられない姿なのだ。
『怪盗イルジメ』は、義賊と言われているだけあって、私腹を肥やしている不正役人、横暴な貴族、悪徳商会だけをターゲットにし、盗んだ物は貧しい人たちに分け与えるという活動をしていたようだ。
また助け出せる人たちは、助け出していたらしい。
悪事の証拠をつかみ、それを衛兵の詰所に密かに置いてきたり、犯罪者を拘束して詰所に置いたりということも行っていたそうだ。
そんな義賊働きが有名になり、国民的なヒーローになったようだ。
役人や衛兵の中にも、隠れファンのような人たちがいたらしい。
この国のトップである国王陛下自らが、隠れファンなのだから、そんな人たちがいるのも無理はないことだ。
ただ、いかに人々の人気が高くても、法を犯した罪人であることに変わりはないので、国としては、活動が盛んだった当時は血眼になって捕縛に努めたらしい。
だが、全く捕まえることができなかったし、正体に繋がる痕跡すら見つけることができなかったとのことだ。
いかにイルジメさんが優れているのかがわかる。
まぁ……衛兵の中にも隠れファンは多かったみたいなので、全員が全力で捜査したというわけではないのかもしれないが……。
そんなイルジメさんも、先ほど聞いた話によれば二年前には足を洗い、引退したそうだ。
その後、『怪盗イルジメ』を引き継ぐように現れたのが『怪盗ラパン』だったらしい。
この半年ほどの間は、『怪盗ラパン』に続き、様々な義賊働きをする怪盗が現れていたそうだ。
それが、ルセーヌさんの義妹弟と言える者たちらしい。
前に聞いたところによれば、ルセーヌさんは身寄りがない孤児だったところを、イルジメさんに引き取られ、育ててもらったということだった。
義妹弟たちも、同じような身の上らしい。
「ユーフェミア様、私の妹弟たちも控えております。こちらに呼んでよろしいでしょうか? 挨拶だけでもさせたいのですが……」
ルセーヌさんが改めて、ユーフェミア公爵に許可を求めた。
「そうだね。まずは挨拶を済ませて、今後の事について、みんなで話そうじゃないか」
ユーフェミア公爵は、上機嫌で許可を出した。
ユーフェミア公爵は、ファンだというイルジメさんに会えただけでかなり嬉しそうだったし、そのイルジメさんから願ったり叶ったりの申し出をされたから、完全に上機嫌だ。
ルセーヌさんの義妹弟たちの面倒も見てほしいと頼まれ、イルジメさん自身も力になりたいと申し出てくれたのだ。
……ルセーヌさんがこの部屋に連れて来たのは、三人の男女だ。
皆若く、十代に見える。
以前確認したときに、ルセーヌさんは二十二歳ということだったが、ここに来た人たちは十代後半に見える。
「私は、『怪盗ジイゲイン』ことダイスと申します」
最初に挨拶したのは、細身でスラットした茶髪のイケメン男性だ。
アイドル風イケメンではなく、精悍なアスリート風なイケメンだ。
黒っぽいスーツのようなデザインの服を着て、中折れハットを被っている。
さすがにヒゲは生やしていないが、とてもダンディーな感じだ。
「私は、『怪盗ゴウエモン』ことイシカと申します」
次に挨拶したのは、スラットした長身の銀髪ロングの女性だ。
スレンダーで、物静かな感じの美人だ。
袴のような感じの白いスカートを履いて、水色の和服っぽいデザインのブラウスを着ている。
「私は、『怪盗フウジィコ』ことミーネルです」
最後の一人も女性で、オレンジっぽい赤髪を胸まで伸ばしたナイスバディの美人だ。
イルジメさん並みに、グラマラスだ。
イルジメさんが着ているセクシーなワンピースと、色違いのようなデザインのセクシーなドレスを着ている。
そのオレンジ色のドレスは、イルジメさんと違って丈が膝上まで短くなっている。
美脚を露わにしているのだ。
怪盗のネーミングといい、着ている服といい……俺が好きだったアニメの大泥棒のチームのメンバーを彷彿とさせる。
おそらく……このプロデュースは、師匠のイルジメさんだと思う。
そう考えると、やはり彼女は、転移者か転生者である可能性が高い。
さっきは確認するのを忘れていたが、この子たちとの挨拶が終わったら、申し訳ないがこっそり『波動鑑定』でステータスを確認させてもらおう。
先程、イルジメさんと挨拶を交わしたように、ここにいるメンバーが一言ずつではあるが、この現役怪盗の三人にも挨拶をした。
俺は知らなかったのだが、『怪盗ラパン』のルセーヌさんだけではなく、ここにいる三人の怪盗も、最近名前を轟かせているとのことだ。
『コウリュウド王国』の各地で、義賊働きをしているらしい。
そして、盗みを働く対象が、見事に悪事を働いている商会や不正役人、不良貴族であるために、実は国王陛下の密偵なのではないかという噂まで立っているとのことだ。
まことしやかに、噂が広まっているらしい。
その話を国王陛下が自らして、上機嫌に笑っていた。
普通は上機嫌に笑っている場合ではないと思うのだが……。
まぁ結果オーライということでいいのだろう。
この怪盗の皆さんは、今後ユーフェミア公爵の配下になるとはいえ、事実上国王陛下直属の密偵と言っても良いかたちになる。
まさに噂通りというか……噂に実態が追いついたかたちになったのである。
実に不思議な感じだ。
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