835.ニアの、勘。

 約三千年前、九人の勇者たち『勇者団』が使っていた基地『勇者力研究所』を見に来た俺たちは、ユーフェミア公爵の提案で、地上部分にみんなで使う別荘を建てることになった。


 みんな乗り気で、突如打ち合わせが始まり計画を立ててしまった。


 建築自体は、『家魔法』などを駆使すればすぐにできてしまうので、今夜のうちに再度訪れて、作ってしまおうと思っている。


 地上に建物ができたら、以前あったというこの地下の基地スペースとの連絡通路を開通させることにした。


 そこで、以前通路があった場所の確認をしておくことにした。


 元『守りの勇者』である盾の付喪神のフミナさん、元『癒しの勇者』であり吸血鬼の始祖でもあるヒナさん、『勇者団』と共に戦っていた『マシマグナ第四帝国』の第四皇女で現在は船の付喪神となったエメラルディアさんに確認をした。


 この『勇者力研究所』は、上から見たとしたら大きな円形のスペースが二つ繋がったメガネのような形になっているのだが、その海側の円形スペースの方に連絡通路が接続されていたらしい。


 海側の円形スペースは、隠されていなかった方の場所だ。

 奥側にあるのが隠されていた円形スペースだ。

 前者は『オープンゾーン』、後者は『シークレットゾーン』と呼ばれていたらしい。


 『オープンゾーン』の周囲の壁に作られたいくつもある部屋の一つに、魔法エレベーターのようなものがあって、地上にあった城と繋がっていたとのことだ。

 補助的に螺旋階段も付いていたようだ。


 それがあったという部屋に、案内してもらったが、かなり大きな部屋だった。

 最初に来た時も見ているが、広いスペースで一部の壁が崩れているという印象しかなかった。

 どうやらその崩れた部分に、魔法エレベーターと階段があったらしい。



 エメラルディアさんの予想では、地上部分からの侵入を防ぐために破壊したのだろうとのことだ。

 もしかしたら、この基地を急遽撤収するときに、全員が地上に出た後に侵入者防止の為に、爆破したのかもしれない。

 瓦礫を撤去すれば、地上への通路空間が現れるはずなので、階段を設置しようと思う。


 当時あったという魔法エレベーターのようなものを本当は作りたいが、俺の技術では作れない……。


「空間を広めに作って、ホバーで上下するような装置を作ったらいいと思うのです! ミネが作っちゃうのです!」


 俺が考え込んでいる内容を察したかのように、『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんがそんな提案をしてくれた。


 確かにミネちゃんは、ホバー装置を作るのが得意だから、ホバーで上下するような乗り物を作って、それで降りてきたり登ったりすれば、ほぼエレベーターと一緒だ。

 いいかもしれない。


「ありがとう、ミネちゃん。じゃあ頼むよ」


 俺はミネちゃんにお礼を言って、簡単にいくつか打ち合わせをし、早速作ってもらうことにした。


「ねぇねぇ、この下には何もないわよね? 昨日からずっと何かを感じるんだけど……。『亜空間検知』のスキルでも、空間の揺らぎみたいなものは感じないけど……何か気になるのよね。今日も飛びまわってみたけど……まだ何かあるような気がしてしょうがないのよね。そして……この連絡通路があったという部屋を見て、より何かあるような気がしちゃうのよね……」


 ニアが、突然そんなことを言った。


 確かに、昨日みんなで船に装備をセットしているときに、ニアは一人でこの基地内をぐるぐると飛び回っていた。

 どうもあれは、気まぐれに遊んでいただけではなく、何かの違和感を感じて『亜空間検知』のスキルを使って、他に何かないか探してくれていたようだ。


「私の知る限りでは、他にはなかったと思います」


 エメラルディアさんが、腕組みして頭を傾げながら答えてくれた。


「私も、なかったと思います」


「そうね……最終決戦が終わった後に、この基地に来る事はなかったけど、その時点で何か改修や増築しているという話は聞かなかったわね……」


 フミナさんとヒナさんも、記憶を辿るように思案顔で答えてくれた。


「そうなんだぁ……。何かがありそうな気がするんだけど……。なんかすっきりしないのよね……」


 ニアはあきらめ切れないようで、この大部屋の中をぐるぐる飛んでいる。


「チャッピーは、この下が怪しいと思うなの〜。ニアちゃんの勘は、当たってると思うなの〜」


 今度はチャッピーがそう言いながら、瓦礫の辺の匂いを嗅ぐような仕草をした。


 勘がいいチャッピーが言うなら、確かに怪しいかもしれない。

 別にニアさんを信じていないわけではないが、チャッピーは最初にこの遺跡に入るときの起動スイッチの場所も見つけてくれたからね。


 ニアとチャッピーが感じている通り、まだ外に隠しスペースがあるとしたら、おそらく……更に地下か、もしくは『シークレットゾーン』よりもさらに奥側のどちらかだろう。


 まずはニアとチャッピーが気になるというこの連絡通路の下側が怪しい。

 今は瓦礫が塞いでいるのでわからないが、下側にも連絡通路が続いていた可能性もある。

 俺の『波動収納』で、この瓦礫を一気に回収してしまえば、空間が出現するかもしれない。


 好都合なことに、今この場には俺の『絆』メンバーしかいない。

 エメラルディアさんは、既に『絆』メンバーになってもらっているのだ。

 『ドワーフ』のミネちゃんは、『絆』メンバーではないが、彼女はもはや『絆』メンバーのような存在なので問題は無い。

 遠慮なしで『波動収納』を使って、瓦礫を除去してしまうか。


 ユーフェミア公爵たちも、俺が収納スキルを使って隕石を収納していたことを知っているから、今更隠す意味もないんでけどね。

 ただ……よく考えたら、あの時のことを詳しく聞かれていない。

 隕石を収納したとは、思っていないのかもしれない。

 何か特別な魔法道具などで、消したと思っているのかもしれない。


 まぁいずれにしても、この下に何かないか気になるので、『波動収納』を使って一気に回収してしまうことにした。


 目前の瓦礫を回収すると、上にある瓦礫がどんどん下に落ちてくる。

 床につく前に目視で回収し、自然落下で落ちてくる瓦礫については、全て取り去ってしまった。


 瓦礫を取り除くと、大きな空洞が広がった。

 魔法エレベーターと螺旋階段があったというスペースが、そのまま空洞として広がっているのだろう。


 問題はこの下だ。

 上の瓦礫がなくなったので、床の瓦礫を取り除いてみる。


 おお、目に見える瓦礫が回収され、下に穴が広がった。

 そして、さらに瓦礫が詰まっている。

 ただの床ではなかったみたいだ。

 上と同じ感じの空間が広がっている。


 この感じは……おそらく下に伸びる連絡通路があったのだろう。


 俺は、どんどん瓦礫を回収した。


 やはり連絡通路だったと思われる空間が、下まで続いた。

 これは完全に、この下に別空間があるようだ。


 俺は、『浮遊』スキルを使い、空中に浮かびながら残る瓦礫を回収しつつつ、瓦礫がなくなる場所まで降りていった。


 五メートルくらい降りたのではないだろうか……上にあったのと同じような大部屋がある。


 もう一つ、地下に空間があったことが確定した!


 一緒に飛んできているニアも大喜びだ。

 というかニアさんの大金星だ!


 昨日、みんなが作業中にニアが飛び回っていたことを、一人で遊んでいたと思ってしまったことを、心からお詫びしたい。ごめんね、ニアさん。


 なんかニアって……『クイーンピクシー』になって、勘のようなものが冴え渡っている。

 グッジョブ、ニア!


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