845.密使のメダリオンと、最高密使。

 国王陛下は、今後国の為に働いてくれる元『怪盗ラパン』のルセーヌさんや、その義妹弟の怪盗のみなさんに対して、国王の勅命を受けていることを表す特別なメダリオンを発行すると言ってくれていた。


 これで万が一、衛兵に拘束されるようなことがあっても、身分を証明できる。

 まぁ余程のことがない限り、捕まるようなことはないと思うが。


 もちろん同じチームで働く敏腕デカこと『セイセイの街』の衛兵長のゼニータさんや、その部下の犬耳の少年バロンくんとゼニータさんの弟のトッツァンくんに対しても、発行してくれるとのことである。

 かなりの力の入れようだ。


 以前の打ち合わせのときには、万が一の時にセイバーン公爵領に火の粉がかからないように、『特命チーム』に対して、王の密命で動いていたと証明できる密命書を出してくれると言っていたが、それよりも更に凄いものらしい。


 皆ユーフェミア公爵の配下となり特別に組織した『特命チーム』のメンバーとなるが、セイバーン公爵領に限らず全土で活動してもらう予定なので、実質は国王陛下の直属の隠密部隊と言っても良い存在なのだ。


 そのメンバーに、特別なメダリオンが付与されるのだから……実体に形式が伴い、名実ともに国王直属の部隊と言っていいのではないだろうか。


 なんとなく……子会社で採用されたスタッフが、親会社のマーケティングを担当するみたいな……そんなイメージだろうか……。


 いずれにしろ……寄親であるユーフェミア公爵よりも、国王陛下の方がさらに上機嫌なのだ。


「後で渡すメダリオンは、もしもの時に身元を証明するだけではなく、国王の密使であることを示すものになる。だから場合によっては、君たちが役人や貴族に対して指示を出したり、拘束することも可能になる。『密使のメダリオン』という特別なメダリオンで、メダルには『王国特別令第二十九号』を示す数字があるから、役人や貴族ならその数字で国王の勅命を受けた密使であるとすぐにわかるんだよ」


 国王陛下が、補足でそんな説明をしてくれた。


『王国特別令第二十九号』とは、国王の密使に関することが定められている特別令らしく、権限なども記載されていて、役人や貴族が従わなければならないという内容のものらしい。


 最高ランクの権限を持つ特別な密使ということで、通称『最高密使』と呼ばれているとのことだ。

 現在の王国には、『最高密使』は三人しかいないらしい。


 権限は、国王の代理と言えるほどのもので、『密使非常事態宣言』という緊急事態の宣言を『最高密使』がした場合、役人や貴族は従わなければならないし、領主といえども協力する義務があるとのことだ。


 ただ『最高密使』であることが知られると、その後の活動に支障が出るので、あくまでこのメダリオンを開示して『最高密使』であることを告げるのは、最後の手段にした方が良いとのことだった。


 身分を明かす必要が生じたとしても、まずは国王の密使書を見せて、国王の指示で動いている通常の密使であることを開示するに留めてほしいとの事だ。


 それでもダメな場合に、『密使のメダリオン』を開示して、『最高密使』であることを表明するということになるのだろう。


 そして、今後の活動は、今まで通り怪盗として陰ながら人々を救ったり、事件を解決するというかたちにしたほうがいいと国王陛下は言っていた。



 こんな感じで……上機嫌な国王陛下は、さらなる補足説明と、今後の活動のアドバイスをしてくれていた。


 話を聞いて、俺が当初思った以上に凄いメダリオンだということがよくわかった。

 だがそれだけに、メダリオンを提示して『最高密使』であることを明かすと、かなりの大事になるということだ。

 そういう意味でもメダルの開示は、本当に最後の手段にしなければならないだろう。


 国王陛下は、今会ったばかりのイルジメさんとその弟子の三人の怪盗について、完全に信頼しているようだ。


 国王陛下は、イルジメさんのファンで、過去の活動からその人間性について、判断できているのだろう。


 また、すでに様々な働きをしてくれているルセーヌさんの存在も、大きいだろう。

 その働きぶりを見ているから、信頼して権限を与えても大丈夫という判断をしたのだと思う。


 話を聞いていて思ったが……なんとなく……水戸の御老公のような世直し旅ができるんじゃないだろうか。

 悪い奴を見つけて、メダリオンを見せて国王の威光の下、懲らしめるということができそうだ。


 もっとも、行く先々でメダリオンを出せば身元がバレて、その後の活動がしにくくなるだろうけどね。

 密使の存在を警戒され、悪事をあばきにくくなると思うんだよね。

 やはり密使の存在は、知られないのが一番だ。

 御老公のような世直し旅は、実際問題としては難しいのではないだろうか。


 まぁそんな細かい事は置いといて……のんびり旅をしながら、悪い奴がいたら懲らしめる的な感じで、旅を満喫したいものだ。

 悪魔の対処をするよりも、のんびりと旅をしたいけど……。

 そんなことを言ってられる状況ではないよね……トホホ。


 そんな俺の密かなボヤキの念が届いたのか……国王陛下は、俺に対してもそのメダリオンを発行すると言ってくれた。

 特に何をしろと言うわけではなく、今後の様々な活動の上で、必要になる可能性があるかもしれないから、発行してくれるとのことだ。


 そして国王陛下は、現在三人いるという『最高密使』のうちの一人が、実はツクゴロウ博士だと教えてくれた。


 尋ねたわけではないのだが、情報をオープンにしてくれたのだ。


 ただ残りの二人は、秘密らしい。


 ツクゴロウ博士の話を陛下から聞いたときに、なんとなく国王直属の隠密ではないかと思っていたが、当たっていたようだ。

 しかも、『最高密使』だった。


「国王陛下から『密使』のメダリオンがもらえるなんて、ありがたい話さね。『密使』のメダリオンを持った、怪盗が主体の『特命チーム』……面白いね! この際だから、怪盗として派手に義賊働きをして、困ってる人たちを助けようじゃないか! 善良な人たちが、負の波動にとらわれないように救うことは、この時代すごく意味があることだよ!」


 ユーフェミア公爵が、上機嫌で言った。


 公爵が組織したチームで、しかも国王陛下がお墨付きを与えたチームが行うのだから、もはや怪盗でもなければ、義賊働きでもない気がするが……。


 まぁとにかく……困っている人たちを救うことは良いことだし、それが『魔の時代』を『彩りの時代』にする一つの手段であることは、間違いないだろう。


『特命チーム』の今後の活躍に、大いに期待したいところだ。




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